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三章 「刻印消し」
28.襲来
しおりを挟むあれからもう二年以上が経つ。あの時に見たバル爺の顔は今でも忘れられない。
俺も結局はバル爺に拾われ、豊かな衣食住を与えてもらった。大賢者とその候補という立場の他にどん底だった俺を救ってくれた恩人でもあるのだ。
それはボルも同様。恐らく同じような想いがあいつの心の底にあったのだろう。
バル爺の懇願を舌打ちしつつも素直に飲み込んだ時は驚いたものだ。
結果、俺たちはバル爺の必死の願いで転移修行の実験台になることを決意したわけだ。
そしてもうかれこれ二年、未だその真相には至っていない。
ただその真相に至るための手掛かりはなんとか見つけることができた。
そう、この世界に賢界の者は誰一人いないはずなのに俺たちと同じような刻印(メルツ)を持つ二人の少女のことだ。
♦
時は現在へと戻る。
「……うーむ」
俺は尾行していた。あの大きな背中を持つ竜人族の男を。
「―――まず、メロディアとまともに話せるのか?」
昨晩、ボルは例の刻印の件についてメロディアに聞いてみると言い、書庫の隠し部屋から俺とクローレを置いて出て行った。
次の日、ボルの部屋に行って情報を聞き出そうとしたがまだ話していないというからどうしたものかと思ったらまさかの接し方が分からないという回答が飛んできた。
実際、ボルの役を俺がやれば一発なのだがプライドの高いあの竜人は自分でやると言い出して聞かなかった。
だからこうして尾行してボルを監視しようってわけ。
「メロディアに何かあってからでは遅いからな」
ボルはテンパると暴走する癖がある。コミュニケーション能力が欠如している者によく見られる傾向だ。
もちろん、生半可な尾行ではすぐに気付かれてしまうので周辺に探知阻害の結界を張っている。
さすがのボルでもこれには気づかないだろう。
「お、メロディアの部屋の前に来たな」
ボルの部屋からやく二分ほどかけてメロディアの部屋の前までたどり着く。
そう思うとこの屋敷の広さがどれほどのものか実感できる。未だに入ったことのない部屋が何個もあるくらいの広さだ。
正直、四人で住むには広すぎるなんてレベルではなかった。
「……」
ボルはメロディアの部屋の前で無表情のまま立ち尽くす。
他の人にはただ何も考えずぼーっとしているようにしか見えないが俺には分かる。
(何か考え込んでいるな……)
ボルがぼーっとしているときはかなり脳をフル回転させて考え込んでいる証拠だ。
おおよそメロディアとの第一声をどうしようかなんてことを考えているのだろう。
「……よし、これなら完璧だ」
(お、結論が出たようだな)
ボルはコンコンと二回ドアをノックする。
すると、
「は、はぁーい」
部屋の中からメロディアの声が聞こえてきた。
ガチャリと扉が開き、メロディアが顔を出す。
「あ、ボルゼベータさん。どうしたん……」
「おい女、今すぐ中へ入れさせろ!」
メロディアの言葉を遮り、大声で命令するボル。
(う、うわぁめっちゃ上から目線……)
らしいといえばらしいけど色々言葉足りない気もする。
その証拠に……
「え、な、中ですか? で、でも……」
(かなり動揺しているなありゃ)
まぁあんな反応になるのも仕方ない。今までドライな対応をしてきた相手がいきなり自分の部屋の中へ入らせろと頼んでくるのだ。
俺がメロディアだったら間違いなく扉閉めているわこれ。
「おい、女。我の命令が聞けぬのか!」
「いや、でも今ちょっと散らかってて……」
「そんなことはどうでもいい。さぁ、早く中へ入れさせろ!」
いや、そこは「分かった、少し待ってやる」で済むでしょうが。
なんでこう上から目線なんだあいつは……
(でもまぁ……勝手に中へ入らないだけマシなのか?)
ボルの怒涛の威圧にメロディアは考え込むような表情を見せる。
だが彼女も彼女で人が良すぎるのか、
「わ、分かりました。少し散らかっていますけど……」
扉を全開にし、中へ入るよう伝える。
俺もすぐに追いかけようとしたその時だった。
「だ、誰か! 助けてぇぇぇぇ!」
……!?
どこからか女の子の叫び声が聞こえてくる。
「これは……クローレか?」
声のした方向は玄関前のロビーの方からだった。
俺はすぐに結界を解除、現場へと急行する。
ボルたちもその声に気付き、後から追ってきた。
「おいレギルス、今の声は……」
「ああ、間違いなくクローレだ」
「まさか……いやそんなはずは……」
「ん、どうしたメロディア。何か心当たりでもあるのか?」
顔色を悪くし、何かに怯えるような感じを見せるメロディア。
ただ事ではないことはすぐに察した。
「早く……早く行かないとクロが……!」
「お、おいメロディア!」
高速移動系の魔法でメロディアは先を急ぐ。
(やはり……何か嫌な予感を感じたか)
「おいボル、俺たちも行くぞ。嫌な予感がする」
「奇遇だな。我もだ」
俺たちもメロディアの後を追い、ロビーまでやってくる。
すると……
「……! クロ!」
「うぅ……メ……ロ……」
ボロボロな身体、そして額からは血を流し倒れているクローレの姿があった。
「こんなところまであなたたちは一体私たちをどうするつもりなの!」
あなたたち……?
周りには誰の姿も気配もない。ただクローレがボロボロのまま倒れているだけだった。
だがメロディアは、
「早く出てきなさい卑怯者!」
声を張り上げ、誰かに問いかける。
今までで一度も見たことのないくらいの必死さが伝わってくる。
その時だ。そんな彼女の声に反応し、六つの光が一点に集中。
その光が人型に姿を変え、六人の人間が姿を現す。
「おやおや、私たちの気配に気づくようになるとは。やるようになりましたね、メロディア」
六人の白いローブを着た謎の集団。
その中央にいたリーダー格的な者が俺たちの前に出ると、そう呟いた。
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