上 下
29 / 44
三章 「刻印消し」

28.襲来

しおりを挟む

 あれからもう二年以上が経つ。あの時に見たバル爺の顔は今でも忘れられない。

 俺も結局はバル爺に拾われ、豊かな衣食住を与えてもらった。大賢者とその候補という立場の他にどん底だった俺を救ってくれた恩人でもあるのだ。

 それはボルも同様。恐らく同じような想いがあいつの心の底にあったのだろう。
 バル爺の懇願を舌打ちしつつも素直に飲み込んだ時は驚いたものだ。

 結果、俺たちはバル爺の必死の願いで転移修行の実験台になることを決意したわけだ。
 そしてもうかれこれ二年、未だその真相には至っていない。

 ただその真相に至るための手掛かりはなんとか見つけることができた。
 そう、この世界に賢界の者は誰一人いないはずなのに俺たちと同じような刻印(メルツ)を持つ二人の少女のことだ。

 ♦

 時は現在へと戻る。

「……うーむ」

 俺は尾行していた。あの大きな背中を持つ竜人族の男を。

「―――まず、メロディアとまともに話せるのか?」

 昨晩、ボルは例の刻印の件についてメロディアに聞いてみると言い、書庫の隠し部屋から俺とクローレを置いて出て行った。
 次の日、ボルの部屋に行って情報を聞き出そうとしたがまだ話していないというからどうしたものかと思ったらまさかの接し方が分からないという回答が飛んできた。

 実際、ボルの役を俺がやれば一発なのだがプライドの高いあの竜人は自分でやると言い出して聞かなかった。
 だからこうして尾行してボルを監視しようってわけ。

「メロディアに何かあってからでは遅いからな」

 ボルはテンパると暴走する癖がある。コミュニケーション能力が欠如している者によく見られる傾向だ。

 もちろん、生半可な尾行ではすぐに気付かれてしまうので周辺に探知阻害の結界を張っている。
 さすがのボルでもこれには気づかないだろう。
 
「お、メロディアの部屋の前に来たな」

 ボルの部屋からやく二分ほどかけてメロディアの部屋の前までたどり着く。
 そう思うとこの屋敷の広さがどれほどのものか実感できる。未だに入ったことのない部屋が何個もあるくらいの広さだ。

 正直、四人で住むには広すぎるなんてレベルではなかった。

「……」

 ボルはメロディアの部屋の前で無表情のまま立ち尽くす。
 他の人にはただ何も考えずぼーっとしているようにしか見えないが俺には分かる。

(何か考え込んでいるな……)

 ボルがぼーっとしているときはかなり脳をフル回転させて考え込んでいる証拠だ。
 おおよそメロディアとの第一声をどうしようかなんてことを考えているのだろう。

「……よし、これなら完璧だ」

(お、結論が出たようだな)

 ボルはコンコンと二回ドアをノックする。
 すると、

「は、はぁーい」

 部屋の中からメロディアの声が聞こえてきた。
 ガチャリと扉が開き、メロディアが顔を出す。

「あ、ボルゼベータさん。どうしたん……」
「おい女、今すぐ中へ入れさせろ!」

 メロディアの言葉を遮り、大声で命令するボル。

(う、うわぁめっちゃ上から目線……)

 らしいといえばらしいけど色々言葉足りない気もする。
 その証拠に……

「え、な、中ですか? で、でも……」

(かなり動揺しているなありゃ)

 まぁあんな反応になるのも仕方ない。今までドライな対応をしてきた相手がいきなり自分の部屋の中へ入らせろと頼んでくるのだ。
 俺がメロディアだったら間違いなく扉閉めているわこれ。

「おい、女。我の命令が聞けぬのか!」
「いや、でも今ちょっと散らかってて……」
「そんなことはどうでもいい。さぁ、早く中へ入れさせろ!」

 いや、そこは「分かった、少し待ってやる」で済むでしょうが。
 なんでこう上から目線なんだあいつは……

(でもまぁ……勝手に中へ入らないだけマシなのか?)

 ボルの怒涛の威圧にメロディアは考え込むような表情を見せる。
 だが彼女も彼女で人が良すぎるのか、

「わ、分かりました。少し散らかっていますけど……」

 扉を全開にし、中へ入るよう伝える。

 俺もすぐに追いかけようとしたその時だった。


「だ、誰か! 助けてぇぇぇぇ!」


 ……!?


 どこからか女の子の叫び声が聞こえてくる。
 
「これは……クローレか?」

 声のした方向は玄関前のロビーの方からだった。
 俺はすぐに結界を解除、現場へと急行する。

 ボルたちもその声に気付き、後から追ってきた。

「おいレギルス、今の声は……」
「ああ、間違いなくクローレだ」
「まさか……いやそんなはずは……」
「ん、どうしたメロディア。何か心当たりでもあるのか?」

 顔色を悪くし、何かに怯えるような感じを見せるメロディア。
 ただ事ではないことはすぐに察した。

「早く……早く行かないとクロが……!」
「お、おいメロディア!」

 高速移動系の魔法でメロディアは先を急ぐ。
 
(やはり……何か嫌な予感を感じたか)

「おいボル、俺たちも行くぞ。嫌な予感がする」
「奇遇だな。我もだ」

 俺たちもメロディアの後を追い、ロビーまでやってくる。
 すると……

「……! クロ!」
「うぅ……メ……ロ……」

 ボロボロな身体、そして額からは血を流し倒れているクローレの姿があった。
 
「こんなところまであなたたちは一体私たちをどうするつもりなの!」

 あなたたち……? 

 周りには誰の姿も気配もない。ただクローレがボロボロのまま倒れているだけだった。
 だがメロディアは、

「早く出てきなさい卑怯者!」

 声を張り上げ、誰かに問いかける。
 今までで一度も見たことのないくらいの必死さが伝わってくる。

 その時だ。そんな彼女の声に反応し、六つの光が一点に集中。

 その光が人型に姿を変え、六人の人間が姿を現す。

「おやおや、私たちの気配に気づくようになるとは。やるようになりましたね、メロディア」

 六人の白いローブを着た謎の集団。
 その中央にいたリーダー格的な者が俺たちの前に出ると、そう呟いた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

処理中です...