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二章 「回想」

23.大賢者

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「クソッ、なんて重い一撃だ」
「貴様如きのザコ防御ではこの一撃は防げない。そのまま我の槍に押しつぶされるがいい!」
 
 予想以上の力だった。本当に槍に押しつぶされてしまいそうなくらいの重い一撃。
 普通の槍使いとはかけ離れた力だ。

「くっ……だがしかし!」

 俺も負けてはいない。自身の魔力を爆発的に放出させ、その反動でボルの一撃を少しずつ押し返していく。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」
「バ、バカな……この我が押されているだと?」

 動揺を隠せない様子。
 今まで格下だと思っていた相手に自分の攻撃が押し返されているのだ。
 普通にそういう反応になるnだろう。

「このまま一気に……! はぁぁ!」

 俺の力はぐんぐん高まっていく。膨大な魔力の流れが身体全身を通して外へと流れ出ていく。

(魔力量ならこっちが上だ!)
 
 魔術師の適性がある者の特権でもある魔力量の多さ。それを最大限に活かす。
 
「ぐぅぅ……!」

 焦り出したか。ならもうこっちのものだ。
 
 彼にはもう冷静な判断をする余裕がなかった。そこはさすがプライド高き戦闘種族の竜人族だ。
 真っ向勝負で押されて黙っているわけがない。

 どんなに凄腕の猛者でも一度冷静さを欠けば脅威ではなくなる。今はまさにその状況。
 パワーで圧倒的にボルの方が上だ。戦闘能力も近接戦闘に限っては俺より遥かに高い。
 
 だがな、お前には決定的な弱点がある。
 そうそれは……

「自らのプライドの高さと強さへの過信だ!」

 俺は魔力を一気に放出させ、ボルの攻撃を全力で押し返す。

「ふっとべぇぇぇぇ!」

 槍を弾いた所ですぐさま風属性の高位魔法を放ち、ボルをリング外まで吹き飛ばす。

「ぐはっっ!」

 ボルはそのまま近くにあった木に叩きつけられ、地面へと倒れる。

「はぁ……はぁ……はぁ」

 息切れが止まらない。魔力を使いすぎたか。
 
(でも大ダメージは与えたはずだ……さすがにあいつも)

「く、クソがぁ……」

(まだ立ち上がる気力があるのか!?)

 ボルは槍を立て、身体を起き上がらせる。
 さすがに屈強でスタミナバカの竜人族でも先の一撃は効いてたようで少し身体がふらついていた。
 
「ちっ、さすがは竜人族。粘るねぇ」
「貴様ぁ……」
 
 息切れしつつも歩き、リング上へと戻って来る。
 先ほどまで見せていたようなポーカーフェイスは打ち砕かれ、顔全体に焦りと苦しさを感じさせる。
 
 あ、あと怒りもだな。

「この我が……こんな無様な姿になろうとは……」
「ふっ、ざまぁないぜ。メリッサさんにあんな対応をするお前が悪いんだ」
「なんだと……?」
「賢者たるもの目上の相手には絶対的敬意を示さなければならない。そしてそこに実力なんてものは一切度外視される。バル爺からそう教わらなかったのか?」
「それがどうした? 我は自分の力だけを信じて今まで生きてきた。それが我の信条であり、強さなのだ」
「自分で決めた堅い掟が強さの秘訣か。バカな戦闘種族が考えそうなことだな」
「なにっっ!」

 おっとスゴイ剣幕。煽るつもりはなかったんだけどな。
 だが賢者を志す者なら肝に銘じておかなくてはならないことだ。

 知識を司りし者として優先されるのは信条よりも賢者としての生き方だ。
 
 これが三年間、バル爺がひたすら口にしていたこと。
 考えようには今までの自分は捨てろと言っていることと似たようなことだ。
 
 確固たる意志を持ったものにとっては中々受け入れ難い真実。俺にはそういうものがなかったからまだ良かった。
 だがボルは……

「お前のその信条とやらは俺には理解ができない。だが同じ賢者候補であるなら決められたルールに従うのが筋ってもんだろ? お前はこの数年間、ペアである俺とですら関係を持とうとしなかった。それは師であるバル爺に逆らっているのと同じだ」
「……貴様に、何が分かる?」
「は……?」
「貴様に何が分かるって言っているのだぁぁ!」

「……!」

 再び槍を持ち勢いのまま攻撃を仕掛けてくる。

(マジかよ、こいつまだこんな気力が……)

 不意打ち。これはさすがに避けられない。
 魔術の発動も―――

「―――無理だ。やられる!」

 回避も防御策も取れない俺にできることは何もなかった。
 俺はただ眼を瞑り、一撃をくらう覚悟を決める。

 が……

「そこまでだ!」

「「……!?」」

 どこから聞いたことのある老人の声。ボルもその声に反応し、振り下ろした槍を顔の目の前で寸止めさせる。

「まったく、お主らはペア同士仲良くできんのか?」

 空に輝く閃光と共に現れるは一人の老人。腹部くらいまである長い髭と腰くらいまである白髪が特徴の爺さんだ。
 まさに聖人や賢者、といった感じ。

「ば、バル爺!」
「バルトスクルム……様」

 相変わらず登場の仕方が派手なこと。
 やたらとピッカピッカしているもんで眩しくて目を開くこともできない。

 だがこの光、実は魔力によって形成されているもので激しさを増すほど魔力量の多さを示す。
 普通に見ていられないほど……と言えば大体バルトスクルムという老人が持つ魔力がどの程度なのか察しがつくだろう。
 
 要するに底知れないほどのとんでもないレベルの魔力を持っているわけ。さすが世に君臨せし大賢者の一角だ。魔力をそんなことに使う余裕さえある。

(だけど眩しすぎるんだよな修行の時も)

 それだけが俺が抱くバル爺へとちょっとした不満。それ以外は本当に良心的なお師匠様だ。

「今日はいつにも増して耀いていますね」
「おうよ。ワシもまだまだ捨てたものではないじゃろ?」
「はい、さすがはお師匠様です」
「メリッサも元気そうじゃの」
「はい、お陰様で」

 周りの大賢者と違って話しやすいのもバル爺の良さ。堅苦しくなくいつも気だるげな印象が俺の中では強い。
 大賢者という立場を知らなければただのノリの良いおじいちゃんって感じだ。

「で、いきなりこんな所までおいでになられたのは……」
「ああ、そうじゃったそうじゃった。レギルス、そしてボルゼベータよ。成人の儀が終わったらワシのとこまできてくれんかのぉ?」
「神殿に……ですか?」
「そうじゃ、お主らに話がある」

 珍しいこともあるものだ。大賢者が神殿に見習いを呼ぶなんて聞いたことがない。
 よっぽど重大な話なのだろうか?

 バルトスクルムは時間や場所などの詳細を手短に話す。

「分かったか? 時間厳守で頼むぞ」
「あ、はい。分かりました。成人の儀を終えた後、すぐに伺わせていただきます」
「ボルゼベータも分かったかの? 前みたいにボイコットしたら次はないぞ?」
「……は、はい」

 さっきの威勢が嘘のような弱々しい返事だ。さすがのボルもバル爺の前ではいつもの振る舞いはできないか。
 
(ってか、前に神殿に呼ばれてボイコットって。こいつやっぱ並の神経してないな)
 
「じゃ、待っとるぞ」

 一瞬。強い光が発せられるともうそこにはバル爺の姿はなかった。
 
「呼び出しか。何言われんだろうなぁ」
「それよりレギルス、ちょっと座って」
「え?」
「早くして。ヒールを使うわ」

 俺はメリッサの言うまま回復魔法を施される。
 同じようにボルも回復魔法をされ、互いに魔力を取り戻した。

「ありがとうございます、メリッサさん」
「ええ。あ、いけないいけないそろそろ時間だ。ごめんレギルス、私もう行かなきゃ」
「賢者会議ですか?」
「うん、ちょっと招集されててね。時間厳守だから」
「すみません、こんなことにつき合わせてしまって」
「気にしないで。次期賢者候補の実力も見れて楽しかったわ」
「あはは……まだ全然ですけどね」

 ホント、メリッサさんと比べれば虫けらもいいとこだ。
 いつかは越えたい存在でもあるんだけどね。

「じゃ、私はこれで」
「はい、頑張ってください!」

 メリッサはニッコリと微笑むと空術魔法でその場から去って行った。
 俺も時間認識の魔法ですぐに時間を調べる。

「うわっ、もうこんな時間かよ。おいボル、もう行かないと……」
「ふん、貴様と共に行くつもりはない。自分一人で行くがいい」
「そんなわけにもいかないだろ。俺たちはペアだ、卒業試験も一緒に受けないと失効扱いになるんだぞ?」
「知ったことか。我は別に……」
「ほら行くぞ!」
「おい貴様、何をする!」

 無理矢理ボルの手を引っ張り、連れて行こうと試みる。

「やめろ。その汚い手で我に触るな!」
「だったら黙って付いてこい。行くぞ」
「ちっ……」

 初めは抵抗していた。だがその抵抗も段々なくなっていき、気が付けば俺が前にボルが後ろに歩く形になっていた。
 ボルと俺が現在までの関係を築くにあたってのスタートラインがここだった。

 無愛想なのは相変わらずだが接し方が劇的に変わったのは言うまでもない。今まで別々だった俺たちが共に旅をするまでになったきっかけがこの出来事だ。

 そんなに時間は経っていないはずなのにノスタルジーを感じるのはなぜなのだろうか。
 
 それほど印象的だった……ということなのか?
 
 だがこれだけは言える。もしこの出来事がなかったら恐らく今の俺たちの関係はなかったと。
 
 そう捉えると、この出来事はある意味運命だったのかもしれないし、刻印消しの旅もその運命の一途を辿っているだけなのかもしれない。

 だがこれは今だからこそ言えること。当時の俺にはいきなり異界にまで飛ばされるなんて思いつきもしなかった。

 成人の儀を終えて大賢者たちの住まう神殿に向かった時のあの出来事。
 
 それが俺とボルの刻印消しの旅が始まる宣告のようなものだったのだ。
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