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二章 「回想」
22.対立
しおりを挟む―――聖域の樹海、マーグレット特別試験場跡地
闘技場。実際は旧賢者階級試験特別試験場だった場所だ。
今はほかの場所に試験場は移されたが、昔はここで準賢者、大賢者となるための試験を実施していた。
由緒正しき場と言えば聞こえはいいが、実際はサビや苔まみれの廃れた闘技場。
今や誰も近寄りもしない忘れ去られた場だ。
ドンパチやる場としては適切な場と言えるだろう。
「準備はいいか?」
「いつでも構わない。所詮貴様は我に指一本触れることもできないのだから」
「そりゃあ楽しみだ」
腹立つ。最初は様子見から入ろうと思ったが作戦変更。
「―――初っ端から全力でいかせてもらう」
大口を叩くくらいなのだから相当自分の能力に自信があるのだろう。
空白の三年間を経た後から俺とボルは別々の修行をするようになった。だから俺も今のボルがどこまでのものになったかは理解していない。
昔は確かに才能で溢れていた。そのまま順当に成長していれば今はかなりの実力者となっていることだろう。
だが俺も今までより格段に成長している。異能『全能(アルマハト)』を手にした俺は不器用だった俺とは破格の差を生み出した。
負ける気がしない。
俺は自信に満ちていた。
「それでは両者……前へ」
今回はメリッサさんが俺たちの決闘の判定(ジャッジ)をしてくれることとなった。
決闘において戦いを公平にジャッジする者は必要不可欠。
そうしないと俺たちの場合、延々と潰し合いを行いかねないからな。
「俺は未だにバル爺がお前を弟子にした理由が分からない。どう考えても賢者として相応しくないしな」
「我も貴様のような出来損ないと同じ水準で扱われている自体に納得がいかない。貴様のような田舎者は地元で畑を耕してれば良いのだ」
「言ってくれるね。その言葉、そのまま返してあげるよ」
対立するもの同士、最初は必ず争議から始まる。
だがここで挑発に乗るのは相手の思う壺だ。
ここは冷静に考え、相手の出方も予想しながら戦いに備える。
俺が空白の三年間で教わったことの一つだ。
ただの脳筋では賢者という器には程遠い。知力を持ち、的確な判断力と分析力、そしてそれらを行使する高い実行力が賢者には必要なのだ。
(最初に仕掛ける時にあいつはどう行動に移すか……だな)
常に二手三手先のことを考えて行動するのが戦いのおける基本形だ。
ボルは槍使いに長けた武人だ。近接での戦闘力は専ら高いことだろう。
だが最初は……
「ではこれよりボルゼベータ=アーノルド・シュバッケンとレギルス=りーゼ・ベクトルによりソロデュエル方式の模擬試合を執り行う。判定人(デュエルジャッジ)と立会人は私、メリッサ=レナ・ベロニールが兼任する。異論は?」
「「ないです」」
決闘をする際に必ず誓約書に綴られている文の一部を諷誦(ふうしょう)し、それに合意か否かを示さなければならない。
そして両者の合意を受けたその瞬間、勝負は始まる。
「では、これより模擬試合を行う。両者構え!」
沈黙。俺たち三人以外誰もいない空間の中、聞こえてくるのは風の音と木々が揺れる小さなさざめき。
この静寂に満ちた世界で二人の男の戦いは始まる。
そして……
「それでは、模擬戦はじめ!」
「≪ラピッド/高速移動≫!」
合図とともに自強化の魔法を付与。一気にボルの目の前まで距離を縮める。
近距離戦闘を苦手とする魔術師が初手にいきなり距離を縮めてくればどんな相手でも動揺するものだ。
「もらった!」
そう叫ぶと同時に至近距離から単発魔法を発動させる。
「荒くれなる破壊の風よ……」
超至近距離からの風属性魔法だ。
さすがにここから撃たれたらひとたまりも……ん?
様子がおかしい。もう俺は目の前まで来て詠唱も完了している。
あとは魔法名を言うだけ。
だが彼は全く動かない。というか指一本すら微動だにしなかった。
(どういうことだ? なぜ回避行動をとらない?)
初手から全力でこないと思っていたのか?
そうだとしてもかなり冷静だ。慌てている様子もない。
まるでこうしてくるのを予期していたかのように……
ええい、そんなことはどうでもいい!
動かないなら撃つ。それだけだ。
「避けねぇと死ぬぞ、≪ビガーウィンド/滅風≫!」
第7階梯の風属性魔法を超至近距離で発動。だがボルは手で顔を覆うだけでそこから離れようとしない。
「まさか、高位魔法を身体で受け止めると言うのか!?」
「甘いなレギルス。貴様の魔法なぞ我の鍛え上げられた肉体には効かぬ!」
そのまさかだった。
ボルはそのまま身体で受け止めると、自身の溢れ出る膨大な魔力をぶつけて無理矢理魔法を相殺させた。
「ま、マジかよ……」
常軌を逸した回避方法だ。自分の魔力を体内で最大限に引き上げ、一気に放出させることにより生まれる爆発的な力で魔法を打ち消すなんて普通ならできたもんじゃない。
(マズイな、今攻撃されたら……)
予想外だった。魔法を放ち隙だらけの今、攻撃されたらひとたまりもない。
相手からすれば絶好のチャンスというわけだ。
だが彼は反撃するような行動を一向に見せなかった。
ただ俺を見下ろし、不吉な笑みを浮かべているだけだ。
(完全に舐めてやがるな……)
俺はすぐに距離を取り、態勢を立て直す。
「やはりこの程度か。少しでも期待した我が愚かであったな」
「ふっ、なるほど。お前のその憎たらしい顔面から溢れんばかりの自信が湧き出る理由が分かったよ」
実力は大雑把だが把握はできた。
一つ分かったのは生半可の攻撃は決して通らないこと。少なくとも奴が攻撃を意識している間はほとんどの攻撃が無効化されることだろう。
なにせ高位魔法を至近距離で放っても無傷なのだから。
「こりゃあ正攻法で攻めたら勝てるか分からないな」
ボルは俺と同じくバルトスクルムに拾われた身であるが、その真実が垣間見えたような気がする。
間違いないのは実力は本物だということ。
出まかせを言っているわけではなく真実そのものだった。
「我も貴様などに付き合っているほど暇ではないのだ。悪いがこの一突きで終わらせてもらう」
一発KO宣言がボルの口から放たれる。
そしてその宣言と同時に槍を構え、攻撃態勢へと入った。
「面白い、やれるもんならやってみろよ」
俺も杖も構え、臨戦態勢に入る。
ボルは自身の魔力をさらに高め、詠唱する。
「我の槍捌きの前にひれ伏すがいい。ストレンジマジック≪ハイパワー/物理強化・高速移動≫」
物理職特有の自強化魔法……本当に一撃で終わらせるつもりなのか。
ボルの眼差しに嘘偽りはなかった。あの眼は本気だ。
(受け止められるか……いや、ここは……)
「さぁいくぞ。絶望を味わうがいい!」
そう叫ぶと、ボルは槍を構え一直線に突進してくる。
(は、速い!)
その大柄な巨体からは想像もつかないほど機敏さ。
だが高速移動を行使すれば逃げられる可能性はある。
だけど此処で逃げたら俺のプライドが許さない。
もう劣等感を味わうのだけはこりごりだ。
だからこそ俺も同じ条件で戦ってやる。
「さぁこいよ! お前のその一撃を受け止めてやる!」
真っ直ぐ向かってくるボルに大声で叫び、逃げないことを伝える。
「……上手くいってくれよ」
俺は防御魔法を四方八方に展開。どこからでも対応できる環境を構築させる。
「そんな防御策、我の一撃の前では無意味だ!」
「さぁ、どうかなそれは」
「愚かな……なら打ち砕くまでだ!」
ボルは高速で俺の懐へと潜り込む。
そして片手に持った槍を大きく振りかざすと、雄叫びを上げながら豪快に振り下ろした。
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