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二章 「回想」
21.過去2
しおりを挟む「こんにちは、今日もいい天気だね!」
メリッサさんが話しかけたのは岩に座る無愛想な竜人族の男。
だが男は微動だにせず、メリッサさんの顔すらみない。
「ボルゼベータくんだよね?」
「……」
竜人は黙ったまま動かない。
ただ本をだけを見つめ、振り向こうともしなかった。
「ね、ねぇボルゼベータくん。私のこと覚えてる?」
「……」
もう一度問いかけるも反応を全くない。
(……この野郎、せっかくメリッサさんが)
真摯に向き合って会話をしようとしてくれているメリッサさんを悉く無視する姿に怒りがこみあげてくる。
そもそも人が声をかけているのに振り向きもしないとは何様なんだ?
俺は何度も試し、失敗するメリッサさんを見て我慢できなくなった。
「おい、お前聞いているのか?」
ボルの胸ぐらを掴み、強引にこちらを向かせる。
「……」
こうされても尚澄ました表情をする。
どう考えても正気の沙汰ではない。
「この野郎……!」
左手で胸ぐらを掴んだまま、俺は右手で拳をつくる。
「まだ寝ているんなら俺が目覚めさせてやる」
「やめなさいレギルス!」
「ぐっ……!」
一発殴ろうとした瞬間、その拳は寸前で止められる。
「レギルス、胸ぐらから手を離して」
「で、でもメリッサさん」
「いいから離して」
「は、はい……」
しぶしぶ俺は胸ぐらから手を離し、開放する。
メリッサさんは再びボルの前に立ち、話し始める。
「ボルゼベータくん、君は……」
「なぜ私にお声などかけてきたのですか準賢者メリッサ殿」
……!
(ボルが喋っただと? しかも敬語……)
初めて聞いた。少し低めの声だが敬語を使っているからか威圧的なものは感じない。
メリッサさんも少々驚いているようだった。
「ボルゼベータくん喋れるじゃない」
「当然ですよ。私が喋れないとでも?」
「いや、レギルスくんが全然話してくれないって言ってたから。彼、ペアなんでしょ?」
ボルは再び黙り始め、俺の方をその鋭い目つきで見つめる。
なんだ? なぜ俺を見る?
どうも彼の意図は中々掴めない。
賢者候補として共に修行をして結構経つが分からないことだらけだ。
「ほら、ボルゼベータくん。レギルスとお話してみて」
何やら俺が色々と考えている内に話は進んでいたようでいつの間にか俺の名前が話題に入っていた。
「ほーら、ボルゼベータくん」
「……」
不服そうな顔をし、睨みつけてくる。
(別に俺は何もしてないんだけどな……)
沈黙を続けるボルにメリッサさんも負けじと食らいつく。
するとボルが、
「すみませんメリッサ殿。私にはあいつと共存することはできません」
「……え?」
「は?」
思わず声に出てしまう。メリッサさんもすぐに理由を尋ねる。
「共存できないってどういうこと?」
「私は自分の認めた相手しか関わりを持ちたくないのです。要するにそこにいる輩は認めるに値しない……ということですよ」
認めるに値しない……だと?
そう言われるだけでも腹が立つ。
なのにあいつはわざと俺に聞こえるようにそう言ったのだ。
「おい、それはどういう意味だ」
「レギルス、一度冷静に……」
当然黙って見ていられるわけがない。
完全なる侮辱を受けて冷静になれなんてまだまだガキの精神を持つ俺には無理な話だ。
「黙って見ていればいい気になりやがって。お前何様だ?」
「そのセリフをそのまま返そう。我は貴様なんかとペアを組む自体反対だったのだ」
「ほう……その理由を教えてもらおうか?」
「ふん、簡単な話だ。我は力の持たない者とは繋がりを持たない。貴様のようなバカでも分かりやすく言えばザコには興味がないってことだ」
「なんだと?」
空気は一変し、お互い火花を散らし対立し始める。
まさかこれが初めての会話になるとは思いもよらなかった。今の俺はこいつに殺意すらあるくらいだ。
これが今まで話したことすらなかった相手の素性を知った瞬間だった。
「理由は分かっただろう。今すぐその汚い手を離せ」
無理矢理振りほどこうとするが俺は決して離さなかった。
怒り心頭。
俺の憤怒はもう自分では止められないほどの水準にまで達していた。
(もうこいつは一発殴らないと気が済まねぇ)
「れ、レギルス駄目! 暴力での解決は災いを招くだけよ!」
メリッサさんも俺の心中を察したのか急いで止めに入る。
だがそんな声も俺の耳には届くことはなかった。
「すみませんメリッサさん。俺、どうしてもこいつが許せません。一度ボコさないと気が済まないんです」
「我をボコすだと? 修行ではいつも一番下を歩んでいたお前がか?」
「なるほど、俺に対するお前の評価は修行でのことだったのか」
ボルとはバルトスクルムに直々に言われたペア同士だ。当然、修行も共に行う。
確かに今思い返せばボルは器用な奴だった。一度聞いたものは何でもこなし、どんなにきつい試練を与えられても弱音を吐くなんてことは決してしない。
まさに鉄の男と言えるべき存在だったのだ。
それに引き換え、俺は不器用で少しでも負担のある試練でもすぐに弱音を吐いていた弱者であった。
当時の俺を知っているならそのような評価になってもおかしくない。
だけど……
「お前の言う通り昔はそうだったさ。だがお前は空白の三年間を過ごしていた俺を知らないだろう」
「空白? ああ、貴様が突然いなくなって周りのバカどもが騒いでいた時があったな」
「そうだ。皆は俺が修行から逃げたと思い込んでいた。だけどそれは違う」
そう、違うのだ。
俺はあの時、自分の無力さに絶望していた。確かに魔法に対しての才はあった。だがそれを扱うほどの器用さが俺には欠如していたのだ。要は才能をうまく開花できずに伸び悩んでいたということ。
だからこそ俺は強くなりたいという一心で試練に励み、休息日も一人鍛錬に勤しみ、自分を高める努力をしていた。
だが、その努力が実を結ぶことはなかった。
時間が経つにつれ、俺はどんどん周りの者たちに置いていかれた。
そして終いにはバルトスクルムの弟子の中でも一番下を歩む出来損ないになる始末。
耐えられなかった。同じ土俵で修行していたはずの者たちがどんどん先の方へ行ってしまう。
圧倒的劣等感。誰よりも努力をしていると思っていた俺には苦痛でしかなかった。
色々と交わる思いがこみ上げ意気消沈していた頃、突如師であるバルトスクルムから声を掛けられた。
そしてその後の三年間、俺はひっそりと身を隠しながらバルトスクルムとの修行に励んでいた。
バルトスクルムは普段から俺が鍛錬に励んでいたことを知っていたのだ。
皆が休息日に楽しんでいる間、俺は一人森の中で修行に励み日々。辛いことばかりだったがバルトスクルムだけはずっと見守ってくれていた。
そして俺は三年もの間、厳しい修行に耐え続けた。
初めて認めてくれた相手に恩返しをするために。
俺は拳を握り、ボルの目を見て話す。
「もうあの時の俺とは違う。口で分かってもらえないのならそれを今から……証明してやる」
「証明だと? 我と一対一(サシ)の勝負でもするつもりか?」
「それしか方法はないだろ。お前みたいな性格のねじ曲がった奴には身体で覚えさせないと示しがつかない」
「面白い……その挑発、乗ってやる」
「話は決まりだな」
お互い不穏な笑みを浮かべ、向かい合う。
「もう止められないようね」
「すみませんメリッサさん。互いの意地をかけた戦いなんです。認めてください」
メリッサさんは「はぁ」とため息をつくも首を縦に振った。
正直、争ってほしくないという気持ちに方が強いのだろう。
だが俺は一歩も引くつもりはない。たとえ誰が何と言おうと。
「おいボルゼベータ、俺はお前に決闘を申し込む。闘技場までついてきてもらおうか」
全てはここから始まった。
そしてこれが俺とボルが一戦を交える最初で最後の出来事だった。
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