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一章 「二人の少女」

19.接し方

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 あれから丸一日が経った。
 俺たちは刻印とメロディアたちに関する情報を得るべく動いていた。

 のだが……

「おーい、開けないなら勝手に入るぞー」

 ボルの自室前でドア越しから叫ぶ。
 今日は俺が掃除当番。俺、メロディア、クローレの三人でローテーションをして屋敷の家事を行っている。他にも食事当番や買い出し当番など役割を決めているが相変わらずボルだけはフリーダムな生活を送っていた。

(はぁ……今日も応答なしか)
 
 もちろん使用人(メイド)とかがいればそれに越したことはないのだが生憎雇う金がない。
 なので食事から掃除まで全部自分たちでやらなければならなかった。

「おーい聞こえてるのか?」
 
 家事の中でも一番最後に回しているボルの部屋。理由はまぁ……諸々ある。

「あいつまた読書か? んなことしている暇あったら仕事を手伝えってんの」

 愚痴を吐き、問答無用で部屋の中へと入る。

 部屋に入ればいつもの椅子に座って書籍を片手に似合わない片眼鏡をして読書をしている。
 それが日常茶飯事の出来事だった。
 しかし今日は、

「うーむ……」

 部屋の中に入るとまず目に浮かんだのは何か険しい表情をして佇む一人の竜人族の男。自室のバルコニーから空を眺め、ひたすら何かを考えている様子だった。

(本を読んでいないだと?)

 珍しいこともあるもんだ。いつもなら部屋に入ると例の揺り椅子に座り本を読んでいる姿が日常だった。
 だが今回は揺り椅子どころか本も読まずにただバルコニーに突っ立っているボルの姿が目に映った。

(何してんだ?)

 少しずつ彼に近づき、そっと一声をかけてみる。

「どうしたボル。大好きな本も読まずに景観観察だなんてらしくないな」
「……」

 返答がない。聞こえていないのか?

「おーい、聞こえてるのか?」

 声のトーンを上げ、しっかりと聞こえるように言うがやはり反応はなかった。
 
(わざとやっているのか?)

 距離的に聞こえないはずはないのに反応はない。ここまでくればもう完璧な無視(シカト)だ。

「ボル、聞こえて……」
「レギルス……」

 ッッ!?

 驚愕。
 あまりにも気づかなかったのでボルの肩に手を置こうとした瞬間、唐突に方向を転換させ、俺の方へと身体を向ける。
 
「き、気づいていたならそう言え」
「ああ、悪かったな」

 あれ? なんか今日はやけに潔いな。

 いつもなら「貴様、誰の許可を得て我の住処に入った!」とか言うのが普通なのに……

「ま、まぁいいか。とりあえず掃除をしたいからその本の山をどかしてくれないか?」
「ああ、分かった」

(……え!?)

 またも潔い返答。しかもすぐに行動に移し、積りに積もった本の山を片付け始めた。

「―――ど、どうしちまったんだ?」

 反発する様子も見せず淡々と行動するボル。若干恐怖さえも感じてくる。

「ぼ、ボル」
「ん、なんだ」

 ボルは一旦作業を止め、こちらに目線を合わせてくる。
 
「―――別に体調が悪い……ってわけでもなさそうだな」

 顔色が悪い様子は伺えない。無愛想際立ついつものボルの顔だ。
 
(まったくもってわからん……)

 ボルの持つポーカーフェイスが心理の解読を阻む。
 彼に関しては読心術を生業とする人間でないと心を読み取るなんて難しいだろう。

 だけど……

(このボルはさすがに気持ちが悪い……)

 何らかの危惧感が俺の不安をかき立てる。これが人として普通……のはずなのにボルの関してはそうは思えない。
 もうかれこれ十数年の付き合いだがこんなことは初めてだ。

「お、お前……どうかしたのか?」

 あえてストレートに事情を聞かずに遠回しの発言で真意を探る。
 
 ボルはまたも口を開くことはなく、ただぼーっと一点だけを見つめていた。

「本当にどうしたんだよ。今日のお前おかしいぞ」

 つい声を張り上げ、圧をかけてしまう。

「……そうみえるのか?」
「直感だ。いつものお前にしちゃ品のある行動をするなと思っただけだ」
「ふん……やはり貴様にはごまかせないか」

 ごまかす? あれで?
 
 むしろわかりやすい行動ばかりだった。

(あれでごまかしていたつもりだったのか……)

 俺はすぐボルに真意を問い詰めるとボルはすぐに回答を述べた。

「接し方だ」
「……は?」
「接し方について悩んでいた。あのメロディアとかいう女に対してのな」
「接し方ってお前……たったそれだけか?」

 ボルは真剣な表情で首を縦に振る。彼の瞳にも嘘偽りはなく、心の底からの悩みだということが分かった。

「ということはまだメロディアとは話すらしてないのか?」
「ああ……何度か試みたのだが話題が全く浮かばなかった」

 はぁ……

 思わずため息が出てしまう。ボルのことだからどんな悩みかと思えば人との接し方で悩んでいたとは。
 でもまぁ確かにはあり得ない話でもない。

 何せ今までの十数年もの間、人との関わりを積極的に避けてきた男だ。
 むしろ今までどうやって生きてきたのかを身近にいたのにも関わらず知らなかった。

「だがお前、前に書士とは話していたのをみたことがあるぞ。あれと同じ要領で……」
「あれは本という一つの共通点があるから故のことだ。あの女とは共通点がない」

 それにしては共通点がないはずのクローレとは平然と会話をしていたようだがあえて何も言わないことにする。
 
 でも接し方か……俺も俺とて人付き合いが得意の方ではないからな。
 
 ボルにアドバイスしようにも何を話せばいいか分からない。
 
(仕方ない。ここは……)

「おいボル、俺が代わりに聞いてくる。お前はここにいろ」
「なに? 我が貴様などに頼れというのか」
「じゃあどうするんだよ。やっぱお前が聞くか?」
「くっ……」

 不服そうな顔を向け歯ぎしりをする。
 ボルは俺とは天と地ほどの差があるほどプライドが高い。今までで俺含め他人に頼っている所を見たことがないくらいだ。
 だからこそ今まで一人でやっていけた……のかもしれない。

「……」

 ボルは考える。いつもはあまり見せない焦ったような表情を見せる。
 
 額に汗が滴り、マットレスが敷かれた床にポツンと落ちる。
 そしてボルは一つの結論を出す。

「我が聞いてくる。貴様は手出し無用だ」
「本当に大丈夫なのか?」
「見くびるな。これくらい造作も……」

 ないとは言わなかった。
 だがボルは額の汗を拭うと、すぐに部屋から出ていってしまう。

「お、おい!」
 
 恐らくメロディアの所へ向かったのだろう。
 ボルのことだ。何が起きても不思議ではない。
 暴走して変な誤解を招くのだけはご免だ。

 ここは……

「一応見張っておくか」
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