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一章 「二人の少女」

11.指導

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「よし、それじゃあ早速例の治療魔法の指導に入るぞ」

「はい、お願いします!」

 翌日、俺たちはマロル湖周辺のとある平地にいた。
 昨日行われたジョセフとの決闘では完膚無きにまで相手を叩きのめし、不意打ちをくらいそうになった時に発動させた高位型範囲魔法がジョセフを屈服させる決定打へと繋がった。

 ただ一つ難点が出来てしまったのはその範囲魔法によって闘技場の一部をぶっ壊してしまったことだった。
 決闘とはいえ、物を破壊すれば当然ながら器物破損罪に問われるわけでそのまま治安騎士団に連行されるという波乱の展開が本当の幕引きだったということは恥ずかしくて言えない。
 結局のところ、俺はメロディアたちの弁解もあって罪に問われることにはならなかったが本当に危なかったと今でも反省していた。

 そしてその次の日。やっとのことでメロディアたちに治癒術を教える時間を設けることができ、今に至るというわけだ。

「―――教えるといっても何から教えたらいいのやら」

 俺は今までの生涯で人に何かを教えたことはない。魔術も治癒術も生まれた時からある程度まで習得していたため、人に教える能力なぞ皆無だった。
 知識もない、経験も浅い。ただただ感覚だけで生きてきた俺にとっては複雑な理論やら術式やらは必要なしの愚物そのものだったのだ。

(でもかといって今さら教えられないとも言えないし……)

 魔術指導を甘く見ていた。いつもの如くなんとかなるだろう精神で乗り切れると思っていたが、今回に限っては通用しなさそうだ。
 それに目の前でこんなワクワク感溢れる眼差しで見られちゃ、期待外れな指導はできない。

(う~ん……)

 複雑な顔をして悩む俺にメロディアは首を傾げる。

「あのレギルスさん? どうかしました?」
「……ん? あ、いや……」

 まずいまずい。とりあえずなんでもいいから指導を……

「じゃ、じゃあまずは治癒術のおける基本中の基本から教えよう」

 ……って口だけはたいそうなことを言えるんだよなぁ。
 だがそれでは意味がない。引き受けた以上責任を持たなくては。

 俺はコホンとわざとらしい咳ばらいをし、メロディアに指導を始める。

「教えてほしい治癒術は≪ブリスヒール≫で間違いないな?」
「間違いないです」

 ブリスヒールか。あの治癒術はちょっと普段とは違う場所に魔力を溜めないとならないんだよなぁ。
 特に脊髄辺りに集中させて一気に解き放つ。感覚を言葉で語ればこう例えるのが一番分かりやすい。
 だけど理論上ではなぁ……

「なぁメロディア。お前は何階梯までの治癒術が使えるんだ?」
「階梯……ですか?」
「そう、ブリスヒールは第4位階の特殊治癒魔法だ。まず階梯到達者じゃなきゃ使えない」
「それなら多分大丈夫かと。私は治癒魔法こそ第2位階レベルですが一応第5位階レベルの強化系魔法は使えるので……」
「ほう、第5位階の強化系魔法が使えるのか。魔法のレベル的にはA級冒険者と肩を並べられるほどの実力だな」
「いえそんなたいそうなものじゃないですよ。たまたま使えるってだけです」

 たまたまか。でも使えるのならそれ相応の実力はあるということ。
 位階的問題は心配なさそうだ。

 俺はメロディアに次なる支持を与える。

「じゃあメロディア、いきなりだが実践に入るぞ」
「も、もう実践ですか?」
「そうだ。クローレ、悪いが手伝ってくれ」
「わ、私ですか?」
「ああ。その場で横になってほしい」

 クローレにふさふさの平原の上で横になることを指示し、彼女はそれに従う。
 魔法はとにかく感覚だ(俺から言わせれば)。
 感覚さえつかめば正直な話なんとかなると思っている。
 
 それに……

「―――理論から説明だなんて勉強じみたことは退屈だろ?」

 俺は勉強が大の苦手だ。
 だがそんな俺も数年前まで賢界の学園で学生をしていた。毎日のように朝早くに起き、授業中に爆睡というのがいつもの流れでいつも講師に怒鳴られていたものだ。
 そんなこともあってか知識なんぞ全く入ってこなかった。
 なので感覚だけで魔法を扱えたというのが唯一の救いだったのだ。

「さて、メロディア。まずは俺が手本を見せるからよく見ておけよ」

 俺はそうメロディアに言うと寝ているクローレの前にでしゃがみ、手を翳す。
 
「魔力を心臓に込める感覚は分かるな?」
「あ、はいそれなら。いつも魔法を発動する時にはまず心臓に魔力を集めます」
「よし、なら話は早い。その魔力を心臓ではなく脊髄に集めるんだ」
「せ、脊髄……ですか?」
「ああ、そうだ。こうやってな」

 俺は実演として脊髄、厳密には中枢神経系の部分に魔力を一瞬でため込み、ブリスヒールを発動させる。
 すると翳した手に無数の光が集まり、その光が俺を仲介してクローレへと流れ込む。
 
「やっぱりスゴイです……活力を、みなぎる何かを感じます」
「まぁ自然界に生きる生物たちの精力を術式化した魔法だからな。ほら、次はメロディアの番だぞ」
「は、はい!」

 今度は俺とメロディアの場所が入れ替わり、同様にクローレへ向けて手を翳す。
 
「脊髄……脊髄に魔力を……」

 集中、そして念じながら魔力を少しずつ脊髄の方へ流し込んでいく。
 俺は魔力の流れが見えるため、すぐに現状が分かる。今のところ順調だ。

「よし、そのままだメロディア。そのまま脊髄に魔力を流せ」
「う、うぅぅぅぅ……」

 苦しそうにしながらも歯を食いしばるメロディア。
 無理もない。普段ため込まない場所に魔力をためるのだから身体に負荷がかかるには当然のこと。
 大体の者はここでリタイアするのだがメロディアには底知れぬ根性があった。

 初めてとは思えないスピードで魔力をためこみ、そして数分後には十分すぎるくらいの量が脊髄へと流れ込んだ。
 
「今だメロディア、いつも治癒魔法を発動させる時のように魔力を解放させろ!」
「ブリス……ヒール!」

 メロディアはためた魔力を解放。それと同時にブリスヒールが発動する。
 予想以上にため込んでいたのか眩しいほどの光が彼女の手の元に集まってくる。
 それにしてもすごい魔力の流れだ。こんな小さな身体からここまでの魔力量……異常だ。

 その異常な程の高まりを見せる魔力がどんどんクローレの体内に流れていく。

(とりあえずは成功だな……ん?)

 だが俺はこの時一つ異変を感じた。
 それはメロディアの首元が異様な光を帯びていたからだ。
 
(なんだ……あの光)

 見たところ何かの紋様が浮かんでいるようだったが、長い髪が遮っていてよく見えない。
 俺は首元がはっきりと見える位置へ視点をずらし、気づかれないようそっと覗き込む。
 すると、俺の目に飛び込んできたのは疑心を誘うかのような有り得ない光景だった。

 そう、それは……


「『刻印』だと……?」
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