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一章 「二人の少女」

04.誤解

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 次の日の朝、俺はふと目を覚ました。

「んん……あれ、もう朝か」

 カーテンの隙間から見える一筋の光が暗く明かりのないこの部屋を照らす。
 そして俺の膝元にはすやすやと眠る一人の少女の姿があった。

「そうか、俺たちあの後……」

 回復術師についての話をしている最中に座りながら寝てしまったのだ。夕方から話し始め次々と会話が弾んでしまい、気が付けば朝……と言った具合だった。
 俺は膝元でぐっすりと熟睡をするメロディアの姿を見つめる。

「―――相当疲れてたんだな……」

 やはり寝ている姿も美少女そのものだった。だがそれと同時に昨晩は無理をさせてしまったのではないかという罪悪感も同時に出てくる。
 
「ええっと今何時だ?」

 ちょうど手元にあった機械時計を手に取り、時間を確認する。
 時刻はちょうど午前10時。耳を澄ますとすぐそこにある市場の賑わいが人の声で察することが出来た。
 辺りを見る限りボルの姿はなく、クローレは依然としてぐっすりだった。

「ボルの奴、また本屋で一夜明けか。まったく……」

 懲りない奴。もう書士が何度も此処にクレームを言いに来させるのはもう嫌だからとあれほど言ったのに……

 溜息をつき、その場でじっとする。

「にしてもこのままじゃ動けないよなぁ……下手に動いて起こすのもなんか悪いし」

 そんなことを思っていたその時、背後でムクっと起き上がる気配を感じた。
 
 クローレが目覚めたのだ。

 彼女は目を擦り、辺りを不思議そうに見渡す。
 そしてすぐそばで座っていた俺と目が合った所で話をかけた。

「あ、ようやく目覚めたな。気分は……」
「だ、誰よあなた!」

 俺を見た途端クローレは目を嘘のように見開く。
 そしてすぐさま近くにたてかけてあったロッドを手に取り、俺の顔に向けてきた。
 
「ちょ、ちょっと待て! これには事情が……」
「事情……? なんの? いつ私たちを連れ込んだのよ!」
「いや連れ込んだとかそういうことじゃ……」
 
 漆黒のセミロングヘアで、淡い朱色の瞳をした少女がこちらを睨む。

 完全に誤解を招いてしまっているが状況的に仕方のないことだった。
 
 なのでここは冷静に慌てず事情を……と思ったその矢先だった。
 俺の膝元にちらっと顔を見せるメロディアの姿がクローレの目に入ってしまったのだ。

「め、メロ! あなたメロに何かしたわね?」
「はぁ!? いや、俺は何もしてないんだって!」
「嘘つかないで。じゃあなぜメロはあなたの膝で寝ているの?」
「なぜって……」

 あれ、こういう時どう答えればいいんだ?
 
「昨日夜遅くまで話していていつの間にかこうなっていました~」とか言っても今の俺には説得力は皆無だ。
 だが一から経緯(いきさつ)を語ったとしても長くなって逆に怪しまれるかもしれないし……

(どうする? どう答えるオレ!)

 考えても考えても臨機応変な対応を思いつくことができない。
 間の開いた時間が経つにつれクローレの表情は徐々に険しさを増していく。
 
「何も言えませんか、やはりあなたは……」

 もう限界だと、そう悟った時だった。

「クロ止めて! この人は悪い人じゃない!」
「め、メロディア?」

 先ほどまで膝元で寝ていたメロディアがムクリと起き上がり、クローレを止める。
 クローレはいきなりのことで困惑しながら、

「で、でもメロ! この人は私たちを……」
「いいからその杖を下ろして!」

 クローレはそう言われるとそっと手に持ったロッドを顔元から下ろす。
 メロディアの見せた鋭い眼差しがクローレの動きを封じ込めたのだ。

(この子はこんな顔もするのか。意外だな)

 昨日までのメロディアの印象はざっくり言って大人しくほんわかとした感じで、キリっとした目つきをするようなイメージはなかった。
 度胸や強い心の芯を持っているという印象もあったが、今見せたのはそれとも全く違う彼女の素顔だった。

「ごめんなさいレギルスさん、クロがご迷惑を……」

 すぐさまメロディアは頭を下げ、謝罪してくる。
 俺は「気にしなくていい」と一言述べ、メロディアに頭を上げるように言った。
 
「一体、どうなっているのメロ。状況が読めないわ」
 
 不安げに俯くクローレを見ると、メロディアはすぐに事情を話し始めた。


 ♦


「……そんなことがあったのね。じゃあこの方が……」
「私たちの恩人、冒険者のレギルスさんよ」

 紹介され、「どうも」と頭を下げる。
 クローレは細かな事情を知るとすぐに、

「す、すみませんレギルスさん。私、助けていただいたとも知らずにとてつもない勘違いを」
「大丈夫だ。俺も誤解を招くようなことをしてすまなかったな」

 なんとかクローレの誤解は晴れたようだ。
 でもよくよく考えたら彼女たちをここへ連れてきたのは紛れもなくこの俺だ。
 起きてみれば知らない男がいて知らない場所へ連れてこられたと分かればパニックになるのは必然。

(もう少し方法を考えるべきだったな)

 ……と、少し反省をする。
 
「じゃ、じゃあその話は置いといて早速なのだが……」
 
 ―――グゥ~~~~

「「ッッッ!?」」

 二人の腹部から盛大に鳴る大きな音。それと連動し、二人の少女は頬が赤く染まる。
 そんな姿を見ると、二人は動揺しあたふたし始めた。
 
「お、お腹がすいているのか?」
「いえ、そそそんなことは!」
「わ、わわわたしも大丈夫ですっ」

 動揺している様子からお腹が空いていることは間違いない。
 
(そういえば昨日から何も食べていなかったな)

 実際俺も腹が減っているかと言われれば否定はできない。
 
「―――腹が減っては修行はできぬ……か」
 
 バルトスクルムが前に言っていた言葉をふと思い出す。
 俺はそんな言葉を脳内に留めながら二人に、
 
「修行前に何か食べるか?」

 そう提案すると二人は食いつくようにうんうんと頭をペコペコさせる。
 
「じゃあ決まりだ。で、二人は何が食べたいのだ?」
「あ、あのレギルスさん。その前に……」
「ん?」
 
 メロディアはモジモジしながら浴室の方へと視線を合わせる。
 そして彼女は赤面しながらもこう言い放ったのだ。

「そのお風呂に……お風呂に入りませんか!?」
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