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一章 「二人の少女」
02.解放と出会い
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賢者。それは人の想像を遥かに超える知力と圧倒的な魔力を持ち合わせるこの世で10本の指に入るほどしか存在しない異端者たちだ。
そして、俺にはただ一人を除いて決して誰にも言えない秘密を持っている。
その秘密は俺がその異端者候補、いわゆる賢者見習いということだ。共に行動をしているあの本バカ、ボルゼベータも同様だった。ただ一人を除くと言ったのはそういうこと。
そして彼もまた、俺と同じように賢者見習いとして大賢者バルトスクルムに旅と言う名の修行を課された身だった。
刻印を押され、賢界から人間界へ転移させられたときは驚いたものだ。
それにお互い犬猿の仲とはいえ、一緒に行動を共にしているのも全てバルトスクルムによる指示でもあった。
俺たち二人は旅に出る前は聖域の樹海という賢者たちの集う現実世界とは隔離された場所でひっそりと育ち、そして成人の儀を間近に迎えたちょうど2年前に突如バルトスクルムからとある試練が課された。
その内容は俺たち賢者見習いに与えられた右手の刻印が全てを物語っている。
『制約の刻印』
バルトスクルムは俺たちの手の甲に刻んだ刻印をそう呼んだ。
彼が言うにはこの刻印には魔力を強制的に抑制させる力を持つという。理由は俺たちが持つ絶大かつ驚異的な力を下界に漏らさないためだ。
そしてこの刻印が完全に消えた時、また自分の元に来るようにとそう言ったのだ。
そう告げられた俺たちは急遽聖域の樹海を出ることになってしまい、刻印消しという目的を引っ提げて今に至る。
俺が普段から力を伏しているのとボルと共にパーティーを組んだりしていないのはバルトスクルムから告げられた約束という理由と決して自分の身元が明かされてはいけないという守護的理由からだった。
♦
「はぁ……」
ただひたすらに溜息しか出ない。今まで味わってきた苦痛の中でも最高ランクの出来事だった。
「……くだらない」
そう呟き、俺は宿屋で借りた一室の鍵を静かに開ける。
すると目の前には珍しくもベッドの上に座るボルの姿が見えた。
相変わらず本を片手に持ち、黙読している。
(まだ読んでいるのかこいつ。まったくお気楽で羨ましいこと)
心の中で愚痴を垂れ流し、俺は所持品の全てをテーブルに置く。
すると、
「……ふん、最高にいい顔をしているなレギルスよ。最愛の女とやらに捨てられたか?」
「……ッ!」
的確な推測をしてくるボルについムッとなってしまい、睨みつける。
顔を見ていないのになぜそんなことが分かるのかといつも思うくらい勘だけは鋭いのがボルだった。
(脳筋野郎のくせしてなんでそんなことは分かるんだよ)
しかもかなりナーバスになっていることに煽りという高等テクニックまで入れてきた。
こいつは気遣いって言葉を知らないのか?
そう思いつつも、今の俺には声に出して返答する気力すらなかった。
ショックのあまり精神的に参る一歩手前だったのだ。
「―――情けない」
俺はボルに何も言うことなく、そのまま手ぶらで部屋を後にした。
♦
―――水都ゼヴァン郊外、マロル湖
「……ここは相変わらずだな」
俺はゼヴァン郊外にあるとある湖の畔にいた。
何か不幸なことがあった時は必ずここに来て心を癒すのが俺にとってはこの上ない精神的治療法だった。
水都ゼヴァンの水はここから地下水道を通って運ばれている。ゴミ一つ浮かんでない澄み切った水が特徴的な湖でただ見つめているだけでも心の癒しを感じ取ることができる。
自然が生み出した芸術、まさにこの湖はそれを体現しているかのような場所だった。
「やっぱここにいる時が一番の至福だな」
此処にいるときは嫌な事も忘れられ、荒んだ世の中が馬鹿馬鹿しく見える程だ。
「風も気持ちいい」
座りながら湖を眺め、そう呟く。
初めてできた彼女に豪快な振られ方をしてもここに来ればその痛みが少しずつ和らいでいくのだから不思議なものだ。
俺はしばらく目を瞑り、自然を堪能する。
だがその時だった。
「だ、誰か……誰か!」
どこからか聞こえる女の声。距離はそこまで遠くはなかった。
「なんだ?」
俺はすぐさま立ち上がり、その声のした方向へと走っていく。
「助けて……誰か!」
その声は近づくにつれて大きくなっていく。目を凝らし、少々薄暗さのある森を駆ける。
そして―――
「あれか……!」
声の主らしき人物を発見。二人の少女が何者かに囲まれているシーンが目に映る。
「あれはトロールか?」
緑色に光沢の持つ巨体が5体。表面はねっとりしてそうな雰囲気を醸し出し、みな揃って木製の棍棒を片手に持っていた。
そして少女たちの方は推測すると片方はロッドを持っていたため魔術師、もう片方は細剣(レイピア)使いと見受けられるが負傷を負っている様子だった。
その上見る限り少女たちの方は絶体絶命、打つ手なしといった状況だった。
「まずい、あのままじゃ彼女たちは……」
間違いなく殺される。こんな最悪の日に追い打ちをかけるようにして人の死体を見るなんてごめんだ。
ただでさえ、心が沈んでるってのに……
「≪ラピッド/高速移動≫!」
舌打ちをし、俺は自身に強化魔法を付与。少女たちのもとへと一気に近づく。
トロールたちはなすすべなしの彼女たちめがけて棍棒を振り上げる。
「―――間に合え!」
もうダメだと言わんばかりに目を瞑る魔術師の少女。
そしてトロールが振り下ろした瞬間、俺は少女たちの前でその一撃を素手で受け止める。
「よし、間に合ったな」
何かがおかしいと悟ったのかゆっくりと目を開眼させる少女。
俺は彼女の安否を確かめた所で棍棒を振りほどき、トロールの腹部に一発くらわせる。
その一撃に苦痛の悲鳴をあげるトロール。だが俺は手を休めない。
残り4体のトロールも巧みな格闘捌きで次々に蹂躙していく。
(今日(こんにち)の俺に会ってしまったのが運の尽きだったな。俺は今最高にむしゃくしゃしてるんだ)
つい先ほど起こった悲劇をふと思い出す。考えれば考えるほど胸糞が悪い。
俺はその飲み込んだ悲しさを力に変え、グッと構える。
―――これで終わりだ。
「≪ジ・エンファイア/漠然たる業火≫」
第3位階の中位魔法をトロールたちにくらわせエンド。
再生の隙も与えないほどに焼き尽くす。
「あのトロールを一瞬で……」
驚きの声が背後から小さく聞こえる。
だが俺にとっては朝飯前もいいところだった。
「ふん、他愛もないな」
手ごたえのなさに呆れる。だが久々に力を解放したのはこれが久しぶりだった。
パーティーでは自身の立場上、本来の力を隠しながら今までやってきたためまともな力を行使したのは半年ぶりだった。
(あまりにも力を使わなさ過ぎてちょっと鈍ったか?)
とはいっても強大な力を行使することはこの右手に刻まれた刻印が許さない。
刻印の性質上、第7位階以降の高位魔法を発動すると抑制呪術が発動するため実質上自身そのものの力は封印されていると言っても過言ではない。
俺たち賢者見習いの行き過ぎた力によって下界に被害が被らないようにある程度の能力を制限させるっていうバルトスクルムの魂胆でもあるのだろう。
まぁ今はそんなことはどうでもいい。
俺はすぐさま少女たちの方を振り返り、ゆっくりと近づく。
「大丈夫だったか?」
そっと声をかけ、返答を待つ。
「は、はい……大丈夫です。ありがとうございます」
少し不安げな表情を見せつつ、少女はボソッと言う。
そして少女は続けて、
「あ、あの……!」
なにか言いたげなご様子。まぁ大体言いたいことは理解できる。
俺は彼女が言う前にその話題に触れる。
「おいその子、ケガをしているだろ? ちょっと見せてみろ」
「あ……は、はい!」
少女の表情に少しだけ明るさが戻った。
確かに初対面の、しかも異性の相手に何かを頼むことは勇気が必要だ。だが俺は負傷者を目の前にして何もしないほど腐った男ではない。
彼女が何も言わずとも初めから治療するつもりだったし。
俺はケガをした少女の身体に向けて手を翳し、一声。
「≪ブリスヒール/至極の癒し≫」
瞬間、ケガを負ったもう一人の少女の身体はみるみる治っていく。
そして5秒ほどたった時には既に傷口一つ残らない綺麗な身体に仕上がっていた。
「す、すごい……」
ただ少女はきょとんとした目でその過程を見つめる。
(何が起きたか分からないって感じの顔だな)
ま、初めて人に特殊な中位回復魔法を見せたから驚くのも無理はない。この治癒魔法は限られた回復術師にしか使えないから物珍しいのだ。
「ふぅ……治療完了っと」
額に滴る汗を拭い、俺はゆっくりと立つ。
太陽の動向から察するにもうそろそろ日が暮れる頃合いだ。
湖からその先まで続く森は昼であっても薄暗さがあるため、太陽の位置から把握しないと時刻が特定できないのだ。
それに生憎今の俺は手ぶら。時計も宿に置きっぱなしだ。
(さて、そろそろ帰るか)
「じゃあ、俺はこれで。次からは気を付けるんだぞお嬢さん」
そう一言告げ、俺は二人の少女に背中を向け去ろうとする。
だがその時、
「ま、待ってください!」
「……ん?」
今までの中で一番声を張り上げた少女の姿に俺はなにかを悟る。
「どうした? まだ他に何かあるのか?」
俺はその低い声で彼女に尋ねる。
だが少女はしばらく何も言わない。モジモジしていて言葉が出てこない様子だった。
(なんだ、俺なんか変なことでもしたか?)
心当たりはない。
だが次の瞬間、その少女は俺に、
「あの、助けてもらっておいて非常に失礼なのですが、私に……」
拳をぎゅっと握りしめ、勇気を振り絞る。
そして少女は俯いた顔をあげ、さらに続ける。
「私に先ほど見せていただいた治癒魔法を教えてはいただけないでしょうか!」
その可憐な銀髪ロングヘアを揺らし、淡いライトブルーの瞳をこちらに向けながら少女はこう言い放った。
そして、俺にはただ一人を除いて決して誰にも言えない秘密を持っている。
その秘密は俺がその異端者候補、いわゆる賢者見習いということだ。共に行動をしているあの本バカ、ボルゼベータも同様だった。ただ一人を除くと言ったのはそういうこと。
そして彼もまた、俺と同じように賢者見習いとして大賢者バルトスクルムに旅と言う名の修行を課された身だった。
刻印を押され、賢界から人間界へ転移させられたときは驚いたものだ。
それにお互い犬猿の仲とはいえ、一緒に行動を共にしているのも全てバルトスクルムによる指示でもあった。
俺たち二人は旅に出る前は聖域の樹海という賢者たちの集う現実世界とは隔離された場所でひっそりと育ち、そして成人の儀を間近に迎えたちょうど2年前に突如バルトスクルムからとある試練が課された。
その内容は俺たち賢者見習いに与えられた右手の刻印が全てを物語っている。
『制約の刻印』
バルトスクルムは俺たちの手の甲に刻んだ刻印をそう呼んだ。
彼が言うにはこの刻印には魔力を強制的に抑制させる力を持つという。理由は俺たちが持つ絶大かつ驚異的な力を下界に漏らさないためだ。
そしてこの刻印が完全に消えた時、また自分の元に来るようにとそう言ったのだ。
そう告げられた俺たちは急遽聖域の樹海を出ることになってしまい、刻印消しという目的を引っ提げて今に至る。
俺が普段から力を伏しているのとボルと共にパーティーを組んだりしていないのはバルトスクルムから告げられた約束という理由と決して自分の身元が明かされてはいけないという守護的理由からだった。
♦
「はぁ……」
ただひたすらに溜息しか出ない。今まで味わってきた苦痛の中でも最高ランクの出来事だった。
「……くだらない」
そう呟き、俺は宿屋で借りた一室の鍵を静かに開ける。
すると目の前には珍しくもベッドの上に座るボルの姿が見えた。
相変わらず本を片手に持ち、黙読している。
(まだ読んでいるのかこいつ。まったくお気楽で羨ましいこと)
心の中で愚痴を垂れ流し、俺は所持品の全てをテーブルに置く。
すると、
「……ふん、最高にいい顔をしているなレギルスよ。最愛の女とやらに捨てられたか?」
「……ッ!」
的確な推測をしてくるボルについムッとなってしまい、睨みつける。
顔を見ていないのになぜそんなことが分かるのかといつも思うくらい勘だけは鋭いのがボルだった。
(脳筋野郎のくせしてなんでそんなことは分かるんだよ)
しかもかなりナーバスになっていることに煽りという高等テクニックまで入れてきた。
こいつは気遣いって言葉を知らないのか?
そう思いつつも、今の俺には声に出して返答する気力すらなかった。
ショックのあまり精神的に参る一歩手前だったのだ。
「―――情けない」
俺はボルに何も言うことなく、そのまま手ぶらで部屋を後にした。
♦
―――水都ゼヴァン郊外、マロル湖
「……ここは相変わらずだな」
俺はゼヴァン郊外にあるとある湖の畔にいた。
何か不幸なことがあった時は必ずここに来て心を癒すのが俺にとってはこの上ない精神的治療法だった。
水都ゼヴァンの水はここから地下水道を通って運ばれている。ゴミ一つ浮かんでない澄み切った水が特徴的な湖でただ見つめているだけでも心の癒しを感じ取ることができる。
自然が生み出した芸術、まさにこの湖はそれを体現しているかのような場所だった。
「やっぱここにいる時が一番の至福だな」
此処にいるときは嫌な事も忘れられ、荒んだ世の中が馬鹿馬鹿しく見える程だ。
「風も気持ちいい」
座りながら湖を眺め、そう呟く。
初めてできた彼女に豪快な振られ方をしてもここに来ればその痛みが少しずつ和らいでいくのだから不思議なものだ。
俺はしばらく目を瞑り、自然を堪能する。
だがその時だった。
「だ、誰か……誰か!」
どこからか聞こえる女の声。距離はそこまで遠くはなかった。
「なんだ?」
俺はすぐさま立ち上がり、その声のした方向へと走っていく。
「助けて……誰か!」
その声は近づくにつれて大きくなっていく。目を凝らし、少々薄暗さのある森を駆ける。
そして―――
「あれか……!」
声の主らしき人物を発見。二人の少女が何者かに囲まれているシーンが目に映る。
「あれはトロールか?」
緑色に光沢の持つ巨体が5体。表面はねっとりしてそうな雰囲気を醸し出し、みな揃って木製の棍棒を片手に持っていた。
そして少女たちの方は推測すると片方はロッドを持っていたため魔術師、もう片方は細剣(レイピア)使いと見受けられるが負傷を負っている様子だった。
その上見る限り少女たちの方は絶体絶命、打つ手なしといった状況だった。
「まずい、あのままじゃ彼女たちは……」
間違いなく殺される。こんな最悪の日に追い打ちをかけるようにして人の死体を見るなんてごめんだ。
ただでさえ、心が沈んでるってのに……
「≪ラピッド/高速移動≫!」
舌打ちをし、俺は自身に強化魔法を付与。少女たちのもとへと一気に近づく。
トロールたちはなすすべなしの彼女たちめがけて棍棒を振り上げる。
「―――間に合え!」
もうダメだと言わんばかりに目を瞑る魔術師の少女。
そしてトロールが振り下ろした瞬間、俺は少女たちの前でその一撃を素手で受け止める。
「よし、間に合ったな」
何かがおかしいと悟ったのかゆっくりと目を開眼させる少女。
俺は彼女の安否を確かめた所で棍棒を振りほどき、トロールの腹部に一発くらわせる。
その一撃に苦痛の悲鳴をあげるトロール。だが俺は手を休めない。
残り4体のトロールも巧みな格闘捌きで次々に蹂躙していく。
(今日(こんにち)の俺に会ってしまったのが運の尽きだったな。俺は今最高にむしゃくしゃしてるんだ)
つい先ほど起こった悲劇をふと思い出す。考えれば考えるほど胸糞が悪い。
俺はその飲み込んだ悲しさを力に変え、グッと構える。
―――これで終わりだ。
「≪ジ・エンファイア/漠然たる業火≫」
第3位階の中位魔法をトロールたちにくらわせエンド。
再生の隙も与えないほどに焼き尽くす。
「あのトロールを一瞬で……」
驚きの声が背後から小さく聞こえる。
だが俺にとっては朝飯前もいいところだった。
「ふん、他愛もないな」
手ごたえのなさに呆れる。だが久々に力を解放したのはこれが久しぶりだった。
パーティーでは自身の立場上、本来の力を隠しながら今までやってきたためまともな力を行使したのは半年ぶりだった。
(あまりにも力を使わなさ過ぎてちょっと鈍ったか?)
とはいっても強大な力を行使することはこの右手に刻まれた刻印が許さない。
刻印の性質上、第7位階以降の高位魔法を発動すると抑制呪術が発動するため実質上自身そのものの力は封印されていると言っても過言ではない。
俺たち賢者見習いの行き過ぎた力によって下界に被害が被らないようにある程度の能力を制限させるっていうバルトスクルムの魂胆でもあるのだろう。
まぁ今はそんなことはどうでもいい。
俺はすぐさま少女たちの方を振り返り、ゆっくりと近づく。
「大丈夫だったか?」
そっと声をかけ、返答を待つ。
「は、はい……大丈夫です。ありがとうございます」
少し不安げな表情を見せつつ、少女はボソッと言う。
そして少女は続けて、
「あ、あの……!」
なにか言いたげなご様子。まぁ大体言いたいことは理解できる。
俺は彼女が言う前にその話題に触れる。
「おいその子、ケガをしているだろ? ちょっと見せてみろ」
「あ……は、はい!」
少女の表情に少しだけ明るさが戻った。
確かに初対面の、しかも異性の相手に何かを頼むことは勇気が必要だ。だが俺は負傷者を目の前にして何もしないほど腐った男ではない。
彼女が何も言わずとも初めから治療するつもりだったし。
俺はケガをした少女の身体に向けて手を翳し、一声。
「≪ブリスヒール/至極の癒し≫」
瞬間、ケガを負ったもう一人の少女の身体はみるみる治っていく。
そして5秒ほどたった時には既に傷口一つ残らない綺麗な身体に仕上がっていた。
「す、すごい……」
ただ少女はきょとんとした目でその過程を見つめる。
(何が起きたか分からないって感じの顔だな)
ま、初めて人に特殊な中位回復魔法を見せたから驚くのも無理はない。この治癒魔法は限られた回復術師にしか使えないから物珍しいのだ。
「ふぅ……治療完了っと」
額に滴る汗を拭い、俺はゆっくりと立つ。
太陽の動向から察するにもうそろそろ日が暮れる頃合いだ。
湖からその先まで続く森は昼であっても薄暗さがあるため、太陽の位置から把握しないと時刻が特定できないのだ。
それに生憎今の俺は手ぶら。時計も宿に置きっぱなしだ。
(さて、そろそろ帰るか)
「じゃあ、俺はこれで。次からは気を付けるんだぞお嬢さん」
そう一言告げ、俺は二人の少女に背中を向け去ろうとする。
だがその時、
「ま、待ってください!」
「……ん?」
今までの中で一番声を張り上げた少女の姿に俺はなにかを悟る。
「どうした? まだ他に何かあるのか?」
俺はその低い声で彼女に尋ねる。
だが少女はしばらく何も言わない。モジモジしていて言葉が出てこない様子だった。
(なんだ、俺なんか変なことでもしたか?)
心当たりはない。
だが次の瞬間、その少女は俺に、
「あの、助けてもらっておいて非常に失礼なのですが、私に……」
拳をぎゅっと握りしめ、勇気を振り絞る。
そして少女は俯いた顔をあげ、さらに続ける。
「私に先ほど見せていただいた治癒魔法を教えてはいただけないでしょうか!」
その可憐な銀髪ロングヘアを揺らし、淡いライトブルーの瞳をこちらに向けながら少女はこう言い放った。
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