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58.真相

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「俺たちを逃がしてやるために……だと?」
「……ああ、信じられないか?」

 男の放ったその一言に俺は言葉を失う。
 妥当だと思った予想は全て外れ、まさかの返答が返ってきたからだ。

(俺たちを救う……? 何のために?)

 その場で再び無い脳を働かせるが、適当な解答は出てこない。
 だが、一つおかしな点を挙げるとすれば……

「……ってことはおっさんは俺たちをここから逃がさせるためにこんな旨いメシを食わせてくれたってわけ?」
 
 ……と、ここでレオスが気になっていた疑問を直に男にぶつけてくれた。
 男は迷う素振りも見せず首を縦にふると、

「ああ。その通りだうるさい方の坊主」

(うるさい方の坊主って……)

 答えより呼び方の方に気を取られてしまう。
 すると、

「あのな、おっさん! 俺は坊主じゃなくてって名前があるんだ。その呼び方は勘弁だぜ」

 ここにも一人。俺と同じように呼び方を気にする男がいた。
 しかもその反動からかペラペラと自分の名前まで言ってしまう。

「お、おいレオス、ここがどこだか分かっているのか? あまり自分の名を口にするものじゃ……」

 小声でレオスにそう伝えるが、彼は余裕な表情を浮かべ、

「いやいや、大丈夫だって。おっさんは悪い人じゃねぇよ」
「どうしてそこまで信用できる? もしかしたらこれは罠なのかもしれないんだぞ?」
「……いや、それはない」
「……!?」

 突然。レオスは目つきをきつくし、真顔でそう言い放つ。
 その表情はさっきまでヘラヘラと弛んだ笑みを浮かべていた奴と同じ人物なのかというほどに真剣そのものだった。

「それはないって……どういうことだ?」

 レオスの瞬時の切り替えに圧倒され、少し身を縮める。
 レオスはその表情を保ったまま、俺の問いに答え始めた。

「テントだ。このテントは周りのテントよりも少し遠くに設置されていたんだ」
「テント……?」

 俺はすぐにテントの外に出て周りを見渡す。
 もうすっかり日は落ちて真っ暗だったが、懐にあった光を放つ簡易灯という魔道具を使い、辺りを見渡してみる。

 するとどうだろうか。
 
 レオスの言う通り、周りには同じようなテントはなく、一言で言えば完全に孤立した場所にこのテントは設置されていた。
 そしてそれを見た瞬間、俺も一つの答えに辿り着く。

「……」
「お、お帰りゼナリオ。どうだった?」
「……ああ。お前の言う通りだったよ。周りにテントはなかった」
「だろ? さっすがオレ! よく見てるぅ~~」

 ああ……こいつ、調子に乗り始めたな。

 でも今回ばかりは許すことにする。
 何せ、彼のおかげでこの男の意図することのヒントが分かったのだから。

 俺は再びテントの中に腰を落ち着かせ、男の方を向く。

「どうした坊主? 何か言いたげな顔だが……」
「お礼を言いたい。俺たちを助けていただいたこと、感謝する」
「……お、おい。いきなりなんだ? さっきまでとは態度が随分違うように見えるのだが?」

 戸惑う男に俺はさらに話を続けた。

「あんたは俺たちを殺すつもりなんて毛頭なく、助けようとしていた事実が分かったからだ。レオスの言っていたテントもそうだし、何より決定的だったのはテントの半径10mほどに結界が張られていたことだ」
「け、結界だと!?」
「ああ。ものすごく分かりにくかったけどな」

 さすがにレオスもこれには気づかなかったようで驚きの顔を見せる。
 そして男も俺の回答に少し驚いていた。

「ぼ、坊主。お前さん、結界を見ることが出来るのか?」
「まぁ、結界術を少しかじってたんで」
「ふっ、そうか。これはたまげたな」

 それはこっちも同じだ。
 確かに俺くらいの年齢で結界を目視できるのは俺くらいしかいないだろう。

 でも勉強さえすればそれは誰もが可能なこと。結界術は他のどの学問よりも難しいと言われているが、努力でカバーできる。

 だがそれらを行使するとなったら話は別。結界術という複雑かつ繊細な術式を扱うにはそれ相応の知識と技能が必要だ。

 それも1年、2年なんかの生半可な期間じゃ絶対に会得することはできない。
 どんなに天才と言われようが、一つの結界術を構築するのに5年はかかると言われている。

 だからこそ、結界が扱える者は誰であろうと優遇される。
 それも地位は身分なんか関係なく……

 それに、一人で一つの結界を張るのは相当な魔力を有するはずだ。
 だけどこの男はわざわざ結界を張った上に、他のテントよりも遠くの場所に自分のテントを設置した。

 元々殺すつもりであるならこんなことする必要なんかない。 
 俺だったら見せしめにみんなの元へと連れ出してそのまま公開処刑を敢行するだろう。

 まだ完全に信じることはできないけど、殺気だけはないことは分かった。
 だが問題はその先だ。

 なぜこの男は俺たちを助けたのか?

 同情? 人情?

 考えてはみたが、俺には全く見当がつかなかった。
 
 だからこそ、俺は――

「一つ質問してもいいか? おじさん」
「……ん? なんだ?」

 目を合わせ、凝視してくる男。
 俺も相手の目をしっかりと見つめ、一つの問いを発した。

「……なぜ、俺たちを助けたんだ? 貴方は一体……」

 何者なんだ? と……。
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