60 / 65
58.真相
しおりを挟む「俺たちを逃がしてやるために……だと?」
「……ああ、信じられないか?」
男の放ったその一言に俺は言葉を失う。
妥当だと思った予想は全て外れ、まさかの返答が返ってきたからだ。
(俺たちを救う……? 何のために?)
その場で再び無い脳を働かせるが、適当な解答は出てこない。
だが、一つおかしな点を挙げるとすれば……
「……ってことはおっさんは俺たちをここから逃がさせるためにこんな旨いメシを食わせてくれたってわけ?」
……と、ここでレオスが気になっていた疑問を直に男にぶつけてくれた。
男は迷う素振りも見せず首を縦にふると、
「ああ。その通りだうるさい方の坊主」
(うるさい方の坊主って……)
答えより呼び方の方に気を取られてしまう。
すると、
「あのな、おっさん! 俺は坊主じゃなくてレオスって名前があるんだ。その呼び方は勘弁だぜ」
ここにも一人。俺と同じように呼び方を気にする男がいた。
しかもその反動からかペラペラと自分の名前まで言ってしまう。
「お、おいレオス、ここがどこだか分かっているのか? あまり自分の名を口にするものじゃ……」
小声でレオスにそう伝えるが、彼は余裕な表情を浮かべ、
「いやいや、大丈夫だって。おっさんは悪い人じゃねぇよ」
「どうしてそこまで信用できる? もしかしたらこれは罠なのかもしれないんだぞ?」
「……いや、それはない」
「……!?」
突然。レオスは目つきをきつくし、真顔でそう言い放つ。
その表情はさっきまでヘラヘラと弛んだ笑みを浮かべていた奴と同じ人物なのかというほどに真剣そのものだった。
「それはないって……どういうことだ?」
レオスの瞬時の切り替えに圧倒され、少し身を縮める。
レオスはその表情を保ったまま、俺の問いに答え始めた。
「テントだ。このテントは周りのテントよりも少し遠くに設置されていたんだ」
「テント……?」
俺はすぐにテントの外に出て周りを見渡す。
もうすっかり日は落ちて真っ暗だったが、懐にあった光を放つ簡易灯という魔道具を使い、辺りを見渡してみる。
するとどうだろうか。
レオスの言う通り、周りには同じようなテントはなく、一言で言えば完全に孤立した場所にこのテントは設置されていた。
そしてそれを見た瞬間、俺も一つの答えに辿り着く。
「……」
「お、お帰りゼナリオ。どうだった?」
「……ああ。お前の言う通りだったよ。周りにテントはなかった」
「だろ? さっすがオレ! よく見てるぅ~~」
ああ……こいつ、調子に乗り始めたな。
でも今回ばかりは許すことにする。
何せ、彼のおかげでこの男の意図することのヒントが分かったのだから。
俺は再びテントの中に腰を落ち着かせ、男の方を向く。
「どうした坊主? 何か言いたげな顔だが……」
「お礼を言いたい。俺たちを助けていただいたこと、感謝する」
「……お、おい。いきなりなんだ? さっきまでとは態度が随分違うように見えるのだが?」
戸惑う男に俺はさらに話を続けた。
「あんたは俺たちを殺すつもりなんて毛頭なく、助けようとしていた事実が分かったからだ。レオスの言っていたテントもそうだし、何より決定的だったのはテントの半径10mほどに結界が張られていたことだ」
「け、結界だと!?」
「ああ。ものすごく分かりにくかったけどな」
さすがにレオスもこれには気づかなかったようで驚きの顔を見せる。
そして男も俺の回答に少し驚いていた。
「ぼ、坊主。お前さん、結界を見ることが出来るのか?」
「まぁ、結界術を少しかじってたんで」
「ふっ、そうか。これはたまげたな」
それはこっちも同じだ。
確かに俺くらいの年齢で結界を目視できるのは俺くらいしかいないだろう。
でも勉強さえすればそれは誰もが可能なこと。結界術は他のどの学問よりも難しいと言われているが、努力でカバーできる。
だがそれらを行使するとなったら話は別。結界術という複雑かつ繊細な術式を扱うにはそれ相応の知識と技能が必要だ。
それも1年、2年なんかの生半可な期間じゃ絶対に会得することはできない。
どんなに天才と言われようが、一つの結界術を構築するのに5年はかかると言われている。
だからこそ、結界が扱える者は誰であろうと優遇される。
それも地位は身分なんか関係なく……
それに、一人で一つの結界を張るのは相当な魔力を有するはずだ。
だけどこの男はわざわざ結界を張った上に、他のテントよりも遠くの場所に自分のテントを設置した。
元々殺すつもりであるならこんなことする必要なんかない。
俺だったら見せしめにみんなの元へと連れ出してそのまま公開処刑を敢行するだろう。
まだ完全に信じることはできないけど、殺気だけはないことは分かった。
だが問題はその先だ。
なぜこの男は俺たちを助けたのか?
同情? 人情?
考えてはみたが、俺には全く見当がつかなかった。
だからこそ、俺は――
「一つ質問してもいいか? おじさん」
「……ん? なんだ?」
目を合わせ、凝視してくる男。
俺も相手の目をしっかりと見つめ、一つの問いを発した。
「……なぜ、俺たちを助けたんだ? 貴方は一体……」
何者なんだ? と……。
0
お気に入りに追加
2,553
あなたにおすすめの小説
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる