転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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「……ん、なんだ? うわっっ!」

 沈黙。

 俺はコンバットナイフの付け根を用い、対象ターゲットであった一人を無力化させる。

(まずは一つ……)

 すると少し距離を置いていたもう一人の対象ターゲットが異変に気がつき、近づいてきた。

「お、おいどうし……ぐはっ!」

 瞬間、俺は即座に対象を切り替え、得意である近接格闘で相手をなぎ倒す。
 
 そのレスポンスタイムは2秒もなかった。

 自分で言うのもあれだが、敵を即座に無力化できる速さは誰よりも速くできるという自信がある。
 
 今までの任務もこの能力を使って何度も戦場を生き抜いてきた。

 もちろん場合によっては殺傷する時もあるのだが、こういう隠密行動での任務や大多数を相手する時は殺すより無力化させた方が遥かに楽なので効率性重視で基本的に殺傷はしない。

 それに、俺も一応は人の子だ。
 
 戦争とはいえ、形振り構わず殺すのはあまり好きじゃない。
 
 ただ、状況によっては容赦しない時もあるけどね。

「レオス、もう大丈夫だ。すぐに出てこい」

 草むらの向こうにいるレオスに小さな声で呼びかける。

 するとレオスはガサガサと音を立てながら、草むらの中から出てきた。

「お、お前凄いな。何だよ今の技は……」
「今の技って……単なるCQCだが?」
「し、しーきゅーしー?」
「クロース・クォーターズ・コンバット、近接格闘を指す言葉だ。お前も訓練で習っただろう?」
「え、えーっと……そうだっけ?」
「お、お前なぁ……」
 
 真面目に訓練を受けていなかったことがここで露呈。
 CQCって言ったら訓練だと一番最初らへんに学ぶようなことだぞ?

 確かに俺のは少し自己流で訓練で教わった時のとは違うけど……

「ま、まぁいいや。とりあえず早く着替えろ。時間は有限だ」
「お、おう……!」

 今は呑気に話している暇じゃない。

 俺たちはすぐに兵たちの装備を丸ごと奪取し、バレないように顔を布で巻き付ける。
 
「よし、これで脱出への可能性が広がった。まずはできるだけ敵兵に目をつけられないようにここから出るぞ」
「分かった。頼むゼナリオ」
「ああ、任せておけ」

 胸部を拳でバンっと叩き、彼の前へ出て先導する。

 まずは第一関門突破というところだろう。

 この行動が後にどういう展開に結びつくのかは分からないが、何もせずに見つかるという最悪の事態は脱することが出来た。

(このまま何もなく森から出られればいいのだが……)

 そんな期待を抱きつつも、俺たちの脱出作戦は第2段階へと突入した。

 ♦

「……思った以上に張ってるな」
「行けそうか?」
「いや、この恰好でも誤魔化しきれるかってとこだな」

 偽装をしながらも、草むらの中で息を潜める二人の男の影。
 
 俺たちは森の出口付近にまで足を進めていた。

 だがよりにもよって出口付近に多くの敵兵が完全武装をして立っており、森を抜けようとする荷車や客車付きの馬車などを追い返したりしていた。
 
 ま、あんなことがあった後なのだ。
 別におかしな話じゃない。

 でも俺たちからすればこの状況は……

「厳しいな……」
「で、でもよ。変装はバッチリなんだぜ? そう簡単にはバレやしないだろ」
「だといいがな……」

 というのも今の俺の頭の中には”確実”という言葉が最優先にあった。
 
 ここでいう確実というのはリスクを冒さず、二人とも無事に脱出すること。

 変装とは言っても、顔を見られれば一発でバレてしまう。
 そのために布で顔を覆うようにさせたのだが、怪しまれたらそこでお終いだ。

 少しはマシな状況にはなったものの、窮地に立たされているという現実は変わらない。

 なのでわざわざ危険な橋を渡るよりも他の方法を探した方が合理的なんじゃないかという考えがあり、行動することを躊躇していたわけだ。

「くっ、最後の最後で……」
「ど、どうする? このまま正面突破で行くのか? それとも他のルートで……」
「いや、それは無理だ。俺たちの拠点キャンプまで一番近いルートはここしかない。それに、今引き返すのはかなり危険だ。さっきより見張りの兵も増えているようだしな」
「じゃ、じゃあ……」

 必死に考え、脱出への鍵を探す。
 だが考えれば考えるほど、名案は出てこない。

 不思議なもので名案というのは考えようとしても中々出てこないものだ。
 そして逆に何も考えていない時にポンと出てくることが多い。

 今、俺はまさにそんな状況に遭っていた。

(くそっ、どうすれば……)

 思考地獄に陥り、頭を抱えていたその時だった。

『お、おい……お前らなにやってんだ?』

(ん、声……?)

 どこからか誰かの声が聞こえてくる。
 だが見たところ、周りに誰かいる気配はない。

「な、なぁレオス。お前今なんか喋ったか?」

 一応レオスに聞いてみる、が……

「いや? 俺は何も喋ってないぞ」
「は? じゃあ、さっきの声は……」

『おーい、聞いてんのかお前らー。そこの草むらに隠れているサボり兵ふたりー!』

 やはり声が聞こえる。
 しかもこれは……背後からか?

 レオスもこの声に気がついたようで、すぐに俺の方を向いた。

「ぜ、ゼナリオ。声が……」
「あ、ああ……しかも後ろから聞こえないか?」

 敵に見つからないようにうつ伏せになり、草むらに顔を突っ込ませているような態勢でいるためか視界は前方180°しか見えておらず、背後は完全にフリーな状況だった。

 だが声は紛れもなく後ろから聞こえてくるので俺たちはすぐに草むらから顔を引っ込め、恐る恐る後ろを振り向く。

 すると――

「……ようやくこっちを向いたか。こんなとこでなにしてたんだ、サボり野郎どもめ」

「「ッッッッッッ!?」」

 この時、俺たちはまるで身体に電撃が流れたかのようにビクッと動いた。

 そう、そこにいたのは軍服を着用し、鷹のような鋭い目つきをした一人の大男。

 その巨体をどっしりと構え、腕を組みながら、その鋭い目で俺たちを見下ろしていたのだ。
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