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46.リーリア・グレースレイド6
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「つまり、遺言状に書かれた通りのことをしただけで自分は何もしていないと」
「はい……」
リーリアは溜息を吐きながら、肩を落とす。
彼女の悩みの一つは至って単純なものだった。
それは一言で言えば、今まで自分が築きあげてきた名声は全部祖父であるアルーフによって与えられたものだということ。
リーリアが受け取ったアルーフの遺言状には彼女に対する最後の言葉と、死ぬまでに書き綴った騎士団の今後が記されていた。
リーリアはただそれを忠実に実行し、そして……気がつけば人々から英雄と呼ばれるまでの存在になったのわけだ。
実際聞いてみると、前団長の気持ちはよく分かる。
恐らく若きリーリアに団を任せることにすごく不安を抱いていたのだろう。
それに、いきなりリーリアに組織を任せると言ったら確実に混乱することを悟ったからこその行動とも捉えられる。
もしそうなったら組織は崩壊。
ただでさえ、戦後で危険だった状態がさらに悪化し、危篤状態となってしまう。
これは俺の勝手な解釈だが、それを避けるために前団長はそんな遺言状を残したのだと思う。
でも、それを実行したことの見返りの大きさが、逆に彼女の中に悩みの種を植えこんでしまった。
真面目なリーリアにとっては、その親切心が苦痛に変わってしまったのだ。
「祖父は本当に何でもできるお方でした。人望も厚く、頭も良くて、その上剣の腕前も達者で。こうして今のバンガードを築き上げたのもあの方の功績あってのことです。元々バンガードという国は辺境の小国に過ぎませんでしたからね」
「そんな国を大陸連盟国までのし上げたってわけですか」
「そういうことになります」
話はリーリアの祖父の話へと切り替わる。
聞いてみるとその前団長という人は相当優秀な人間だったということが分かった。
一騎士団の団長という立場でありながら、政治家として国の政治にも関与し、隙間時間を作っては騎士団の強化・補強に努めた。
そしてその成果が大きな形で認められることとなり、今までは列強と呼ばれていた国の支配下にあったバンガードは自らの国力だけで独立することに成功。
バンガード王国として独立国を築き上げ、国力はもちろん、商業・産業・工業・林業・漁業とあらゆる分野において歴史的発展を遂げていった。
騎士団の方もそれに順次、武器や兵士などの訓練に莫大な財を投資し、団長である自分も一般兵と同じように訓練を受けることで、より強く、屈強な組織へと成長していった。
この後はもう、俺の知っての通りだ。
例の大陸間戦争によって団長、アルーフ・グレースレイドは戦死し、彼を支えた有能な幹部衆たちも国を守るために犠牲になった。
残ったのは当時はまだある戦闘小隊の小隊長だったライドと運よく生き残った一般兵だけ。
本当は国自体がなくなってもおかしな話ではなかったらしいが、彼らの犠牲の元で何とか国家滅亡を死守することに成功した。
そして次の団長の座についたリーリアが再び復興を掲げて立ち上がり、団内を改革を進めると共に、国の再生に尽力。
今に至るという筋書きなわけだ。
「そんなにすごい方だったのですね……」
「はい。それに、今のバンガードはそう言った人々の血肉によってできているものです。だからこそ、本当はおじいさまに頼らずとも国を、団を自分だけの力で変えたかった。でも……」
「自分には、それだけの技量がないと?」
「それもありますが、それよりももっと自分には足りなかったものがありました」
「それは?」
「……勇気です。私は国を、団を変えようと思う勇気がなかったのです」
リーリアは過去のことを思い出すたび、目を瞑りながら両拳をギュッと握る。
後悔、懺悔、何もできなかった自身への嫌悪。
彼女からはそれらのような負のオーラが全身から溢れ出ていた。
最初は人の決めたレールの上をただ歩いていただけの自分に苛立ちを覚えていたのだと思っていたが、そうではなく、彼女が本当に自分が許せなかったのは……
(変えようと思う、一歩踏み出そうと思う勇気……か)
一つ目は祖父の決めた道しか歩めなかったことに対する後悔と二つ目は勇気を出せなかったことに対する自分への怒り。
この二つが混沌として、リーリアの中に深い悩みを刻んでしまっていたのだ。
「情けないですよね。こんなことで悩んで……終いには逃げ出してしまいましたし」
「……」
「私は……団長としても、一人の人間としても失格です」
慰めようにも何と言えばいいか分からない。
今のリーリアは自分の殻の中に籠って身を守ることしかできていない。
誰が何と言おうと、簡単には彼女の心に響くことはないだろう。
こうして赤の他人である俺に心の内を話してくれただけでも御の字だ。
決闘して剣を交えた甲斐があった。
だが問題はここからだ。
今のリーリアを立ち直させるためにどうするべきか。
必死に頭の中で考える。
そして、考えに考えた末に一つだけ俺にも言えることがあるのを見つけた。
そう、それは――
「団長、少し俺の昔話を聞いてはいただけませんか?」
「ゼナリオさんのむかし……?」
フッと顔を上げこちらを見るリーリア。
どうやら興味? はあるようだ。
俺は彼女に「うん」と頷き、こう話す。
「少し長くはなりますけどね。でも、聞いていただけると嬉しいです。力を過信しすぎて、全てを失ったバカな男の話を……」
「はい……」
リーリアは溜息を吐きながら、肩を落とす。
彼女の悩みの一つは至って単純なものだった。
それは一言で言えば、今まで自分が築きあげてきた名声は全部祖父であるアルーフによって与えられたものだということ。
リーリアが受け取ったアルーフの遺言状には彼女に対する最後の言葉と、死ぬまでに書き綴った騎士団の今後が記されていた。
リーリアはただそれを忠実に実行し、そして……気がつけば人々から英雄と呼ばれるまでの存在になったのわけだ。
実際聞いてみると、前団長の気持ちはよく分かる。
恐らく若きリーリアに団を任せることにすごく不安を抱いていたのだろう。
それに、いきなりリーリアに組織を任せると言ったら確実に混乱することを悟ったからこその行動とも捉えられる。
もしそうなったら組織は崩壊。
ただでさえ、戦後で危険だった状態がさらに悪化し、危篤状態となってしまう。
これは俺の勝手な解釈だが、それを避けるために前団長はそんな遺言状を残したのだと思う。
でも、それを実行したことの見返りの大きさが、逆に彼女の中に悩みの種を植えこんでしまった。
真面目なリーリアにとっては、その親切心が苦痛に変わってしまったのだ。
「祖父は本当に何でもできるお方でした。人望も厚く、頭も良くて、その上剣の腕前も達者で。こうして今のバンガードを築き上げたのもあの方の功績あってのことです。元々バンガードという国は辺境の小国に過ぎませんでしたからね」
「そんな国を大陸連盟国までのし上げたってわけですか」
「そういうことになります」
話はリーリアの祖父の話へと切り替わる。
聞いてみるとその前団長という人は相当優秀な人間だったということが分かった。
一騎士団の団長という立場でありながら、政治家として国の政治にも関与し、隙間時間を作っては騎士団の強化・補強に努めた。
そしてその成果が大きな形で認められることとなり、今までは列強と呼ばれていた国の支配下にあったバンガードは自らの国力だけで独立することに成功。
バンガード王国として独立国を築き上げ、国力はもちろん、商業・産業・工業・林業・漁業とあらゆる分野において歴史的発展を遂げていった。
騎士団の方もそれに順次、武器や兵士などの訓練に莫大な財を投資し、団長である自分も一般兵と同じように訓練を受けることで、より強く、屈強な組織へと成長していった。
この後はもう、俺の知っての通りだ。
例の大陸間戦争によって団長、アルーフ・グレースレイドは戦死し、彼を支えた有能な幹部衆たちも国を守るために犠牲になった。
残ったのは当時はまだある戦闘小隊の小隊長だったライドと運よく生き残った一般兵だけ。
本当は国自体がなくなってもおかしな話ではなかったらしいが、彼らの犠牲の元で何とか国家滅亡を死守することに成功した。
そして次の団長の座についたリーリアが再び復興を掲げて立ち上がり、団内を改革を進めると共に、国の再生に尽力。
今に至るという筋書きなわけだ。
「そんなにすごい方だったのですね……」
「はい。それに、今のバンガードはそう言った人々の血肉によってできているものです。だからこそ、本当はおじいさまに頼らずとも国を、団を自分だけの力で変えたかった。でも……」
「自分には、それだけの技量がないと?」
「それもありますが、それよりももっと自分には足りなかったものがありました」
「それは?」
「……勇気です。私は国を、団を変えようと思う勇気がなかったのです」
リーリアは過去のことを思い出すたび、目を瞑りながら両拳をギュッと握る。
後悔、懺悔、何もできなかった自身への嫌悪。
彼女からはそれらのような負のオーラが全身から溢れ出ていた。
最初は人の決めたレールの上をただ歩いていただけの自分に苛立ちを覚えていたのだと思っていたが、そうではなく、彼女が本当に自分が許せなかったのは……
(変えようと思う、一歩踏み出そうと思う勇気……か)
一つ目は祖父の決めた道しか歩めなかったことに対する後悔と二つ目は勇気を出せなかったことに対する自分への怒り。
この二つが混沌として、リーリアの中に深い悩みを刻んでしまっていたのだ。
「情けないですよね。こんなことで悩んで……終いには逃げ出してしまいましたし」
「……」
「私は……団長としても、一人の人間としても失格です」
慰めようにも何と言えばいいか分からない。
今のリーリアは自分の殻の中に籠って身を守ることしかできていない。
誰が何と言おうと、簡単には彼女の心に響くことはないだろう。
こうして赤の他人である俺に心の内を話してくれただけでも御の字だ。
決闘して剣を交えた甲斐があった。
だが問題はここからだ。
今のリーリアを立ち直させるためにどうするべきか。
必死に頭の中で考える。
そして、考えに考えた末に一つだけ俺にも言えることがあるのを見つけた。
そう、それは――
「団長、少し俺の昔話を聞いてはいただけませんか?」
「ゼナリオさんのむかし……?」
フッと顔を上げこちらを見るリーリア。
どうやら興味? はあるようだ。
俺は彼女に「うん」と頷き、こう話す。
「少し長くはなりますけどね。でも、聞いていただけると嬉しいです。力を過信しすぎて、全てを失ったバカな男の話を……」
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