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41.リーリア・グレースレイド1
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「り、リーリア団長……貴女はまだ出張中だったはずじゃ……」
「……」
少し俯き、虚ろな目で違う方向を見つめるリーリア。
俺の問いにも一言も発することなく、ただ無言を貫くだけだった。
「どうしてですか団長! 出張の話は嘘だったんですか!」
少し強めに問いただしてみると、リーリアは小さく口を動かし、
「……ごめんなさいゼナリオさん。全て、嘘なんです。ここに私がいることもあなた以外、城内誰一人として知る者はいません」
「……」
他にも問いただしたいことが山ほどある。でも、今のリーリアの表情から察するに精神的に追い込まれた状態である可能性が高い。
ここで質問攻めをしてしまっては恐らく逆効果だ。
彼女は今、何かを迷い、そして苦悩している。
あの顔は……かつて俺の戦友が見せた時の表情にそっくりだった。
結局そいつはその苦悩を取り払うことができず、自殺にまで追い込まれた。俺はそいつの近くに居ながら救うことが出来なかった。
周りの者たちも必死に元気づけようと奮闘したが、逆にそれが仇となり、聞き詰めたことによってさらにそいつを追い込んでしまった。
だからこそ、この状況は極めて危険なんだ。
少しでもその人が抱く苦しみの片鱗を傷つけてしまえば、人は簡単に壊れてしまう。
そう、かつての戦友のように。
これはあくまで俺の経験談だが、苦悩を取り払うか取り払えないかは結局のところ、己の心次第なんだと思う。
待っていれば誰かが助けてくれるわけでもないし、助けてくれたとしても何の解決にもならない時だってある。
己の道は己で決める。俺は今までそうやって生きてきたから苦悩に侵される日々なんてそうそうなかった。
でも今は……彼女のあの表情を見るだけで胸が痛む。
何故かはわからない。恐らくは過去に起きたことと照らし合わせて情を抱いているだけなのかもしれない。
本当は助けてあげたい、相談に乗ってあげたい。でもそれだけで全てが解決するのかと言えばそうでもない。
であるなら、今俺に出来ることは……
「……団長、いきなりですが剣を構えてはくれませんか?」
「えっ? それはどういうこと?」
「これから稽古をしましょう。俺と一対一の、手加減なしの決闘です」
「け、決闘……?」
突然の提案に戸惑うリーリア。
もちろん、意味もなくこんなことを言っているのではない。
結局自分の今後を決めるのは自分次第。崩れようがなんだろうが、それは自己責任になる。
要は自分自らの力で解決法を見つけなければならないわけだ。
でも、人って言うのは至って単純で何かのきっかけさえ掴めば、解決法なんて溢れるように出てくる。
他人がその人物の今後を決定的な形で左右することはできない。
だがそのきっかけを生む手伝いは、他人でもできる。
もちろん、今の俺にだってできることだ。
だからこそ、俺は彼女の手伝いをしたい。
”助ける”のではなく、”手伝う”という形で……
「ルールはこうしましょう。先に自分の手から剣が離れたらその時点で決闘終了、強化魔法を含む魔法は一切無しの”剣技のみ”での真剣勝負ということで」
「……なぜ、ですか?」
「えっ?」
「なぜ、貴方はそこまでしてわたしを……」
なぜ……か。正直自分でもよく分かっていないなんて言えない。
でも直感的に俺がそうしたいと願っているのは分かる。
今起こしているアクションも、その一つだ。
「別に大それた理由があるわけじゃないですよ。一度剣を交えてみたいなと思っていただけです。そう……”あの時”からね」
「……あの時?」
巨人と戦い、国と民を二人で救ったあの日。
俺は、リーリア・グレースレイドが今まで見せたことのなかった大きな一面を見た。
あの動き、隙の無い剣捌き、力強い剣技。
今でも強く印象に残っている。
だから一度戦ってみたかったというのは本当の話だ。
剣士は剣を交えることで互いを知ることができる。
もし彼女も俺と同じように剣士道を歩んできたのなら……
「判断は任せますよ。やりたくないのなら無理にとは言いません。俺もそれ以上は望みませんから」
「……」
沈黙が続く。
リーリアは俯き、じっと一点だけを見つめて何かを考えているような素振りを見せる。
そして、しばらくしてリーリアは顔をフッと上げると、俺にこう言い放った。
「……分かりました、その勝負受けてたちましょう。誇り高きグレースレイドの家訓を背負う騎士として、そして一組織を纏める者として勝負を挑まれたからには逃げるわけにはいきませんからね」
「そうですか。なら、早速始めましょうか」
「望むところです」
この決闘で全てが変わるとは思っていない。
でも、きっかけさえ作れればリーリアが本来あるべき姿に戻るための布石にはなるはずだ。
俺に彼女を頼んできたヴェルリールや彼女を心から信頼する団のみんなのためにも……
この勝負、負けるわけにはいかない!
「……」
少し俯き、虚ろな目で違う方向を見つめるリーリア。
俺の問いにも一言も発することなく、ただ無言を貫くだけだった。
「どうしてですか団長! 出張の話は嘘だったんですか!」
少し強めに問いただしてみると、リーリアは小さく口を動かし、
「……ごめんなさいゼナリオさん。全て、嘘なんです。ここに私がいることもあなた以外、城内誰一人として知る者はいません」
「……」
他にも問いただしたいことが山ほどある。でも、今のリーリアの表情から察するに精神的に追い込まれた状態である可能性が高い。
ここで質問攻めをしてしまっては恐らく逆効果だ。
彼女は今、何かを迷い、そして苦悩している。
あの顔は……かつて俺の戦友が見せた時の表情にそっくりだった。
結局そいつはその苦悩を取り払うことができず、自殺にまで追い込まれた。俺はそいつの近くに居ながら救うことが出来なかった。
周りの者たちも必死に元気づけようと奮闘したが、逆にそれが仇となり、聞き詰めたことによってさらにそいつを追い込んでしまった。
だからこそ、この状況は極めて危険なんだ。
少しでもその人が抱く苦しみの片鱗を傷つけてしまえば、人は簡単に壊れてしまう。
そう、かつての戦友のように。
これはあくまで俺の経験談だが、苦悩を取り払うか取り払えないかは結局のところ、己の心次第なんだと思う。
待っていれば誰かが助けてくれるわけでもないし、助けてくれたとしても何の解決にもならない時だってある。
己の道は己で決める。俺は今までそうやって生きてきたから苦悩に侵される日々なんてそうそうなかった。
でも今は……彼女のあの表情を見るだけで胸が痛む。
何故かはわからない。恐らくは過去に起きたことと照らし合わせて情を抱いているだけなのかもしれない。
本当は助けてあげたい、相談に乗ってあげたい。でもそれだけで全てが解決するのかと言えばそうでもない。
であるなら、今俺に出来ることは……
「……団長、いきなりですが剣を構えてはくれませんか?」
「えっ? それはどういうこと?」
「これから稽古をしましょう。俺と一対一の、手加減なしの決闘です」
「け、決闘……?」
突然の提案に戸惑うリーリア。
もちろん、意味もなくこんなことを言っているのではない。
結局自分の今後を決めるのは自分次第。崩れようがなんだろうが、それは自己責任になる。
要は自分自らの力で解決法を見つけなければならないわけだ。
でも、人って言うのは至って単純で何かのきっかけさえ掴めば、解決法なんて溢れるように出てくる。
他人がその人物の今後を決定的な形で左右することはできない。
だがそのきっかけを生む手伝いは、他人でもできる。
もちろん、今の俺にだってできることだ。
だからこそ、俺は彼女の手伝いをしたい。
”助ける”のではなく、”手伝う”という形で……
「ルールはこうしましょう。先に自分の手から剣が離れたらその時点で決闘終了、強化魔法を含む魔法は一切無しの”剣技のみ”での真剣勝負ということで」
「……なぜ、ですか?」
「えっ?」
「なぜ、貴方はそこまでしてわたしを……」
なぜ……か。正直自分でもよく分かっていないなんて言えない。
でも直感的に俺がそうしたいと願っているのは分かる。
今起こしているアクションも、その一つだ。
「別に大それた理由があるわけじゃないですよ。一度剣を交えてみたいなと思っていただけです。そう……”あの時”からね」
「……あの時?」
巨人と戦い、国と民を二人で救ったあの日。
俺は、リーリア・グレースレイドが今まで見せたことのなかった大きな一面を見た。
あの動き、隙の無い剣捌き、力強い剣技。
今でも強く印象に残っている。
だから一度戦ってみたかったというのは本当の話だ。
剣士は剣を交えることで互いを知ることができる。
もし彼女も俺と同じように剣士道を歩んできたのなら……
「判断は任せますよ。やりたくないのなら無理にとは言いません。俺もそれ以上は望みませんから」
「……」
沈黙が続く。
リーリアは俯き、じっと一点だけを見つめて何かを考えているような素振りを見せる。
そして、しばらくしてリーリアは顔をフッと上げると、俺にこう言い放った。
「……分かりました、その勝負受けてたちましょう。誇り高きグレースレイドの家訓を背負う騎士として、そして一組織を纏める者として勝負を挑まれたからには逃げるわけにはいきませんからね」
「そうですか。なら、早速始めましょうか」
「望むところです」
この決闘で全てが変わるとは思っていない。
でも、きっかけさえ作れればリーリアが本来あるべき姿に戻るための布石にはなるはずだ。
俺に彼女を頼んできたヴェルリールや彼女を心から信頼する団のみんなのためにも……
この勝負、負けるわけにはいかない!
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