転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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26.側近騎士のお仕事

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 次の日の朝、俺はバンガード王国国王、アリシア・バンガードのいる部屋の前にいた。

 今日からいよいよ国家騎士としての活動がスタートする。
 そして今日の仕事内容はアリシアの側近騎士としての仕事を知るための日。

 なので今日はもう一人の側近騎士であるリーリアとの共同作業となる……はずだったのだが……

(まさか昨日の書類作業を徹夜でやったせいで目を覚まさないなんて……)

 ベールの話によれば団長は今、絶賛爆睡中だという。
 昨日の夜から一切休みなしで山積みになった重要書類を片付けたせいで疲労困憊だそう。

(一応、大まかな仕事内容が書かれた紙だけは貰ったが……)

 ……心配だ。

 でも、いずれはしっかりとこなさなければならないこと。
 ポジティブに考えればこれは一気に仕事を覚え、慣れるチャンスでもある。うん、そうだ!

 こう自分に言い聞かせ、俺は顔をパンパンと叩く。
 そしてドアを三回ノックし、

「おはようございます、陛下。起きていらっしゃいますか~?」

 部屋の前でで起きているかの確認をする。
 大きな声で、というのが結構な重要なポイントらしい。なんか赤字で書いてあるし……

 だが中々返答が返ってこない。

「あれ? アリシア陛下、起きていらっしゃいますかーーー?」

 もう一度呼びかけるが、やはり返答がない。
 
「これって、まさか……」

 そう思った時にはもう既に身体が動いていた。

 もしかして陛下の身なにかあったのだと――

「陛下っ! どうかなされましたか!?」

 勢いよく扉をこじ開け、部屋の中へ。
 一応、念のため剣を構え、いつでも交戦できるよう臨戦態勢を整える。
 
(敵影は……ないか)

 辺りを見渡すと敵といった存在は見当たらない。
 カーテンも完全に閉められ、誰かが入った形跡もなかった。

(はっ! それより陛下の身を……)

 すぐにアリシアのベッドの元へ。
 そして巨大ベッドを囲むように仕切るカーテンを勢いよく開けた。

「陛下! どうなされたのです……ん?」

 いない……だと!? 

 掛布団をどかしてもアリシアの姿はなく、ベッド回りやその下も確認するが……

(いない。一体どういう……)

「……あんた、人のベッドで何しているのよ」
「えっ?」

 突如背後で聞こえてくる聞き覚えのある声。
 すぐに後ろを振り向くと、そこにいたのはアリシア・バンガード本人だった。

「へ、陛下……一体どこへ行っていらしたのですか?」
「はぁ? トイレよトイレ。何をそんなに驚いた顔をしているのよ」
「い、いや……部屋の前で呼びかけても返答がなかったもので」
「わたしの身に何かあったんじゃ……とでも思ったんでしょ?」
「うっ……!」
 
 はい、そうです。図星です。
 でも普通ならそう思うだろ? 

 少なくとも昔俺のいた軍では訓練が始まる時に戦友を迎えに行った際、過剰なストレスによる影響で自殺していたり、知らぬ間に危篤状態に陥っている人がいたり、とか普通に日常茶飯事だったし。

(そういうのに敏感というかなんというか……)

「意外と心配性なのね」
「……」

 どう返答したらいいか分からず、言葉がでない。
 だがアリシアは、

「でも、ゼナリオ。ありがとうね」
「は、はい?」
「い、いやその、心配……してくれたんでしょ?」

 少し顔を赤らめ、目をそらす。
 俺はすぐに、

「当たり前じゃないですか。自分はアリシア陛下の騎士です。貴女の身に何かあった時は真っ先に駆けつける所存ですよ」
「そ、そう……」

 みるみるうちに顔が赤くなっていくアリシア。

 と、同時に変わっていく謎の空気。
 
(何だろうこの微妙な空気は……なんか変な事でもいったか?)

 だが次の瞬間、アリシアは声を張り上げ、

「そ、それより! これから仕事してもらうけど、準備はいいわね?」
「あ、はい! 何なりとお申しつけくださいませ!」
「んじゃ、まずはあそこからわたしの服を取ってきてちょうだい」
「かしこまり……え?」

 一度動作をピタリと止め、今一度アリシアに確認する。

「あの、陛下。服を取りに行けとは……」
「言葉通りよ。あそこにあるクローゼットから服を取ってきてって言っているの」
「いや、でもそれってお世話係の仕事じゃ……」

(仕事内容にも服選びなんて書いてないし!)

 だがアリシアは容赦がない。

「早く取って来るの!」
「は、はいっ!」
 
 言われるがままに服を取りにクローゼットへ。
 すると――

(お、おいおいなんだよこの服の数は……)

 クローゼットを開くと、もう目が回りそうな数の服が所狭しと置かれており、何がなんだか分からない状況になっていた。

「あの、陛下? 今日は何を着られるのです?」
「えっ、それもあんたが決めるのよ」
「はい?」

 決めるって……この服の中から?

(いやいや、そりゃ流石に無理が……あっ、そういえば)

 俺はすぐさま、ベールより授かった仕事内容が書かれた紙を取り出す。
 すると、その紙の一番下に小さく三文ほど補足説明みたいなものが書かれていた。

 それをよく見てみると……

『ゼナリオさんへ。この度は私の不甲斐なさでお仕事を教えることができず、申し訳ありませんでした。初日の側近騎士のお仕事は非常に大変だと思いますが、どうかお身体にお気をつけて無理をせず、頑張ってください。リーリア』

 えっ……お身体に気を付けてなに!? 無理をせずってなに!?

 俺はこの時、確信した。
 
 この側近騎士と言う仕事はアリシアの身の回りの護衛をするという仕事ではなく、身の回りの”お世話”をすることが主な仕事なのだと。
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