転生した元剣聖は前世の知識を使って騎士団長のお姉さんを支えたい~弱小王国騎士団の立て直し~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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11.出陣

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「――敵襲、敵襲だぁ!」

 突如出現した魔獣の軍勢に城内は慌ただしくなる。
 俺はあの後すぐに団長室に報告し、検問前にいる兵に確認を取ったところ敵襲だと判明。
 ジリジリとこちらへ向けて侵攻を開始しているという。
 
 今は街への入り口を完全に閉鎖し、バンガードの兵が万全の態勢で身構えているとのこと。
 そして俺たちは今何をしているのかというと――

「唐突ですね」
「しかもこんな朝早くから魔獣の軍勢だなんて」
「今までありませんでしたよね。こんなこと」

 俺を含めた幹部衆が一同に会し、ブリーフィングが行われている最中だった。
 団長のリーリアを始め、副団長のヴェルリール、ベール、セシア、そしてライドという男性騎士を交えた合計六人での会議だ。

 ちなみにこのライドという騎士は先の大戦の唯一の生き残りで今は騎士長という役割を担っているとのこと。
 初めて見た時にどこかで見覚えがあるなと思ったら前の街中魔獣騒動の際にベールと一緒にいた騎士の一人で見学初日に見た教官も彼だった。

 この騎士団の幹部衆の中では実力と数多もの実戦経験を兼ね備えた唯一の存在ってわけだ。

「それで姐さんよ、どうする気だい? ”あの衆ら”はまだ帰ってきておらんのだろう?」
「遠征組が帰ってくるのは二日後です。ですがこうなった以上、私たちだけでこの窮地を乗り切らなければなりません」
「ま、俺は姐さんの指示ならばなんでもするぜ。あいつらを食い止めてこいっていうならその通りにすりだけだ」
「申し訳ありません、お願いできますかライドさん」
「おうよ、任しとき。だが兵はどうする?」
「セシアとのツートップで指揮をお願いします。大丈夫ですね? セシア」
「もちろんです団長。必ずや食い止めてみせます」
「分かった。なら話は決まりだ、行くぞセシア」
「はい、騎士長!」

 ライドとセシアはその重そうな鎧を揺らしながら部屋から出ていく。
 そして二人が出ていくのを確認するとリーリアがボソッと呟く。

「本当は私も前線に出たいのですけどね……」
「そこは辛抱ですよ団長。私も同じ気持ちです」
「そうよリーリア、指揮官であるあなたが前線に出てやられたら元も子もないわ」
「分かっています……」

 俯き、どこか悔しさを滲ませるような表情をリーリア。
 そして城内護衛組のベールとヴェルリールが彼女を慰める。
 
(前線って……彼女は非戦闘員ではないのか?)

 でも確かに彼女に関してはずっと引っかかっていることがあった。セシアやベールに関してはそれなりの戦闘能力を持っているということが魔力の流動を把握したことで分かったが、リーリアに関してはそれができなかった。

 だがどこか奥底に眠る何かがあることは確か。様々な実戦経験を積んできた俺の勘がそう言っている。
 
 だが今はそんなことを考えている余裕はない。

 とりあえず、俺も一緒に前線に出られるようにお願いを――

「ゼナリオさんは自室で戦闘が収まるまで待機していてください」
「えっ? それって……」
「外はかなり危険な状態です。窮屈ではあると思いますが、部屋の前に警護兵を数人つけておきましたのでゆっくりとなさっていてください」
「いや、その。はい……」

 だそうです。
 
 まさかの待機命令。まぁ当然と言えば当然。

 今の俺はお客人扱いだし、戦闘に出られるどこか外にすら出られないのは当たり前の対応だ。

(仕方なしか……)

 俺は渋々頷き、警護兵に囲まれながら部屋へと戻る。
 
 そしてそのまま言われるがままに部屋でゆっくり――

「なんてできるわけないだろ」

 誰もいない部屋でそう呟きながら、ベランダへと出る。
 
「うーん、さすがにここから飛び降りるのは至難の業か……」
 
 当然、俺も戦地へ赴くつもり。元軍人がこんな時に部屋で一人ゆっくりとできるかっての。

 だがベランダから外に出るにはかなりの高さから飛び降りなければならない。城の下層にあるとはいえ、ここから飛び降りることができるのは生粋のバカか超人だけ。
 
 いくら神殺しと言われた男でも身体は人間なのでダメージ負うことは避けられない。
 強化魔法を重複させればやれないこともないだろうけど――

「一番無難なやり方で行くか」

 無難とは出口を出て通常ルートから城外へ出ること。
 だが部屋の前には複数の警護兵が立っている。それに城内は警備強化によってたくさんの巡回兵がいることも予想される。

 見つかってリーリアたちの耳に入るのはだけは避けたい。

 なので――

「発動、≪時限停止タイム・ザ・ロック≫」

(よし、今の内だ)

 俺は勢いよく部屋から飛び出す。この時間さえも止める次元魔法で道を切り開き、一気に城外へと駆ける。

(まぁ息を止めている間だけっていう制約はあるけどね)

 だが俺の鍛え上げられた肺活量は人道を越えている。例えるなら数時間水の中に潜っていても平気なくらい。
 たった数分なんて普通に息をしているのと相違ないのだ。

(よし、此処まで来れば……)

 再び肺に息を通し、魔法を解除する。
 城の外にも沢山の兵がうろついていたため、少し離れた所で魔法を解いた。
 外に出ると街中は危険警報の発令によってかなり静まり返っていた。人っ子一人も見当たらず、最初に訪れた時の街の印象が大きく覆されるくらいだった。

「ま、こんな緊急事態に外を出歩こうなんて考えないよな」

 そう考えながらも次なる行動へ。
 そしてお次は――

「発動、≪転移テレポート≫」

 街の外へと転移魔法で移動する。
 理由は東西南北にある各門には検問兵が常駐しているから。まずはそこを出ないと戦場にいけないっていうのもあるし今は恐らく完全閉鎖で普通に門外へ出ることは禁じられているはず。

 それでは時を止めていても門外に出ることは困難だ。高い防壁もあるしね。

「さて、まずは……」

 見晴らしの良い所へ移動する。これは今の戦況を把握するための行動で軍人なら基礎的なこと。
 まずは戦場の状況を把握し、分析。そして確実な一手で敵を静めるというのが基本的な流れ。

 それがもう身体に染みついているからかすぐに行動が起こせる。 
 周りを見渡す限り、森の中から徐々に現場へと近づいていく方法が一番いいだろう。
 
 フォルガナの街を囲むようにしてある森は身を隠すのにも十分な効果を発揮する。もちろんそれは相手も同じだけど。

 それに移動していたら運よく戦場を見渡せる高い木が立っていた。
 ポジションとしては絶好の場所だ。

「よし、ここから視察をするとしよう。周りには……よし誰もいないな」

 俺は辺りに誰もいないことを確認し、その木に登ると戦況を把握するべく視界強化の魔法を発動させる。
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