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07.国家騎士

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 こんなことが起きようとは微塵も予想していなかった。
 あの時見た”華”とまたこうして再び出会える日が来るなんて。

 印象深い銀色のロングヘアと紅の瞳、スタイルはどこをとっても一級品のまさに男殺しを体現しているかのような美貌。
 名はリーリアと言ったか。

 俺は最初見た時に自分の目を疑った。
 そんな人がまさか……一武力組織のリーダーであったなんて。

「奇遇ですね。まさかベールくんがスカウトしてきた人がゼナリオさんでしたとは」
「俺も驚いています。あの時はお世話になりました」

 再びお礼を。
 会ってからほんの数日しか経っていないのに会うのが久々であるような感覚を受ける。

「おや? お二人はお知り合いか何かで?」
「数日前に少しだけ。リーリアさんには道案内をしてもらったんです」
「なるほど。ってことはこの出会いは奇跡、いや運命というやつですか!」
「そんな、運命だなんて……」

 ベールの発言に少しだけ恥ずかしそうに顔を赤らめる。
 笑顔も非常に可愛らしかったけどそんな仕草もまた一興……

(って何を考えているんだ俺は!)

 一瞬だけ脳内に現れる不純な妄想を跳ね除け、会話に集中する。
 お茶とお茶菓子が城内の使用人によって運ばれ、その後も世間話がはずむ。

「そういえば見学するとのことでしたけど……」
 
 中々本題に移りそうもないので強引に誘因させる。

「あ、そうでしたね。ごめんなさい、私一度喋りだすと止まらなくて……」

 すぐに謝罪し、話を本題へと戻す。

 それにしても羨ましい悩みだ。
 俺なんてその逆、人と積極的に喋ることが出来ない種族タイプだ。
 
(厳密には人との正しい関わり方を知らないって感じだけど)

 なんにせよ、俺と彼女とでは相対的な中身を持っていると言える。

「騎士団の見学でしたね? 私もご一緒したいのですが生憎雑務に追われていまして……」
「大丈夫です団長。私めにお任せください」
「ありがとう、ベールくん。ゼナリオさんも城内を自由に見て回ってくれて結構ですのでゆっくりしていってくださいね」
「あ、はい。どうもです」

 雑談タイムは終了。
 俺はベールさんと共に団長室を後にし、城内を見渡しつつ目的の騎士団本部へと足を運ぶ。

「やはり団長さんいい人ですね」
「人が好過ぎて困ることもありますけどね。ですがあの方並に人の上に立てる逸材はいないと私は強く思っています」
「信頼されているんですね」
「何せあの方は我々の恩人でもありますから。前まで弱小と呼ばれていた王国の直属騎士団を強くしてくださったのもあの方あってのことですし」

 へぇ、そんなにスゴイ人なのか。
 言い方はあまり良くないが、見た目だけで言えばただの美人なお姉さん。
 軍のような汚れた職に手を付けるようには到底思えない。

 もしかするととんでもないくらい強い歴戦の猛者だったり?

(いやいや、それはあり得ないな)

 あの容姿で豪快に剣を振るう所なんか想像ができない。恐らくあの人柄の良さと何か卓越したものがあるからこそ部下にここまで信頼を寄せられるのだろう。
 例えば巧妙な戦術指導を編み出したりとか。

 そんなことを考えていたら、騎士団本部へと到着。
 ベールの話によると今は訓練中とのこと。

 俺はベールに導かれ、訓練場が一望できる高台へと案内された。

「ここなら見学にはうってつけの場所だと思いますよ」
「おー、すごく広いですね。訓練場だけでもこの敷地ですか」
「おかげさまで我が国の景気は鰻上りですからね。団の方にもかなりお金を回してくれているみたいなので」

 にしてもかなり広々とした訓練場だ。
 話によると訓練施設だけでも小村二個分はある敷地でその中の3割がこの訓練場らしい。
 
 俺が所属していた軍用の訓練場の数倍、いや数十倍はある広さだった。
 
 まぁ俺のいた国は国力も財力も乏しいところだったから妥当だったのかもしれないけど。

「どうですか? 実際に見て」
「そう、ですね……」

 訓練を見る限り実剣を使った素振りと一対一による模擬戦が行われているようだった。
 沢山の兵が汗水をたらし、訓練に励んでいる。
 
 脇では教官らしき人物が声を張り上げて喝を入れていた。
 
 この光景は俺が軍にいた時とさほど変わりはなかった。

 だが一つ、俺はこの光景を見て違和感を覚える。

(施設の規模に対して兵が少ない気もするな)

 それに兵の年齢層も比較的に高い者ばかり。若者という若者がほとんどそこにはいなかったのだ。
 どこを見渡しても中年のおっさんが息を切らして頑張っている。

(ふむ、これは……)

「あ、あの。一つ質問よろしいですか?」
「なんでしょうか?」
「いや、たいしたことじゃないんですけどこの国って徴兵制とかあるんですか?」
 
 気になったのでさり気なく聞いてみる。
 すると返答はすぐに返ってきた。

「ほんの数年前まではあったんですよ。ですがあの戦争をきっかけに……」
「あの戦争……?」

 ムードがガラリと変わり、重苦しくなる。
 だがそのすぐ直後、そんなムードを壊すかのように、

「あっ、おにぃ! こんなところでなにサボっているのよ!」
「げっ、セシア……」

 ボソッと嫌そうな呟きを見せるベール。
 その声の主はどんどんこっちの方へと近づいてくる。

「もう、目を離した隙にサボりだすんだから!」
「さ、サボりじゃない! これは歴とした仕事だ!」
 
 今まで見たことのないベールの砕けた会話。
 目の前にいるのはベールとよく似たライトブラウンの髪色を持つ少女。年齢は10代後半といったところだろう。

 少女はベールに牙を向けながら、色々と説教をしている。

「仕事ってなんの仕事よ! あ、もしかして……」
「お、おいお客人の前で失礼だぞ!」
「え? お客人?」

 どうやら彼女の視界に俺は映っていなかったようで。俺の姿を見るなり、驚くような仕草を見せる。

「あっ……も、申し訳ございません! 私としたことが……」
「お、お気になさらず……」

 何度も頭を下げてくる茶髪の少女。
 俺はすぐに頭を上げるよう言い宥める。
  
 なんだろう、すごいデジャヴを感じる。

「申し遅れました。私はセシア・グリモンド申します。よろしくお願いします」
「ゼナリオと言います。こちらこそよろしくお願いします」

 一礼し、自己紹介を。
 するとベールは現在までの俺との経緯を事細かに話し始めた。
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