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01.最強の復活
しおりを挟む――頭が痛い
ただ感じたのはそれだけだった。
俺は聖剣ネールガルが持つ神喰らいの力を解放し、創生神パルテノを喰らった。
最後の切り札、まさにそう呼べるべきものだ。
最後に見たのは神と呼ばれる異端者の末路と激しい戦争によって荒廃した世界だった。
だが戦争を仕掛けてきた元凶が消えたことで世界は平和を取り戻した……はずだ。
俺はそう信じたい。
自らの死だけでなく、共に散っていった仲間の無念のためにも。
俺はただ、そう願うのみであった。
♦
小鳥の囀りと心地よい風の音が俺を目覚めさせる。
気が付くと俺は大きな樹木の下で仰向けになって寝ていた。
「……ここは」
目覚めて不意に出た言葉がこれだった。
もう見れるはずはないと思っていた緑で覆われた自然溢れる景観。そして青く澄んだ空と白い雲、眩しすぎるほどの太陽光がその景色を映えさせる。
「あの世って下界とよく似ているんだな」
見たところ、俺は地獄ではなく天国へと来たらしい。
だってこんな絶景が見られるなんて地獄であるはずがない。
ここがもし地獄であるのならそれこそ驚きだ。
とはいえ、死んだら絶対に自分は地獄行きだと思っていたのもあってか少しホッとする気持ちもあった。
お世辞にもまっとうな人生を送ってきたとは言いづらい。数多もの魔族を地に返し、紛争の際には人であろうともこの手で切った時もあった。
剣聖という肩書きを持ちながらもただ軍の命令に従い、任務をこなしてきただけの人生がまともなはずがないのだ。
「せめてあの世ではまともな生活を……」
そう思ったときだった。
「あら? あなたこんな所で何をしているの?」
背後から聞こえる声。
澄んだ高い声から女性の声だということをすぐに把握する。
「いや、俺は……」
そう呟き、すぐに背後を振り向く。
そしてその声の主を目視した瞬間だった。
(き、綺麗な人だ……)
大樹の陰に佇むは一人の美女。日の光が当たり、その姿は鮮明に俺の眼球に映し出される。
光に反射し、より一層際立ちを見せる白銀の長髪と淡い紅色の瞳。
まさにキング・オブ・美女って感じの風貌だった。
(て、天界人……?)
その可憐さに目を奪われ、咄嗟に出た思いついた言葉がこれだった。
それにしても天界人にしては天使の羽もわっかもない。
一体この人は……
不思議そうに見つめる俺が気になったのか美女は首を傾げながら、
「あ、あの……私の顔に何か付いてますか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
なんだろう。ていうか俺、完全に怪しまれてないか?
というかなに動揺しているんだよおれ!
思わぬ美女に動揺を隠せなかった俺はふと彼女にこう問いただす。
「あの、あなたは天界人か何かで?」
「へ? テンカイジン? それってどこの国の種族で?」
「種族というより天界からの使者というか……」
「天界? 私は歴とした人間ですが……」
人間? どういうことだ?
(ここは死者の世界じゃないのか?)
でも確かに言われてみればおかしい感じはしたんだ。
感触も嗅覚も現実そのもの。生きていた頃と全く相違がなかった。
心臓の音もしっかりと聞こえる。
胸に手を当てるとトクントクンと動いていることが分かった。
「まさか俺、生きてる?」
でもそれ以外に考えられない。でもそんなことがあり得るのか?
確かに生きていた頃に”転生術”という言葉は耳にしたことがある。
だがそれはいわゆる迷信に近しいもので実際に扱える者なんて聞いたことがなかった。
おとぎ話の中でのワンフレーズに過ぎなかったのだ。
でもこれだけじゃまだ確信には辿りつけない。
なんかこう……もっと刺激が欲しい。
「あ、あのぉ……」
彼女がそっと俺の顔を覗きこもうとする。
(あ、これなら!)
瞬間。俺の脳内で名案が生まれ、即座に顔を上げる美女に一言こう放つ。
「お姉さん! 悪いんだけど俺の顔を抓ってくれないか?」
「え、えぇぇぇ!? ど、どうしたんですかいきなり」
「いいから早く! 頼む、この通りだ」
真実を知りたい俺は彼女の気持ちまでは把握しきれていなかった。
もちろん、美女は困った顔をしながらその頼みを受け入れるのを躊躇する。
だが俺の強い押しに負け、抓ることを渋々了承してくれた。
「じゃ、じゃあ軽く……」
「ああ、頼む」
美女は俺の頬に手を当てると優しい肌触りでそっと抓る。
――ムニュ
「ど、どうでしょう?」
「いや、もっと強く。こう、ぐいってやる感じで」
「で、でも……」
「俺のことなら構わない。さ、どんとやってくれ」
「わ、分かりました……」
美女はさらに困惑した表情を見せながら再度頬に手を当てる。
そして先ほどとは違い、ぎゅっと皮膚を掴むとご所望通りの強い抓りが俺の痛感を刺激する。
「い、いたたたたたっ!」
「す、すみません! 強すぎましたか?」
慌てて頬から手を離す彼女を差し置き、俺は抓られて赤くなった頬に手を当てる。
「やはり、俺は……」
確信した。どうやら俺はおとぎ話を現実にしてしまったらしい。
俺がそうしたのかってのは不明だけど転生したということは紛れもない事実にほかならなかった。
「嘘だろ……」
奇跡のような出来事に直面し、歓喜に満ちるというよりは驚きの方が強かった。
「あの、大丈夫ですか?」
「だがまさかこんなことになるとはな……どうなっているんだ?」
「あ、あのぉ~? もしもし?」
考え込んでしまい、彼女の声は俺の耳元には届かない。
普通に考えれば不可解なことだ。
内心、信じ切れていない自分もいた。
でもそれしか考えられない。
ここが夢の世界だとしたら凄まじいクオリティだ。
目が覚めればこんな美人なお姉さんと遭遇することができて、抓られた時の感触も今もなお身に残っている。
ゆっくりと空を流れる白い雲、静かに吹くそよ風、樹木の匂いや小鳥たちの囀りも。
全てが現実味を帯びていた。
だからこんなのが夢であるはずがないんだ。
俺は内心戸惑いつつも、生きているという実感を肌で感じ、嬉しさが募ってくる。
そう、俺は生き返ったんだ。
前世で培ってきた記憶と共に。
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