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秕
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お気に入り登録、エールありがとうございます!書き直したり拙い文ですが、よろしくお願いします!早くハッピーな話を書きたい…
どうやら、激しい恋に落ちた2人の実は宿してしまったらしい。
ザイラは窓辺のソファに座り、膝に本を置き、その上に真っ白な便箋を置いてペンも用意した。
だが、その筆は一向に進まない。
アイヴァンに確かめるべきだ、と思う自分と知りたく無いという自分が居る。
なぜ知りたくないのか。事実は変えられないのに。
尋ねたとして、一体どうするのか。
考えが堂々巡りで白い便箋に筆が伸びない。脈が早くなり、胸の奥がなぜか痛むのだ。
あらゆる障害があればある程、恋は燃え上がると聞く。
あの2人には障害しか無かったが、2人の間の絆はそれだけ強かったのだろう。
最近屋敷に帰ってこない理由はそれだったのか、とザイラは腑に落ちた。
盲目的な激しい恋、最後に差し出せるのは己の体だけだ。情欲に溺れて一体となる事が、究極の愛情表現と言える。
正直言って、愛人や妾が子を宿すのは珍しいことでも無い。公然の秘密にするのか、本物の秘密にするかは別として貴族達には妻や夫の他にそういったものを持つ者は多かった。
アイヴァンもまさかそのタイプとは思わなかったが、ザイラとの結婚が後なので、彼の騎士道の中では一途といえばそうなるのだろうか…
いつぞやの吟遊詩人を思い出す…
思い切った事をした、強行突破した、という印象は大きい。
…ただ2人が新しく宿った命の人生の事を甘く考えている感がしてならないのはなぜだろう。
フェルゲイン侯爵はどう出るのか…
皆が幸せになれない、と知りながら2人は無垢な赤子に不幸になり得るかもしれない困難な道を用意した。
それに無性に腹がたった。
ザイラには愛人の子など気遣う由縁は無い。
だが子には安心して成長出来る環境が必要だ。親の事情は関係ない。
愛し合っていれば子は宿す…
「もう妻の立場なんて…微塵も残ってないな…」
と衣装部屋に続く扉を見た。
いっそレンガで埋めてしまおうか。
皆が幸せになれない、誰が1番割を食うのだろう、とは考えないようにしていた。
地位や世間体、容姿や能力を基準にして人が評価されるなら…ザイラは1番自分が不利なのは知っている。
今の自分は、伯爵家に産まれた血筋だけがその評価を後押しして侯爵夫人となった。
アレシアの身代わりに。
皆が、幸せになれない…
頭の中で何度も反復した言葉だ。
本当ならローリー領でずっと伸び伸び暮らしたかった。
だがそれは叶わない。
妻、という立場だけが突然降ってきた。
お飾りの妻と夫。期待はして無かった。
だがアイヴァンは、優しく慈しんで手を握ってくれた。
涙を拭ってくれた。
分かっている。
分かっていたのに。
離婚を望んでも叶わない。
むしろ別れられれば、どれだけ楽だろうか。
けれど心を通わせたいとて、それも到底叶わない。
1番愚かなのは自分だ。
情けなくも、微かにあるかもしれないという望みを捨てきれなかった。
アイヴァンの幸せを願う度、自分の存在はどんどん遠くなっていくこの矛盾を受け入れようとしたのに、出来なかった。
それは、認めなければならない。
1人で人は幸せにはなれない。
だがザイラは 妻 を生涯全うしなければならない。
で、あるならば。ザイラはアイヴァンに本当なのか尋ねる、なんて不粋な真似は出来ない。
真っ白な便箋に筆を走らせた。
上手く書けている。
私情を挟まず、簡潔に、字も綺麗だ。
なのに、なぜ便箋にポタ、ポタ、と水滴が垂れてしまうのだろう。
ダメだ、この便箋はもう使えない。
もう一枚だ。
書いてる途中の便箋をザイラはクシャクシャに丸めて床へ投げる。
それを、何度も繰り返した。
どうやら、激しい恋に落ちた2人の実は宿してしまったらしい。
ザイラは窓辺のソファに座り、膝に本を置き、その上に真っ白な便箋を置いてペンも用意した。
だが、その筆は一向に進まない。
アイヴァンに確かめるべきだ、と思う自分と知りたく無いという自分が居る。
なぜ知りたくないのか。事実は変えられないのに。
尋ねたとして、一体どうするのか。
考えが堂々巡りで白い便箋に筆が伸びない。脈が早くなり、胸の奥がなぜか痛むのだ。
あらゆる障害があればある程、恋は燃え上がると聞く。
あの2人には障害しか無かったが、2人の間の絆はそれだけ強かったのだろう。
最近屋敷に帰ってこない理由はそれだったのか、とザイラは腑に落ちた。
盲目的な激しい恋、最後に差し出せるのは己の体だけだ。情欲に溺れて一体となる事が、究極の愛情表現と言える。
正直言って、愛人や妾が子を宿すのは珍しいことでも無い。公然の秘密にするのか、本物の秘密にするかは別として貴族達には妻や夫の他にそういったものを持つ者は多かった。
アイヴァンもまさかそのタイプとは思わなかったが、ザイラとの結婚が後なので、彼の騎士道の中では一途といえばそうなるのだろうか…
いつぞやの吟遊詩人を思い出す…
思い切った事をした、強行突破した、という印象は大きい。
…ただ2人が新しく宿った命の人生の事を甘く考えている感がしてならないのはなぜだろう。
フェルゲイン侯爵はどう出るのか…
皆が幸せになれない、と知りながら2人は無垢な赤子に不幸になり得るかもしれない困難な道を用意した。
それに無性に腹がたった。
ザイラには愛人の子など気遣う由縁は無い。
だが子には安心して成長出来る環境が必要だ。親の事情は関係ない。
愛し合っていれば子は宿す…
「もう妻の立場なんて…微塵も残ってないな…」
と衣装部屋に続く扉を見た。
いっそレンガで埋めてしまおうか。
皆が幸せになれない、誰が1番割を食うのだろう、とは考えないようにしていた。
地位や世間体、容姿や能力を基準にして人が評価されるなら…ザイラは1番自分が不利なのは知っている。
今の自分は、伯爵家に産まれた血筋だけがその評価を後押しして侯爵夫人となった。
アレシアの身代わりに。
皆が、幸せになれない…
頭の中で何度も反復した言葉だ。
本当ならローリー領でずっと伸び伸び暮らしたかった。
だがそれは叶わない。
妻、という立場だけが突然降ってきた。
お飾りの妻と夫。期待はして無かった。
だがアイヴァンは、優しく慈しんで手を握ってくれた。
涙を拭ってくれた。
分かっている。
分かっていたのに。
離婚を望んでも叶わない。
むしろ別れられれば、どれだけ楽だろうか。
けれど心を通わせたいとて、それも到底叶わない。
1番愚かなのは自分だ。
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それは、認めなければならない。
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で、あるならば。ザイラはアイヴァンに本当なのか尋ねる、なんて不粋な真似は出来ない。
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なのに、なぜ便箋にポタ、ポタ、と水滴が垂れてしまうのだろう。
ダメだ、この便箋はもう使えない。
もう一枚だ。
書いてる途中の便箋をザイラはクシャクシャに丸めて床へ投げる。
それを、何度も繰り返した。
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