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女の意地

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 エール、お気に入りありがとうございます!嬉しくて小躍りしてます!
 
 



 屋敷へ戻ると、ムッスリとして血色の無い顔をした男がこちらをじっと睨み付けていた。エルメレの装飾が施された眼鏡は今日も美しい。
 
 
 帰れた達成感で、気が抜けたザイラはまた2日間眠り続けた。
 
 時折目を覚ますといつもクレイグが居た。大層不満そうだが、手は機敏に動いて的確な指示を使用人に出していた様だ。
 
 
 クレイグが名医なのかザイラの生命力が強いのか、3日目には起き上がり、食事も少しづつ取れるようになってきた。
 
 アイヴァンも合間合間にザイラの顔色を伺いに来ていたが、仕事に行っているのだろう、長居はしなかった。
 
 
 何も言わずに淡々と仕事をこなすクレイグに、初めて敬意を抱いた。
 
 しかしクレイグの目の下にはクマがあり、なんだか少し痩せたようだ。
 そんなに、ザイラの処置は大変だったのだろうか…
 
 
 
「……この度は、ありがとうございました。お陰ですっかり良く……」
 起き上がれるようになったのでせめて謝意を…とザイラは続けようとしたが、クレイグの禍々しい視線に言葉が続かない。
 
 
「深夜、アイヴァンからの連絡を受けてアレシアが動揺し、一刻も早くフェルゲインの別邸へ向かうようにと言われたが、向こうにも医者はいるし心配要らないと宥めたら結局家を追い出されこの主人の居ない屋敷で3時間も待たされた」
 とクレイグは不満を早口でただ淡々と述べた。
 
 
 こんなに早口で喋れるんだ…とザイラは呆気に取られ、口をポカンと開ける。
  
  
「アレシアと居られる時間が3時間無駄に消費された。アレシアに何かあったら君を許せない」
 
 いくらなんでもオーバーだ、とザイラも呆れる。
 3時間やそこらで何が変わると言うのだろう。こっちだってあの魑魅魍魎のいる地から、死に物狂いで戻ってきたと言うのに…
 
 医師のくせに病人に責任を押し付けるとは…
 ザイラもむすっとした顔でクレイグを睨みつけた。
 
 
 するとクレイグは徐に鞄に手を突っ込んで、乱暴にザイラに手紙を渡す。
 渡す、というよりベットで上半身だけを起こしているザイラの目の前に手紙をポイっと落とす、が正しいだろう。
 
「なんですか、これ」
 
 まさか…フォーサイス夫人の…と身構えたザイラが訝しげに聞くと、アリーからとクレイグは応えた。
 
 
 アレシア…。
 なんだろう。
 
 クレイグは鞄を置くとベット脇の椅子に腰掛け直して、ただ一点をぼーっと見つめていた。
 
「…帰らないんですか?」
 ザイラが不審がる。
 
「アリーがザザが手紙を読み終えるまでそこで待て、って」
 
 なんともおかしな事もある。
 
 手紙を開けようと裏を返して蝋封印に触れる。だが、なんだか接着が甘い…というか端の方は少し浮いていた。
 まさか…
 幻滅した目でザイラがクレイグを見る。

「もしかして封開けました?」
 
「……」
 
「開けたんだ…」
「開けてない。」

 開けようとはしたんだな。
 
 蝋封印は少し浮いてる。
 だが開けなかったのはこの男にすればアレシアへの誠意なのかもしれない。
 
 アレシアの事に関しては実にわかりやすい男だ。
 
 手紙を開くと、最近の王都の事が挨拶代わりにいろいろ書かれていたが、後半はクレイグは最近調子があまり良くないので、いろいろ抱えている、話を聞いてあげて欲しい、と書いてあった。
 
 
 話を、聞いてあげて…
 話を…聞いてあげて
 話…を…
 
 この男が…まさかそんな…
 
 
「私に何か話したいことはありますか?」
「ないよ」
 クレイグは目線も動かさず即答する。
 
 良かった
 聞いてあげる話なんて無かったんだ
 
 でもおかしいな
 ここに話を聞いてあげてって書いてあった気がする

 もう一度手紙に目を落とす。
 確かめるとやはり話を聞いてあげて、と書いてある。
 
 2枚目の手紙を読み始めると、この謎の要望に対してやっと腑に落ちた。
 
 
 アレシアはどうやら3人目の子を宿したらしい。
 
 アレシアは2人目の出産で一時命も危ぶまれた。出血が酷かったからだ。
 
 
 そもそも、よくこの男が子供を成そうと思ったものだ。
 
 クレイグが子を望むようには到底思えなかった。
 アレシアが苦しむ姿に耐えれる筈も無い。だが、それでも2人、アレシアはクレイグとの子を産んだ。
 アレシアが望んだ以上にはあり得なかった事だ。
 クレイグは自分の望みよりアレシアの願いを優先させたのだ。
 
 だが、2人目の出産の後はもう絶対に子供を持たないと思っていた。
 
 それは、勿論、ザイラも賛成だ。
 何かあってからでは遅い。
 
 
 クレイグのことだ、対処はしてるはずだしこれ以上は絶対に産ませないようにしてただろう。
 そこにアレシアが同意してたのか知らなかったのかは分からないが、それを掻い潜って妊娠したのなら、アレシアは1枚上手だったという訳だ。
 
 
 
 …まぁクレイグも…妊娠を阻止するために、思いつく限りの事はしたんだろうな……
 
「なんでそんな目で僕を見るの?」
 クレイグは極めて不快そうにザイラを見返す。

 手紙から読み取るに、アレシアは子を産みたい。
 クレイグは…勿論反対、最早論外。
 

 重すぎて簡単に応えられない…
 
 病み上がりの病人には重すぎる。
 
 だがクレイグのやつれ具合からするに、本人も相当擦り減らしているのだろう。

 
 子供を持ちたいとか、持とうとかそういった想像は出来ないし、する機会も無かった。
 ただ漠然と、家族を築きたいとか母になりたい、と希望は持っている。
 だがそれはあやふやなもので、何の覚悟もしていない。
 
 アレシアは命を危険に晒しても妊娠した。
 クレイグが望んでいないのも反対なのも知っていて。既にクレイグはかなりの譲歩をして、2人も子を設けた。
 
 子を成す…愛し合う夫婦なら、至って当然の成り行きだが…
 
 
「…お姉様は、結婚した時からクレイグ様を父にしたかったのでしょう。
 子を持ち貴方と家庭というものを一緒に築きたかったのです。
 同時に母にも勿論なりたかったでしょう。子供好きな、優しい人なので。」
 
 クレイグの表情に一切変化は見られない。
「ただ、今回の場合は…プライドでしょうか?貴族令嬢として、子爵家に嫁いだ者としての」
 
 
「…どうして皆、そんなものに拘るんだ」
 
 クレイグはポツリとそう溢した。
 
 クレイグには絶対的に揺らがない自分というものがある。
 勿論それに見合った自信や経験があるだろう。周りにどう言われようが思われようが一切それは揺らがない。
 揺らぐのはアレシアの事だけだ。
 
 アレシアにはどうだろう。
 あのアレシアにも、自らの務めを果たしたいという願望はあるはずだ。
 
 つまりは、子爵家の跡取りを、と。
 
 
 愚かに聞こえるが、そうやって貴族は脈々とその血筋を繋ぎ今まで何十年何百年とその名を残してきた。
 貴族の女の責というのは男児を設けること、この一点のみと刷り込まれている。
 
 
 でもきっと、アレシアはクレイグに誇って欲しいのかもしれない。
 愛してくれるだけではなく、共に何かを成し遂げたいのかもしれない。
 貪欲かもしれないが、やり遂げたいのだ。
 女の意地で。
 
 
「お姉様がここまでしたのなら、もう腹を括る他ありません。
 アレシアは望んで自分の命を賭けたのです。付き合うしかありません。
 女の意地です。野暮なことを言わず、万全の態勢でその時を迎えるしかもう方法は無いでしょう。そして…」
 
 クレイグはザイラをじっと見つめている。ザイラもしっかりとクレイグを見た。
 
「何があっても…
 無い事を祈ってますが…
 子が産まれたら、たくさん愛して下さい。アレシアを愛してるのと同じ位。」
 
 実際同じ熱量の愛では困るのだが、アレシア程では無いが娘たちにそれなりの興味を持っているのは知っている。
 アレシアがそう望むから興味を持つのではなく、クレイグに望んで子供達を愛して欲しいのだろう。
 
 父として。アレシアを介して、ではなく。
 
 クレイグの表情に変化は無い。
 
 結構心に訴えた事を言ったつもりだが、彼の心はやはり微塵も動いてないかもしれない。
「聞いてましたか」
 あまりに無反応なので思わず確かめてしまった。
 
 その問いももう既に聞いてないようだ。
 
 
 
 しかし…ザイラの首筋をヒヤリとした汗が伝った。
 
 フェルゲイン侯爵の別邸で、あの恐ろしい光景の後ザイラは夏帆に言ったのだ。
「お姉様を守って」と。
 
 察するに、あの麻薬を飲ませた悍ましい男はアレシアをつけ狙っていた。
 既に結婚して子も居るが…
 用心するに越した事はない。
 
 それこそ先程も言った万全の体勢だ。
 
 しかし、それをどう伝えるか…
 
 超常現象や実証不可能な事をこのクレイグという男が信じる事は無いだろう。
 
 だが、伝えないわけにはいかない。
 
 
 ザイラはベットから這い出し、例の飾り箱を持ってくる。
 そして、あの〝春の楽園〝の小瓶を取り出した。
 
 
 気まずそうに、クレイグにすっと差し出す。
 
 クレイグは受け取ってすぐ香りを確認して一瞬目を見開いたと同時に、今まで見た事もない様な目でザイラを見た。
 
 目に一切光が見えない、何も感じ取る事が出来ないのに青い炎のような激しい怒りと圧を感じる。
「…飲んだの?」
 
 余りに気押されて、体が震え出した。
 いや、今から話そうとする事をまた思い出して怯えているのかもしれない。
 
「…フィニアスが、フェルゲイン兄弟とディオン公爵家のコリンを連れてきた晩、眠っている時…誰かに…その小瓶の中身を飲まされて…
 私は…意識が朦朧としたけど、男の声だったのは確かに覚えてる。
 誰か分からないけど、男は言ったの…アレシアではないって…。恐らく、部屋を間違えて…本当はお姉様を狙ってた」
 
 それだけ言うと、クレイグは春の楽園を見たまま瞬きもしない。それが何かを確実に認識しているようだ。
 
「今までそれが何か知らなかった…。だけど、…お姉様がまだ安全かは分からない」
 
 それだけ伝えた。詳細は言わない。
 クレイグもそこまで分からない男ではない。ただ、単に詳細には興味は無いかもしれない。
 
 
「これは僕が預かる」
 クレイグはそう言うと、ジャケットの胸ポケットに小瓶を仕舞った。

 持ってても何にも使えないのでザイラとしても構わない。ただ、恐ろしい記憶に苛まれるだけだ。手放せた方が楽だった。
 
「アリーには警護が付いてる。見える警護も見えない警護も。常に。」
 
 やっぱり夫じゃ無ければ牢屋行きだ。
 
「君が心配しなくてもね」
 

 クレイグはそう言うと勢い良く立ち上がり、扉へ向かう。
 
 扉を前にしてもう一度ザイラに振り返った。
「あと僕が言えるのはよく寝てよく食べる位だ。仕事は終わり。じゃあね」
 
 そう言って扉はパタンと閉まる。
 
 話…一切聞いてあげてないけど、こっちの話…ちゃんと聞いてたのかな?
 
 まぁ出て行く時のクレイグの顔は幾分スッキリしていた。と、思いたい。
 あとは、アレシアが無事に出産するのを祈る事くらいしか出来ない。
 
 きっと大丈夫だ。
 なぜなら、アレシアの夫はすこぶる腕の良い、王国1の医師なのだから。
 それが彼の最大にして唯一の長所だ。
 
 
 
 閉じた扉の前で、クレイグは暫く立ち尽くしていた。
  
 内ポケットの小瓶を取り出し、忌まわしそうに睨みつける。
 
 チッと苛立ち紛れに舌打ちをした。
 
「クソッ」
 相手も居ないのに浴びせられた小さな罵詈が静かな廊下に響いた。
 
 
 
 
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