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叫び ※R15 暴力的な表現が続きます。苦手な方はお控え下さい。

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 ああまただ…
 嫌な予感がする。
 
 またここだ。
 
 真夜中で、カーテンからは月明かりが漏れて…
 
 でもなんだか今日は違う。
 本当に眠ってるみたいだ。目は開いてないのに、意識はしっかりしてる。
 
 心臓がバクバクと音を立てて、何かしらの衝撃に耐える様に体を強張らせる。
 
 
 
 なんだこれ…
 下の上にトロリと甘ったるい液体を感じた。
 甘い…甘いけれどどこか…
 
 ゴホっと思わず咽せる。
 
 
 
「なんだ…?アレシアじゃない!?妹の方じゃないか!」
 聞き覚えの無い声がする。
 男の声だ。
 誰?一体何が起きてる?
 
 目がグルグルと回る。気持ちが悪い…
 
 
「クソッ、あの役立たずが」
 声だけが聞こえる。体に力が入らない。
 
 体の上に、覆い被さった人影がある。 霞む目なのに、はっきりと映った。
 まさか、部屋に入り込んだのか?
 
 逃げなければ
 と動かぬ体を何とか動くよう、めちゃくちゃに手足に力を込める。
 
 チッと舌打ちが聞こえた。
 
 すると、顔に人の吐く息がかかった。
 顔を片手で鷲掴みにされる。
 
 月明かりに照らされて、霞みながら揺れる視界でも、その瞳が大きくはっきりと見えた。
 何色なのだろう、瞳の色は分からない。
 
「騒ぐな。騒げば、次はお前の姉だ」
 
 涙が勝手に溢れて止まらない。
 息が止まりそうだ。
 むしろ、止まってくれとさえ願った。
 
 もう片方の手がザイラの夜着に手を掛け、胸元から一気にザイラの肌を晒す。
 
「…醜いな。やはり双子とは種違いなのか」
 
 その手を払おうと、思い切り力を込めたが、その手は男の手を掠めただけだった。
 
 助けて
 誰か助けて
 どうか助けて
 
 まだ反抗するザイラに苛立ったのか、男は両手をザイラの首にかけ力を込める。

 けたたましい金切り声が響き渡る。
 重かった体は軽くなり、すぐさま耳を塞いだ。
 
 解放感を感じて思い切り目を開ける。
 
 静かだ。
 誰かの泣きじゃくる声がはっきり聞こえる。それ以外は聞こえない。
 
 
 見開いた目と鼻の先に泣きじゃくったザイラが居た。
 激しい息遣いが風となって顔に触れる。
 
 
 
「…っあぁ…っお姉様を守ってっ!!!」
 
「あいつをっ!…あの男をっ…殺してっ!!!」
 
 
 力の限り泣き叫ぶ、ザイラの慟哭が耳の鼓膜を震わせて、傷をつける様にしっかり刻み込まれた。
 
 
 やっと、…声が聞けた
 
 ザイラを目の前にして思ったのは、そんな単純なことだった。
 
 
 
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