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甘い香り
しおりを挟むカーテンの隙間から月明かりが漏れる。
まだ真夜中だろうか。
シンとした寝室…鼻腔に突き抜ける甘ったるい香り。
この香りを嗅ぐと眩暈を感じる。
ぐるぐると視界が回って、吐き気を催す。
するとけたたましい金切り声のような音が響いて、ぎゅっと目を瞑り思わず耳を塞いだ。
一体、どうしたというのか。
体中に汗が噴き出す。
恐る恐る目を開けると、目の前に鏡があった。これは…ローリー領の、ザイラの部屋だ。鏡に映ってるのは、耳を塞ぐザイラではない。
本物のザイラ。
泣きじゃくりながら、こちらを見て何かを訴える。
いつもこうだ。
声がまるで聞こえない。
なんて言ってるのか、それを問おうにも、こちらも声を出せない。
出そうとすると、どんどん首が絞まるような苦しさを覚える。
息がっ!出来ない…っ!
「かはっー!」
胸を押さえて飛び起きる。
朦朧とした意識の中ぜぇぜぇと息を吐きながら、辺りを確認した。
ここは、アイヴァンの屋敷…
ザイラは一体何を伝えたいのか。
徐に起き上がると、ザイラは衣装箪笥の奥から、華奢な装飾の飾り箱を取り出した。
はぁ…と息を吐いて、パッと蓋を開ける。
中には紫ともピンクにも見える数滴の液体を残した小瓶がある。
甘ったるい香りが余りにも強く感じるので、コルクで栓をしたものだ。
それでも、未だに香りは強い。
この甘ったるい香りのせいで、甘い香りに対して余計な嫌悪感を抱くようになった。
転生した日、ザイラの傍らにはこれが落ちていた。
大して気にもして無かったが、捨てるわけにもいかず取っておいたものだが…
そろそろ、これが何なのか、確かめないといけない気がした。
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