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若い恋人達
しおりを挟む舞踏会において、貴族の令嬢達が最も恐れるのは壁の花だ。
紳士から誘われず、残った女と周りに蔑まれる事に怯えている。
それは令嬢の両親も同様ではあるが…
既婚者なら関係無いわけで…
アイヴァンの姿も近くに見えない、それを良い事にザイラは会場を見て回る事にした。
田舎者のザイラは見るもの全てに圧倒されっぱなしだ。
テラスに出てみたり、庭園を散歩してみたり。手入れの行き届いた庭園は、すこぶるロマンチックで、ザイラが1人で歩くのは少し落ち着かない。
飲み物でも取りに行こう
そう思っただけだったのが、まさかこんな事になっているなんて露程も予想しなかった。
会場の隣には軽食やアルコールを楽しめるホールがある。会場同士が繋がっている訳ではないので一度廊下に出る訳だが、廊下は俄かに静かな興奮を帯びた人々がヒソヒソとお喋りをしてホールまで辿り着けない。
何かおかしい…
人の合間を縫って、先を見やる。
ああ、…舞踏会とはなんて低俗な催しだろう。
皆、その2人の行く様を楽しそうに眺めている。
泣きじゃくりながら興奮した声を抑えようと時折悲鳴のような声を漏らすミア・フィッシャーと、周りを気にしながらなんとか諌めようと狼狽えるアイヴァン。
お酒のせいもあるだろう
ミア嬢は酷く顔を真っ赤にして乱れた髪も気にして無い。
人目も憚らず泣いているのを見ると、同情よりも此方が恥ずかしくなってきた。
このまま騒ぎが大きくなれば、確実にアイヴァンは恥をかく。
大声で喧嘩出来る方がまだ気が楽だ。
騎士道というものが、彼の感情を抑え込んでいるのだろう。
それは彼の名誉でプライドだ。
そもそも…なぜミア嬢が潜り込めたんだか…
ドレスも赤紫色で美しいは美しいが、色が暗い。金髪でまだ若いミア嬢には似合っていない。
むしろ、スチュアート夫人と被っていてこれでは悪目立ちしている。
まさか…
ザイラは辺りを見回した。
スカーレット・ハーパー。彼女は相変わらず扇子で顔を隠している。鼻から下は分からない。だが、遠くでもはっきりと分かる。満足そうな満面の笑みを浮かべているのが。
あの性悪小娘…。なんて下劣だ。
騒ぎを起こそうと引き入れてのだろう。
自分がフィニアスに相手にされないからと、ザイラを矢面に立たせて、ローリー伯爵家の弱味にでもするつもりか。
そんな事をしても、フィニアスは決して屈しない。
ザイラが拳をグッと握り込む。
指の内側で反転したイエローダイヤが掌に食い込んだ。
あの激しく動く蜂蜜色の金髪を見て、不意に指輪とミア嬢を交互に見る。
そっくりだ…
この蜂蜜色のイエローダイヤの婚約指輪は、本当はミア嬢に渡したかったのだろう…
フェルゲイン侯爵が許すはずもない
愛し合っていても身分差がありすぎる
そんな事、聡明なアイヴァンなら分かっているだろう
それでも、そうせずにいられない
愛しているからだ。
不器用で、盲目的で、バカみたいだ
でも転生前の夏帆なら分かる
若い時は愚かしい程周りが見えない時がある。
そして、恋という厄介な泉は取り留めなく溢れて、決して抗えない。
抗えば抗うほど、溺れてしまう。
苦しく切ないのに、這いあがろうともがけば余計に苦しい。
それでも足掻くのは、
唯愛する人しか、もがく先に見えないから。
だが、アイヴァンのこんな姿は見たく無い。
いくら逸れてしまったラブストーリーでもヒロインの相手で、メインキャラクターなのだ。
恥をかかせる訳にはいかない。
周りも段々とザイラが見ている事に気づき始めている。これ以上騒ぎが大きくなれば、収集がつかない。
叶わぬ愛に葛藤し、苦しむ2人の元へ、2人を引き裂く野蛮な族は足を踏み出した。
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