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招待状
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エール、お気に入り登録ありがとうございます!泣いて喜んでます!
ザイラの目の前には、美しいエリス オグマンのドレスがあった。
ドレスとはいえ、ウエストを締め上げボリュームのあるスカートのような物の流行はとっくに過ぎ、随分快適になった。
今最も人気で最先端のドレスが欲しいと思ったら、誰もがエリス オグマンを思い浮かべるだろう。
ただ手間暇のかかるドレスには数に限りがあるもの。そこに価値がある。
貴族や富豪は競ってその値を釣り上げて、我先にと奪い合っているが…
ドレスの傍らにはテオとリサからの手紙だ。
なんでもスチュアート夫人は侯爵家が所有する高級ホテルで大きな舞踏会を催すらしい。エルメレの皇子も招待に応じたので、スチュアート夫人は普段よりも一層気合いを入れているそうだ。
舞踏会といえば、社交の場でもあるがお見合いの意味合いが強い…
腹黒い貴族の親が娘をエルメレに送り込むなら千載一遇の機会といえるだろう。
一見ザイラには関係無いように思えるが…
〝スチュアート夫人は絶対にアイヴァン様とザイラ様をご招待するでしょう。私も腕が鳴ります。ご結婚してから初めての行事ですから、この機会にザイラお嬢様の存在を世に知らしめようと私も腕が鳴りました〝
相変わらず筆圧が強い文字だ。
その情熱には目を見張るものがある。
だがその情熱はきちんと仕事にも燃やされているようだ。
頼んでもいないドレスは、肩から裾にかけて白からグレーの美しいグラデーションが、無数のビーズによって色付けられている。
袖が無く胸元が深くV字に開いているが、V字の部分はシフォンが重ねられ、ビーズや宝石が施されて透ける心配は無い。
出るところが無いザイラの体型にも華やかさを演出してくれる趣向の凝ったものだ。
招待状の前に、ドレスが届いてしまった訳だが…
スチュアート夫人がフェルゲイン侯爵家を招待するとして、本来なら未だ独身のエドガーを参加させたいだろう。
フェルゲイン侯爵家の嫡男であるエドガーは、今は諸国遊学中だ。ここ数年は近隣諸国と大きな争いも無く政治も安定しつつある。留学するには適した時期だ。
エドガーは、アイヴァンとは違い士官学校に行くことを望まなかった。
アイヴァンに比べると線も細く、整っているが穏やかな面持ちの人物だったので、体を酷使する職業は合わなかったのかもしれない。
よくそれで軍人家系のフェルゲイン侯爵が許したものだが、なぜ許したかそこまで詮索するつもりはなかった。
エドガーが居ないならアイヴァン達を招くのはフェルゲイン侯爵家との繋がりを考えるならば妥当かもしれない。
舞踏会の話の種の1つにもなるだろう。
針の筵に座りたくはないが…
これだけのドレスの出番が無いのは心苦しい。
でもやっぱり…
「招待状、来ない方がいいなぁ…」
めかし込んだ貴族達のむせかえる香水の香りや、見かけは華やかだがそれぞれの生々しい思惑や愛憎…
ゴシップに飢えた、ギラギラとした獣達の針の筵を思い浮かべて、苦笑いでザイラは呟く。
ザイラの目の前には、美しいエリス オグマンのドレスがあった。
ドレスとはいえ、ウエストを締め上げボリュームのあるスカートのような物の流行はとっくに過ぎ、随分快適になった。
今最も人気で最先端のドレスが欲しいと思ったら、誰もがエリス オグマンを思い浮かべるだろう。
ただ手間暇のかかるドレスには数に限りがあるもの。そこに価値がある。
貴族や富豪は競ってその値を釣り上げて、我先にと奪い合っているが…
ドレスの傍らにはテオとリサからの手紙だ。
なんでもスチュアート夫人は侯爵家が所有する高級ホテルで大きな舞踏会を催すらしい。エルメレの皇子も招待に応じたので、スチュアート夫人は普段よりも一層気合いを入れているそうだ。
舞踏会といえば、社交の場でもあるがお見合いの意味合いが強い…
腹黒い貴族の親が娘をエルメレに送り込むなら千載一遇の機会といえるだろう。
一見ザイラには関係無いように思えるが…
〝スチュアート夫人は絶対にアイヴァン様とザイラ様をご招待するでしょう。私も腕が鳴ります。ご結婚してから初めての行事ですから、この機会にザイラお嬢様の存在を世に知らしめようと私も腕が鳴りました〝
相変わらず筆圧が強い文字だ。
その情熱には目を見張るものがある。
だがその情熱はきちんと仕事にも燃やされているようだ。
頼んでもいないドレスは、肩から裾にかけて白からグレーの美しいグラデーションが、無数のビーズによって色付けられている。
袖が無く胸元が深くV字に開いているが、V字の部分はシフォンが重ねられ、ビーズや宝石が施されて透ける心配は無い。
出るところが無いザイラの体型にも華やかさを演出してくれる趣向の凝ったものだ。
招待状の前に、ドレスが届いてしまった訳だが…
スチュアート夫人がフェルゲイン侯爵家を招待するとして、本来なら未だ独身のエドガーを参加させたいだろう。
フェルゲイン侯爵家の嫡男であるエドガーは、今は諸国遊学中だ。ここ数年は近隣諸国と大きな争いも無く政治も安定しつつある。留学するには適した時期だ。
エドガーは、アイヴァンとは違い士官学校に行くことを望まなかった。
アイヴァンに比べると線も細く、整っているが穏やかな面持ちの人物だったので、体を酷使する職業は合わなかったのかもしれない。
よくそれで軍人家系のフェルゲイン侯爵が許したものだが、なぜ許したかそこまで詮索するつもりはなかった。
エドガーが居ないならアイヴァン達を招くのはフェルゲイン侯爵家との繋がりを考えるならば妥当かもしれない。
舞踏会の話の種の1つにもなるだろう。
針の筵に座りたくはないが…
これだけのドレスの出番が無いのは心苦しい。
でもやっぱり…
「招待状、来ない方がいいなぁ…」
めかし込んだ貴族達のむせかえる香水の香りや、見かけは華やかだがそれぞれの生々しい思惑や愛憎…
ゴシップに飢えた、ギラギラとした獣達の針の筵を思い浮かべて、苦笑いでザイラは呟く。
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