好きな人に触ると、その人私の事忘れちゃうんですけど!

七瀬 巳雨

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 ––会長綺麗だな……本当に……––
 本心だ。同じ女性でも惚れ惚れするし、憧れる。
 
 アイゼイアの事は、考えないようにした––
 考えたら、どこかむず痒くて、胸が締め付けられるように苦しくなるから。
 
 
 
 
 
 
「ブライトンの料理おいしいいいいい」
 一通りの仕事を終えたエヴァリーは立食形式のビュッフェに舌鼓を打っている。
 既にジャケットも脱いでタイも緩めて、完全にオフだ。
 
「オースティンはもう食べないの?」
 リリアンはフェンシング部の生徒と男子女子構わず音楽に乗って楽しそうに踊っている。ファーストダンスが済んで暫くすれば、皆思い思いにパーティを楽しんでいた。
 
 
 
「俺はいいよ。眠くなるし…」
 
「オースティン、食べるとすぐ寝ちゃうもんね」
 エヴァリーはパクパクと美味しい料理を口に運んだ。やっと任された仕事が終わった安堵も加わって、食欲は増していく。
 
「どうだった?ダンス?これだけ会場も豪華だと、雰囲気あるよね。もう投票した?」
 投票、と言うのは、この会場で誰が1番輝いていたか生徒が投票して決めるものだ。
 男子生徒はキング、女子生徒はクイーン、そしてダンスのパートナー同士はベストカップルとして選ばれる。
 
 
「ブライトンで投票したって…それに、もう出来レースだろ」
 そう言って、オースティンが顎で指す方には、多くの生徒に囲まれたアイゼイアとユウリが居た。
 
 一際輝くその二人は、並んで立つととても目立つ。
 
 
「確かに…」
 エヴァリーは努めて微笑んで、その光景を見る。
 
 気にして無い––
 勿論気にして無い––
 
 そう何度も心の中で唱えながら。
 
 
「…はぁ。お腹も一杯になったし、そろそろ帰ろうかな」
 エヴァリーは膨れたお腹を撫でつつ、時計を見る。早く帰りたい、この場から離れたい……––気持ちは何処か焦っていた。なぜかは分からない。
 
 慣れないことをしたせいだ…––
 
 とエヴァリーはオースティンを見る。
 
「エヴァが帰るなら、俺も帰ろうかな。 リリアン、まだ帰りそうに無いし」
 二人は笑い声を上げて楽しむリリアンを見る。
 確かに、邪魔しちゃ悪そう––
 エヴァリーがそう微笑んだ時、ガヤガヤと盛り上がる男子生徒のグループとエヴァリーは肩が当たった。
 
 
「ぁ……––」
 そう小さく声を漏らした時、エヴァリー胸元は既に赤紫色に濡れて水滴が床に滴っていた。
 
 
 前もそうだった––ブライトンに居ると、どうやら水難の相が出るらしい。
 まるで示し合わせたように––––
 
 
「エヴァッ!––っおい!」
 人混みに消える男子生徒達を、オースティンが引き留めようとする。
 
 どうやら向こうはジュースをぶちまけた事にも気づいていないらしい。
 気付いていないと、思いたい…––とエヴァリーは思った。



「––あいつらっ!エヴァ、大丈夫か?」
 オースティンは急いでハンカチを取り出す。だが、二人が注目する赤紫色のシミは思いの外大きく広がって、エヴァリーの素肌に張り付いた。
 
 これ、前にもあったな…––
 とエヴァリーに恥ずかしさが込み上げる。
 ––咄嗟に胸元を手で隠すが、苦笑いを浮かべて誤魔化すしか無かった。
 
「ごめんっ、オースティン…」
 エヴァリーは小声でそう絞り出すのがやっとだった。
 
 
 
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