好きな人に触ると、その人私の事忘れちゃうんですけど!

七瀬 巳雨

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「どうぞ、召し上がって下さい」
 可愛らしい声でそのメガネの女の子は、椅子を引く。
 
「あっ、ありがとうございます」
 何度も小さく頭を下げて、エヴァリーはお言葉に甘えさせてもらった。
 
 
「パッ、パーベル・アビーの方と話すの初めてですっ。今、こちらで部活動されてる方も居ますよねっ、凄く可愛い子が居るって、皆っ凄く盛り上がってるんですよっ」
 たどたどしくも一生懸命メガネの女生徒がエヴァリーにそう言った。
 
 気づいちゃいました?気づいちゃいました?そうなんですよねー、リリアンの事でしょう?我がパーベル・アビーの宝ですっ…––と言いたいが、言えない。
 
 エヴァリーも少なからず緊張している。
 
 
「ずっずっと、ブライトンとパーベル・アビーがっ仲良くなれたらなって、思ってたんですっ。うちの両親はっ、両校の出身なのでっ」
 
「そうなんですね…––」
 エヴァリーはカップとソーサーを手に目を見開く。
 
 まるで悲恋のカップル…古典悲劇にあったような話だ。
 現実の2人は結ばれて、今目の前に居る女の子が存在している訳だが。
 
 –––考えれば、何をそんなにずっといがみ合っていたのか……学校長も変わって方針が変われば、以前から親交を持ちたいと思っていた生徒には嬉しいことだろう。
 
 
「私もっここに来れて嬉しいですっ––」
 エヴァリーも緊張しながらそう返す。
 
 
「…パーベル・アビーにはこんな麗しい男性のような女性が居るんですね」
 本棚の影から、茶色い髪の三つ編みの女の子と金髪でくるくるとした髪をした女の子が、エヴァリーを見ていた。
 
「フランカ、ティナ、失礼よっ!」
 メガネの女の子に軽く叱責された2人は、影から出てくる。
 
「だって、アイゼイア様と一緒に入ってきた時は男性かと思ったんだもの」
 
「お二人でなんて麗しい…と思ったら、スカートを履かれていたから、驚いてしまって。すみません」
 2人はそう言ってエヴァリーに頭を下げる。
 
 
「…まぁアイゼイア様にはユウリ様がいらっしゃいますからねっ」
 フランカとティナは、話し込むアイゼイアとユリアをうっとりと見た。
 
「あのお二人は学園でも有名なんです。 本当にお美しいので…恋人同士なのかははしたなくて聞けませんが、見れば分かります…–––」
 なんだか、ここにも小花が舞い始めているような…––とエヴァリーは何も見えないはずの空間を見つめる。
 
 
 
「アイゼイア様はユリア様が直々に副会長に任命されたんです!6年生では無く、5年生なのに…!」
 
「それに、お二人がご一緒に居る時のお二人の表情…雰囲気…––察して余りある、とは正にこの事…––。会長は先にご卒業されてしまいますが、アイゼイア様も同じ大学を希望されてるので、またすぐにご一緒に過ごされるでしょう––」
 
 春満開、フランカとティナは小躍りしながら小花を蒔き、エヴァリーの前をくるくると回る。
 
 
 確かに…––絵になる2人だな、とエヴァリーも思っていた。信頼し合って尊敬している、そんな空気を感じた。
 
 エヴァリーとは育ちも生まれも違うであろう2人には、自信や活力が満ちている。
 
 なんだろう、これ……––ジリジリと胸が痛んで、お腹の辺りが気持ち悪い…––
 
 
〝なんで自分ばっかり…〟
 
 エヴァリーの胸がジリジリ焼けるように痛むと、どこからかそんな声が脳に響いて来る。
 その瞬間が、エヴァリーは嫌で仕方ない。
 
 
 エヴァリーはそれ以上紅茶にもお菓子
 にも手が伸びなかった。
 
  
   
 
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