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しおりを挟む「ダンスパーティーの手伝いぃぃ?」
練習から帰ってきたリリアンが眉間に深い皺を寄せてそう叫ぶ。
「なんでそうなっちゃってんのよ!ブライトンでエヴァに何かあったみたいだから休ませてやろうってオーも言ってたのにっ!」
そう言いながら、リリアンの目はエヴァリーの机に置いてあるラナンキュラスの花で可愛らしい装飾を施されて例の本を捉えた。
「……何があったのか、白状なさい」
リリアンはキッとエヴァリーを睨みつける。
エヴァリーの背筋にゾクリとしたものが走って、そんなリリアンにもエヴァリーは雰囲気も読まずにときめいた。
「……じゃあ本の内容バラさない代わりに手伝うって訳?そもそもなんでそんな下品な本持ち込んだのよ」
リリアンはベットに寝転び、両肘を付けて顔を支え、エヴァリーに何があったかを聞きながらそう言った
「学校長が代わって、急に親睦を深めようって雰囲気になったみたい。暇そうなら、誰でもよかったんじゃないかな……。 言う事を良く聞くパーベル・アビーの生徒欲しいだろうし…」
エヴァリーは半ば諦め気味に、机に放り出された小さなメモを見る。
そこにはアイゼイアのブライトンの部屋番号と手紙の送り先、そして電話の内線番号が記してあった。
「その本は部屋に置いとくべきだったわね。身から出た錆だわ」
リリアンは呆れたような笑みを浮かべてエヴァリーを見る。
自由気ままな放課後生活と暫しお別れになる、とエヴァリーは深いため息を吐いた。
ダンスパーティーの準備の話は既にパーベル・アビーの生徒会にも伝わっていて、アイゼイアの話を出すと女子生徒はキャッキャと色めく。
世にも美しい悪魔に誑かされている人間の姿がそこにあった。
エヴァリーが居なくとも話はそこそこ進んでいて、エヴァリーはもっぱら雑用とアイゼイアへの伝達係だ。
会いたく無いので手紙を書くが、手紙じゃ時間が掛かるとわざわざ電話する事もあった。
一度交換手を挟むとはいえ、エヴァリーは受話器を持つと緊張で震える。
家族にも、電話なんてした事無いのに…––と待つ時間が長く感じた。
「エヴァリー?待たせてごめんね」
電話越しのアイゼイアの声は、なんだか少しくぐもって聞こえて大人っぽく聞こえる。その声を聞くとエヴァリーはなんだか落ち着かない。エヴァリーは受話器を持つ手にグッと力を込める。
淡々とメモした内容をアイゼイアに伝えて、エヴァリーはさっさと電話を切ろうと思っていた。
「––以上です。また何か急ぎの要件があったらご連絡します。それでは、失礼します」
「待って」
アイゼイアの言葉に、受話器から離した耳をもう一度エヴァリーは付ける。
「もう例の本は読み終えた?」
今…その話…–––
エヴァリーの頬は瞬時に熱くなった。
内容を知っているだけに、アイゼイアの大人っぽい声と相なって、なんだか本当に居心地の悪さをエヴァリーは感じる。
「……はい」
心拍が上がりすぎて締まりそうな喉をなんとか開け広げてエヴァリーは声を絞り出す。
「そうか、読んだんだ。過激な割に、表現力が素晴らしいよね。そこは純粋に素晴らしいと思うよ」
この悪魔は電話越しに揶揄っている…–––
エヴァリーにはそれが分かる。
アイゼイアの声色は、さっきより高くて、どこか笑いを堪えているように聞こえるからだ。
「女性の心情は奥深くて理解が届かない面もあったけど、男の僕でも面白かったよ、それは本当」
「……もう良いですか?」
エヴァリーは1秒でも早く電話を切りたい。出なければ鼻と耳から煙が出てくる。
「エヴァリー、一度生徒会に顔を出さない?会長にも話してあるんだ」
「っ本の事を––!?」
エヴァリーが突然大きな声を上げたので、電話室の他の生徒が驚いている。
「…っふ、言ってないよ、それは」
アイゼイアは堪えきれない笑みを漏らし、そう言うと、言い終えてまた声を出して笑った。
「エヴァ––…の事を。エヴァの事を話したんだ。よく手伝ってくれてるって、生徒会の会長も一度会いたいってさ––」
ああ…––とエヴァリーが胸を撫で下ろす。
……今、エヴァって言った?
言ったよね?
言いました?って、確かめるべき?––
いや、それは今のエヴァリーには出来そうもない。自分の胸の鼓動が痛いほど大きく、そして速く聞こえた。
悪魔の囁きだ…––
人間を誑かそうとしている…
エヴァリーはそう思いながら、もう一度受話器にしっかりと耳を付けた。
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