四天王最弱の男、最強ダンジョンを創る〜俺を追放した魔王から戻ってこいと言われたけど新たなダンジョン創りが楽しいし、知らんがな〜

伊坂 枕

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120 【ミーカイルside】ダンジョン・攻略戦

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「さて……そろそろ時間かな?」

 ミーカイルは出陣用の魔法陣の前で小さく微笑んだ。
 自分のダンジョン入り口付近にはカイトシェイド側が攻めて来る用の受け入れ魔法陣が柔らかな光を放ち始めている。

 フジョシーヌが調査して来た印象だと、カイトシェイド側で絶対的に防衛戦向きのメンバーは2名。

 物理防御・魔法防御共に、防衛に関する能力が桁外れに高い付喪神のドエムン。
 あらゆる魔法を反射させる【月魔法】を扱う兎獣人。
 
 ただし、兎獣人はまだ戦慣れしていない印象のため、攻守共に可能なメンバーが数名は防衛側に回る可能性が高いとのこと。
 ……おそらく、その役回りは大鬼のゴブロー、狐獣人のコギッツ、執事魔人のベータ辺りだろう、と報告を受けている。

 確かに、大鬼は大型の武器を好む性質のため、狭い通路を通る探索側よりも、ある程度の広さを確保できるボスエリアでキーパーをやらせた方がその能力を生かせる。
 実際に、ゴブローも己の身体と同じ程度の大きさの巨大な槌を使っていたようだ。

 この辺りは防衛側に回る可能性が高そう、との事だ。

 彼女の嗜好の主張は訳が分からないが、彼女の戦力分析はそれなりに説得力がある。

 カイトシェイドはサタナスに代わって魔王就任したばかりのヒヨッ子だ。
 フジョシーヌ曰く、彼のダンジョンはまだ地下30階層程度の深さしかないと聞いている。

 実は、ダンジョン育成は、地下30階を超えてからが一気に難易度が上がるのだ。
 つまり、彼は自分のダンジョンを手に入れてからまだ日が浅いはずである。

「ただ、不可解なのは、あの町の発展具合ですわ……普通、最初にダンジョンと契約を結び、その周りに街が形成されるようになるには、地下50階層に到達するくらいでないと……あそこまで町の発展はしないはずなのに……」

 フジョシーヌは、少しだけ心にざわつくものを感じているのか、その可愛らしい眉を寄せた。

 そもそも『ダンジョン・クリエイト』のスキルが無い場合、自然発生的に生まれたダンジョン・コアを育てるしか方法が無い。
 しかも、ダンジョン・コアが自然発生するような場所は基本的に生き物の近寄らない不毛地帯だ。

「ふむ……じゃが、サタナスの記憶によると、カイトシェイドとは下級兵士達の住環境整備がかなり得意なようじゃ。単純にダンジョンのリソースを町に振っているに過ぎんのではないか?」

「その可能性は否定できませんわね……実際、あそこの地下ダンジョンは、殲滅力が低く、かなり接待要素が強いようですわ」

 逆に、ミーカイルのダンジョンはかなり殺戮要素が高めだ。
 特に、入ってすぐの最初の回廊は幅が成人男性が両手を広げて進める程度、高さも成人男性の身長程度の狭さで真っ直ぐで緩やかな下り坂。

 その造りは、ただ単純に奥の扉に向けて真っ直ぐ進むだけ……なのだが、正面の扉からは、高速の鉄弾が一定タイミングで延々と発射されている。
 逃げ場の一切無い直線通路に鉄の弾幕。これが、あらゆる生き物の侵入を阻んでいる。
 しかも、その扉を開けても全く同じ罠と構造のルートがもう2回続いており、侵入者の心を折る仕組みだ。

 さらには、その鉄の弾幕の中に混じって聖水で聖別させた銀の弾が混ざっているのだ。
 これで、物理攻撃に油断しているアンデッド族をも打ち漏らさない万全の構え。
 そして、トドメとばかりに最初の通路の扉付近から手前三分の二には『魔法使用禁止』の封魔文字が輝いている。
 仮に防御魔法などで守備力を上げて突破しようとしても、そのラインに到達すれば、防御魔法が無効化されてしまう罠の二段構え。

 ズキューン、ズキューン、ズキューン……

 一定の間隔を置いて響く鉄と銀の弾幕による鉄壁防御。
 これを打ち破るのは例え魔王であるミーカイルであってもそれなりに骨が折れる。

「ああ、時間みたいだね」

 ダンジョンの最奥50階層。
 そこの壁に映し出された映像は、続々とカイトシェイド側の魔族達が移動してくる様子だった。

 続々と……続々と……

「……って、言うか多くない!?」

「えっ!? あれは、ドエムン様? あぁん、執事のベータ様までこちらに!?」

「フジョシーヌ、あれはお前が言っていた兎獣人では?」

「まさか……防衛は捨てて、全力で攻撃に!?」

 映像を眺める3人の背中に冷たい汗が伝う。

「くくく……じゃが、あの殺戮罠を突破するのは容易ではないぞ? 敵の数が多ければ多い程、肉の壁が障害物となり、こちらに有利……って何ィっ!?」

 それは突然始まった。
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