四天王最弱の男、最強ダンジョンを創る〜俺を追放した魔王から戻ってこいと言われたけど新たなダンジョン創りが楽しいし、知らんがな〜

伊坂 枕

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115 【サタナスside】そのころのアークデーモン②

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「ねぇ、サタナス……君は本当にそんな話を信じてもらえると思っているのかな?」

玉座に座り、映像記憶の魔水晶を握りしめて、ミーカイルはにっこりとほほ笑んだ。その目の前で跪いているのは、元・魔王のサタナスだ。
6枚あった立派な羽は全てむしり取られ、頭の角は一本が欠けている。

ぽん、ぽん、と、何でもない事のように魔水晶を手慰みに弄んでいるものの、玉座の周りに大量に飛びちっている何かの肉片や血痕が、無言で彼の怒りを伝えていた。

「僕の可愛い部下だったシシオウから聞いているでしょ?」

 声色が穏やかなのが、逆に不穏だ。

「僕が……愛しい、愛しい姉さんをどんなに必死に探していたのか……」

「も、もちろんです。しかし! これも全てあのカイトシェイドの仕業……!」

 サタナスは翼の無い背中に冷や汗をかきながら弁明をしていた。
 そんな滑稽なアーク・デーモンへの助け舟が意外な方向から現れた。

「ミーカイル様、信じがたい話じゃが、どうやらそれは真実らしいのじゃよ」

 トラオウが憮然とした様子で腕を組んでいる。

「この男の記憶を探ってみたのじゃが、どうやら、サタナスは魔王・カイトシェイドに操られていたようなのじゃ」 

「……でも、映像には姉さんの他には、影触手かサタナスしか映っていないよね?」

「うむ。カイトシェイドめは狡猾に指示をするだけで己の手を汚さないクズのようじゃな。【大魔王の加護】を持つのを良いことに、魔王城では好き勝手傍若無人に振る舞っていたとか……」

「……ふーん……それで、その度に、僕の姉さんをわざわざコイツの慰み者にさせていたの?」

 実は、他者の記憶を強制的に読み取れる能力者はそれなりに貴重だ。
 ミーカイル陣営でそれができるのはトラオウだけと言って良い。
 それ故、ミーカイルにとって、彼の発言はそれなりの信頼性を持っていた。

「さ、左様でございます! ミーカイル様っ!! 余……いえ、わたしも、そこまで非道な真似は……と、何度か進言したのですが、奴は一切聞く耳を持たず……」

 とはいえ、ここに魔王城で生活したことがある者がいれば、サタナスの話が不可解で支離滅裂であることがすぐに分かった事だろう。

 だが、サタナス自身は、自分が悪くないと心底から信じている。

 あくまでも、自分は魔王・カイトシェイドの指示に従わざるを得なかった被害者、と言い切ってはばからない。

 元々、サタナスは記憶を改変させることが得意な魔族だ。
 
 他人の記憶を覗き見るどころか、好き勝手嬲れる男が、自分自身の記憶を『に、己に都合よく改変する』など、朝飯前だと言っていい。
 
 トラオウにとっての誤算は、サタナスの能力の根源はあくまでも『スキル喰い』であって、記憶操作の技能と見抜けなかった点であると言えよう。
 結果として、サタナスの『嘘の記憶』をそのまま信用してしまったのである。

「ヤツは、余を……いえ、わたしを操り、ヘイトを集め、魔王城を崩壊させた狂気の塊なのです!」

 サタナスにとって「自分は常に完璧に正しい」のである。

 常に正しいことを選択しているのだから、都合の悪いことは全部、他者のせい。
 他者が悪いから、正しいはずの己にまで害が及んでいるに過ぎないのだ。
 つまり、魔王の位を奪い取ったカイトシェイドは絶対悪であり、すべての諸悪の根源なのだ。

 そこに根拠や証拠などは必要だと感じていない。

「でもね。この映像……最後の方、姉さんが君に『カイトシェイドを連れ戻して欲しい』って懇願しているように見えるんだけど? ……どういうことなのかな?」

「それこそがヤツの狡猾なところなのです! 最期のトドメを他人の責任へと転化させた情報を無理矢理作り出させて、ミーカイル様へ送りつける……そうすれば、どう見ても、余……いえ、わたしが悪者。奴はそう考えたに違いありません!」

 嘘で塗り固められ、己の証言に矛盾が生じたとしても、そうと分かる前にカイトシェイドかミーカイルを殺してしまえば良いだけの事。

 サタナスの短絡的な思考は「あくまでも悪いのは全部カイトシェイド」で塗り固められている。

 その、都合よく改変された記憶を読み取ったトラオウは、サタナスがカイトシェイドの【傀儡】にされ、いいように操られた、と認識してしまったらしい。

「……じゃぁ、サタナス、君は僕に忠誠を誓えるかい?」

「無論でございます!! あの外道で下種なカイトシェイドの呪縛を解いていただいたトラオウ様とミーカイル様のご慈悲には感謝しております!」

 そう言うと、跪いたまま、ミーカイルの足に口づけを落とす。
 これは、魔族にとって忠誠を誓う約束のようなものである。普通、この誓いを行う魔族は裏切ることは無い。

「……ふぅん……なるほどね」

 だが、サタナスにとって「約束」とはあくまでも他者に守らせるものであって、自分が守るものではない。
 自分には事情があれば約束など反故にする権利がある。だって、自分は絶対的に正しいのだから。

 そう信じているから、忠誠の誓いであっても、たやすく行えるのだ。

 だが、どんなに都合よく嘘で模糊したところで、客観的な事実は簡単には変わらない。

 (くくく……カイトシェイドめ……! これで貴様も終わりよ……!!)

 その嘘の塔を、高く、高く塗り固めることが、どれだけ危険で愚かな事か。
 そして、自分自身すら嘘の記憶で騙す事が、サタナス自身の成長を妨げている最大の要因だと気づける時は果たして来るのだろうか。

 サタナス自身にも付与されている【大魔王の加護】が物悲しい光を放った気がした。
 
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