四天王最弱の男、最強ダンジョンを創る〜俺を追放した魔王から戻ってこいと言われたけど新たなダンジョン創りが楽しいし、知らんがな〜

伊坂 枕

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85 サキュバスを捕まえよう!

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「……左様でございますか」

 ベータが俺の話を聞いて何やら難しい顔をしている。
 領主代行から面と向かって宣戦布告を受けているのは、人間世界の常識に詳しいベータからすると、あまり好ましい状態とは言えないのだろう。

 俺はネーヴェリクを寝室のベッドに寝かせると、アルファにコアを持って来て貰い、ダンジョン内をくまなくチェックしてみた。

 しかし、ダンジョン内映像だけでは、サーキュの姿は捕らえられない。
 本来、ダンジョンに侵入している生き物に関しては、この映像で把握できるはずなのだが、そこに映らないとなると、考えられることは二つ。

 一つ、サーキュはすでにこのダンジョンハポネスに居ない。
 一つ、セーブ・エリア虫の創り出した空間に潜んでいる。

 最初の可能性も確率がゼロではない。
 このダンジョン、特に出て行く事に制限はかけていないし、ポイント的にまだ脱出不可能そのクラスの罠には手が出せない。
 ネーヴェリクに呪いをかけたうえで、一旦魔王城へ戻ることも考えられる。

 ただ、サーキュの性格的に、ネーヴェリクを狙っているならば、彼女を連れずに魔王城へ戻る可能性はかなり低いと俺は踏んでいる。

 アイツ、かなり面倒くさがり屋で「他人に何かをやらせて、それを高みの見物する」のは好きなクセに、自分自身がせっせと働くことはあまり好まないのだ。
 それがわざわざココまで出向いているのだから、目的を達成する前に戻る、などという無駄なことはしなさそうなのだ。

 一方、これだけの空間になってくると、そろそろダンジョン・エリア内にセーブ・エリア虫が湧く。
 セーブ・エリア内に居る生き物に関しては、ダンジョン・コアによるサーチ映像に映らない、という特性が有るのだ。

 侵入者であるサーキュがそこに入り浸っている可能性は高い。
 このダンジョンの住人以外にとっては、体力・魔力が少しづつ回復して居心地の良い空間だしな。

「なぁ、ベータ、セーブ・エリア虫の駆除の話ってネーヴェリクから聞いているか?」

「……」

 何やら不審そうに考え込んでいるベータ。

「ベータ?」

「も、申し訳ありません、旦那様、セーブ・エリア虫の件は、ネーヴェリク様より伺っております……あの、実はその事と併せて一つ懸案事項がございまして……」

「懸案事項?」

「あの、ネーヴェリク様に呪いをかけたと言うサーキュとは、サキュバス・クイーンという種族で、20代前半の美しい女の姿をしている……の、ですよね?」

 ベータが何やら思い当たることがある様子で確認を取って来た。

「ああ。20代前半で、体型なんかは滅茶苦茶、胸肉ッ! 腰細ッ! デカ尻ッ! て感じで……胸部のボリュームは、シスター・ウサミンみたいだ。髪型はコロコロ変えるヤツだけど、基本的に長いって話したよな?」

「ええ、それは伺っております。ちなみに、どのような服装を好まれるのでしょう?」

「服装?」

 アイツ、似たような感じだけど、ちょっとだけ違うモノをいっぱい持ってたからなぁ……

「うーん、全体的には洗濯に手間がかかって面倒くさいヤツだな。紐が多くて、型崩れしやすいくせにバカ高い素材で、クリーン・スライムだと対応できない感じの特殊な格好だぞ?」

「なぁ、もしかして、それ……黒っぽくて、ツヤツヤしてて、肌がかなり見えて、雑にラッピングされたみたいな服か?」

「それは、布の少ない下品な印象の場末の娼婦が着るような衣類でしょうか?」

「え?……えーと……」

 サーキュの格好って雑なラッピングなのか?
 人間の国では、場末の娼婦ってあんな感じなのか? 

「ホラ、胸の先っちょと股間を紐と布で隠して、ハラマキみたいな紐で結ぶ布をへその上あたりに巻いて、絶対領域を演出すべく長い靴下みたいな靴を履いて……後はとにかく肉の塊とかコブを前面に押し出す感じだ! ボ、ボ、ボ、ボン! って!!」

 俺の渾身の説明に何故か首をかしげるアルファとベータ。
 あー、クソっ、ああいう恰好を何て言うんだ?!
 でも、身近にあんな服装している女、居ないしなぁ……

 ……ふと思ったんだが、俺とアルファとベータだと、女の衣装に関しての情報のすり合わせって、上手くいかないんじゃねーか?
 知識と感性の方向性が違う気がするんだが、俺の気のせいか?

「なぁ……念のために聞くけど、そいつ、ババアに化けたりするのか?」

「ババアに化けるぅ!?」

 アルファの言葉に思わず変な声を出してしまった。

 いや、【魅了】を使うことにプライドをかけているヤツだから、それは……いや、待てよ?
 ダーイリダのヤツが「熟女好き」や「老け専」ならばありえないとは言えない。

「あー……そっか、20代前半の女じゃない可能性か。ゼロではないな」

 その一言に、アルファとベータが顔を見あわせる。

「思い当たる節が有るのか?」

「はい、実は……」


 聞けば、俺が奪衣婆だつえばと勘違いした高位魔族が怪しいらしい。
 入場を許可するための押印を施せば、その魔族が今どこに居るかアルファ達にも分かるはずなのだ。

 それが、数日前から、ある一か所付近でよく行方不明になるらしい。

「それは何処だ?」

「はい、この場所です」

 コアから映し出された真上からの俯瞰映像を頼りに、その場所を指し示す。
 そこは、ネーヴェリクが創った公衆浴場のすぐ近くにある花街の一角だった。
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