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82 ネーヴェリク誘拐!?
しおりを挟む「旦那様!」「旦那様のお戻りだ!!」「ああ、良かった……!」「べータ様をお呼びしろ!」
「おい、これ、一体どういうことだ!? ネーヴェリクはどうしたんだ?」
カシコちゃんの【出戻移動】で戻って来たのは、屋敷の玄関だ。
その窓から外を見れば、人間の騎士団が、屋敷の周りを取り囲んでいた。
当然、そんな一触即発の状態なので、接待用ダンジョンにひと気はないし、その近くの露天も暖簾を降ろしている。
普段なら、庭先でマンドラニンジンを収穫しながら遊びまわっているはずの孤児院の子供達の姿も無い。
真っ先に出向かえてくれるはずのネーヴェリクも居らず、屋敷の中はバタバタしている。
「旦那様!! 無事のお戻り、何よりでございます! 実は……」
ベータのヤツが顔色を変えて駆け寄って来た。
聞けば、俺が中央神殿へ出向いている間に、領主代理であるダーイリダ卿から妙な難癖をつけられたらしい。
何でも、『生きたダンジョン』とは個人の土地に発生したとしても、街の公営施設に当たる為、ここを立ち退け、とのこと。
当然「強制的な手段も辞さない」と、このように騎士団連中が屋敷を取り囲んでいるらしい。
一応、こっちの連中は、ほとんどオメガが一人で対処してくれている。
人間相手であれば、夢や幻覚はなかなか良い足止めのようだ。
「あー……頑張ってくれているのは嬉しいが……今は、この街中、全部俺の『ダンジョン・エリア』だから、別に引っ越せ、と言うなら街中どこにでも引っ越すぞ? ベータ、適当な土地を見繕ってくれ」
接待用ダンジョンは名目上、街の管理になっても何ら問題はない。
「いえ、それが……」
ところが、ダイリーダ卿は、立ち退くだけではなく『ダンジョン・コア』と、『その管理者であるネーヴェリクの身柄を引き渡せ』と言う要求をして来たのだとか。
「ハァ!? ダンジョン・コアと管理者であるネーヴェリクの身柄ぁ!?」
ギロリッ!
俺は思わずボーギルとカシコちゃんを睨みつけた。
この屋敷のメンバー以外、俺が魔族で、しかもダンジョン・マスターだと知っているのはこの二人だけのはずだ。
「いや、俺達は領主様への報告にそこまで詳しい情報は流していないぞ!?」
「そうよ! カイトシェイドさんが魔族、しかも元・魔王軍四天王でダンジョン・マスターなんて話、上層部に出来る訳無いでしょう!?」
「だいたい、そこまで正直にあけっ広げに話したら、今回の『中央神殿』行きの話が俺達経由で旦那に伝わる訳が無いだろ!?」
そう言って、抱き上げていたルシーファの背中をポンポンと叩くボーギル。
……それもそうか。
俺があくまでも人間を装っている前提だったから、中央神殿に出向け、なんて話が来たんだもんな……
「じゃ、ネーヴェリクは?」
「ネーヴェリク様は、少しでもトラブルを早く収めようと、自らダーイリダ卿の屋敷へ出向いております。ただ、もう3日以上、何の音沙汰も無く……ちなみに、コアにつきましては、ネーヴェリク様より『流石にダンジョン・コアを持ち出す訳にはいかない』と、ダンジョン最奥にてアルファとゴブロー殿が守るよう言いつかっております」
「……そうか」
ん~……一体、誰がダーイリダ卿に「ダンジョン・コア」と「ネーヴェリクが管理者」って話をしたのか分からないが、直接、本人に聞けば良いか。
「あ、そうだ。ちなみに、俺が居ない間、マドラが来たりしなかったか?」
「いいえ、特には……お一人、身に纏う布が少ない老婆姿の高位魔族がお見えになりましたが……事前に旦那様から伺っていたルシーファ、マドラ、サーキュ、シシオウ、魔王サタナスとは、見た目も異なるようでしたし、魔力量も我々よりもだいぶ少なかったので入場を許可いたしました」
身に纏う布が少ない老婆?
はるか東方に住むって言われている奪衣婆とかかな?
どうやら、魔王城の関係者では無さそうだ。
「何でも、ネーヴェリク様が旦那様のお留守の間に作成した公衆浴場の利用が目的だったらしいです」
なるほど、街の外から人を呼び込む為の施設を増設したのか。ポイント増加の為には良い案である。
ネーヴェリクも風呂の整備は得意だからな。
「……分かった。俺がダンジョン内瞬間移動で、直接そのダーイリダ卿とネーヴェリクに話を聞いてくる」
こんな無茶な話をして来たって事は、ダーイリダ卿は俺がダンジョン・マスターだと知った上で話を持ち出したのだろう。
であれば、別に遠慮はいらない。
「あ、そうだ、ついでだし、ボーギルとカシコは冒険者ギルドに送ろうか?」
この屋敷中を包囲されている状態でギルドまで戻るのは大変だろう。
カシコちゃんの【出戻移動】は、一度発動させた後でないと新規に設置はできないから、この屋敷から外へ出るには徒歩となるはずだ。
「あ、ああ、スマンが頼む」「そうね……ギルドの中からも情報を集めないと……」
「あとルシーファはどうする? ここに居るよりボーギル達と一緒が良ければそれでも構わんが?」
「……あの、ボーギル達と一緒でもいいですか?」
まぁ、コイツ、今は攻撃能力も自己防衛能力もほぼ皆無だからなー。
気心知れてるヤツの近くに居たいんだろう。
「わかった、二人とも構わないよな?」
「ええ、もちろんよ」「ああ」
そんな訳で、三人をダンジョン内瞬間移動でギルドに送ると、その足で俺はネーヴェリクの元へと飛んだ。
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