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77 さよなら、アブラタンク
しおりを挟む俺は、腰に佩いていた剣をスラリと抜く。
ぶっちゃけ、剣はほとんど使った事が無いから、完全な初心者だけど、それでも振り回す程度のことは可能だ。
「控えよ! 我が守護天使に何たる口の利き方!! 私、カイトシェイドは『夢の御告げ』でそのように進言するように指示されただけのこと!!」
「な!?」
「ですが、その茶番はもう終わりです!」
……いや、今まさに、茶番の真っ最中なんだけどな?
「今ここに、スゴピカ様への信仰を誓い、勇者としての責務、果たしてみせましょう! 我が意に答え加護を賜り給え!! 【瞬間最大光量《スゴピカ・フラッシュ》】!!」
カッ!!
「ぐわぁっ!?」「ぎゃっ!!?」「うわぁっ!」「眩しいっ!!」
ライティングとは違う、網膜を焼くような凄まじい光が手にしていた剣に宿る。
ざわめく神官達。
なお、俺が剣を抜いたら、この目潰しフラッシュが発動する合図だ。
多分、カシコちゃん、ボーギル、ルシーファのヤツは、きちんと目を閉じているはずだ。
ちなみに、この発動を合図に、防御結界を消す段取りになっており、ルシーファのヤツは俺の隣に立っているはずだ。俺のとなりで、すとん、と小さな着地音がしたから、多分大丈夫。
つーか、ここでコケてたら、流石にへっぽこが過ぎる。
「ひ、光の剣……」「本当に勇者様……!」「まさに伝説の……!」
徐々に弱まる光だが、エンチャントのできる剣だけあって、未だにその刀身からは穏やかな光が溢れている。
「う、嘘だ! そんな物は幻っ!! 認めんッ!! 私は認めんぞッ!!」
唇の端から泡を吹いて、宝石だらけの杖で俺に殴りかかって来るアブラタンク。
「……裁きの炎よ! 【煉獄剣】!」
がきんッ!!
俺は呪文を発動させると、アブラタンクの一撃を剣に炎を纏わせた状態に変更して受け止める。
薙ぎ払うとダンジョン・エリア外に剣先がでちゃうからね。仕方ないね。
だが、炎に焙られて、金ぴか宝石ジャラジャラの杖がわずかに歪み、高温に弱い石にヒビが入る。
「おお!!」「勇者様が魔法を……!」「やはり、お告げの指示……か!」
ざわつく神官達。
そんなギャラリーなど目に入らないらしく、傷ついた杖を握り締め、目を血走らせるアブラタンク。
「わ、私の杖が……!! ええい、たわけがッ!! こ、これがどんな値打ち品か知らぬのかッ!?」
と、いきり立っていらっしゃいますが……そんな心配している余裕あるのかなー?
「皆! 見てくれッ!! これが、アブラタンク殿の不正の証拠だ!!」
その時、後ろの方で、若くて真面目そうなひょろっとした神官が手にしていた複数の書類をぶちまけながら叫ぶ。
その背後にチラッとボーギルの姿が見えたから、きっと、証拠とやらをあの青年神官に託したのだろう。
「なっ!?」
どよどよ、と騒がしくなる神官達。
確かに、それらの書類は娼館から女を買い上げて自分の一派に配った手配書やら、水増しされた自分達の運営する孤児院への資金流用など「誰がどう見ても黒」な、分かりやすい悪事の証拠が複数。
「奴らを捕えよ!! 神殿のゴミめ!! ひっ捕らえて牢に入れておけ!!」「「「おおおおおっ!!」」」
「くそぉぉぉ!! 私は悪くない!! 私は正しいことをしたのだあああぁぁッ!!」
マチョリダ一派が生き生きとした表情で、アブラタンク一派をお縄にしていく。
アブラタンクはぎゃぁぎゃぁ泣きわめきながら、この大広間から退場だ。
これだけ分かりやすく腐敗しているヤツに、もう未来は無いだろう。
俺の所まで回って来た証拠書類をちらりと見ると、まだ年端も行かない少女を犯して口封じに殺したらしい内容が書かれていた。
少女を犯して殺すなんて……!
馬鹿かコイツ、なんともったいない!!
子供はまだまだ寿命が長いから、生かしておけばずっとダンジョン・ポイントを生み出してくれるんだぞ!?
しかも、性成熟前にそんなことしたら、成長後も無事に繁殖してくれるかどうかわかんないじゃん!!
命の大切さを知らない神官がここのトップなど、まさに悪夢だ。
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