55 / 124
55 【魔王side】そのころの魔王城⑤
しおりを挟む
――時はわずかに遡る。
ぐしゃっ! ぐしゃっ! ぐしゃっ!!
何度目か。
魔王・サタナスは、すでにズタボロになった堕天使の残骸を踏み潰す。
よりにもよって、あのカイトシェイドの方がシシオウより数倍も役立つ、とまでぬかしたのである。
「見下げはてたヤツめ……! 貴様など、四天王でもなんでもないわ」
苛立ちの余り、生きたままバラバラに引き千切り制裁を加えてやったが、それでもこの腸が燃えるよう怒りの炎は消えることがない。
そもそも、サタナスは、何を言っても僅かに不快そうに眉をよせるくらいで、飄々とマイペースに仕事をこなすあの小男が大嫌いだった。
先代魔王の孫、と言うだけで、ダンジョンの外ではたいした戦闘能力も無いくせに、先代の四天王達からは大いに可愛がられていた。
本来ならば、魔王の息子である自分の方が後継者に相応しいはずである。
母も純血の高位魔族の娘であり、攻撃・破壊スキルの数、魔力量共に他の追随を許さないレベルだ。
それが、先代魔王の血を引くとはいえ、タダの人間が産んだ出来損ないの半魔娘。
さらにその半魔娘と、どこの男とも知れない輩との間のガキが、カイトシェイドである。
比べられること自体が、身を焦がすような屈辱感を味わわされる思いだった。
それなのに、自分の周りの奴等は、皆、あの小男を称賛するのだ。
特にあの堕天使は万死に値する。
そういう風には考えられないように、あれだけ、散々、教育し、魂が壊れるほど可愛がってやったというのに……
まだ根底にはあの小男への想いが残っていたかと思うと、怒りの衝動を抑えることができなかった。
「ふんっ!!」
サタナスはもっとも古くから四天王として仕えているマドラを指名した。
「マドラ! 代わりはお前がやれ!」
と。
……一方、当のマドラは、カイトシェイドを探し出して連れ帰る、と計画したは良いが、具体的にヤツがどこに居るのか、一切分からないため、魔力反応の高そうな所を適当に飛び回っていた。
「ふーむ……カイトシェイドの奴め、どこに隠れた?」
マドラ自身、探索だの管理だのと言った細かい作業が苦手である自覚はある。
だが、その苦手を克服しよう、などという気はさらさら無い。
むしろ、そういう分野は別のヤツに任せて、自分はさらに力を追及すべきだ、と考えている節がある。
戦いの華は肉弾戦だ。純粋な力と力のぶつかり合い、そして、圧倒的なパワーで相手を叩き潰す。
それこそが戦いの醍醐味だ。
そんな時に、腕のウロコの下に埋め込んでいた魔道具から、複数ばら撒いた邪竜眼が『破壊された』ことを示す合図が届いた。
「ふむ? 珍しいこともあるな……?」
これはそれなりの力がある者でないかぎり、簡単に壊せるような代物では無いのだ。
誰だかわからないが、それでもこれが壊せるということは、一定以上の強さがある証拠である。
マドラは、カイトシェイドの探索中ということを忘れてペロリと唇を舐める。
その唇の形は三日月のような弧を描いており、もし、その姿を見る者が有れば、明らかに彼は楽し気に興奮しているのが見て取れただろう。
「ふむ……コイツは、ハポネスの街付近の輩に預けたものか」
誰に渡したのか、もはや記憶の片隅にも無いが、これだけの遠距離だ。
そんな地の果てに高位魔族が居るはずがない。
たぶん、そこそこ見どころのある人間か亜人辺りに渡したものだろう。
あえて問題をあげるとするなら、ここからハポネスの辺りまではかなり距離がある点だろうか。
往復にはそれなりに時間がかかってしまう。
魔王城の方は、多少トラブルがあったところで、不祥事はシシオウに擦り付けるようになっているし、カイトシェイドさえ捕らえて連れ帰れば、ヤツがひーひー言いながら現状復帰をするはずだ。
「そう考えると、少しぐらい荒れていた方が良いか?」
彼は、都合のよい言い訳を自分自身に対してかける。
要は、興味が湧いたから魔竜眼を壊したヤツと戦ってみたいのだ。
「ふっ、よかろう。少しばかり、揉んでやるとするか」
その選択が、人生の大きな岐路となることを、彼はまだ知らない。
ぐしゃっ! ぐしゃっ! ぐしゃっ!!
何度目か。
魔王・サタナスは、すでにズタボロになった堕天使の残骸を踏み潰す。
よりにもよって、あのカイトシェイドの方がシシオウより数倍も役立つ、とまでぬかしたのである。
「見下げはてたヤツめ……! 貴様など、四天王でもなんでもないわ」
苛立ちの余り、生きたままバラバラに引き千切り制裁を加えてやったが、それでもこの腸が燃えるよう怒りの炎は消えることがない。
そもそも、サタナスは、何を言っても僅かに不快そうに眉をよせるくらいで、飄々とマイペースに仕事をこなすあの小男が大嫌いだった。
先代魔王の孫、と言うだけで、ダンジョンの外ではたいした戦闘能力も無いくせに、先代の四天王達からは大いに可愛がられていた。
本来ならば、魔王の息子である自分の方が後継者に相応しいはずである。
母も純血の高位魔族の娘であり、攻撃・破壊スキルの数、魔力量共に他の追随を許さないレベルだ。
それが、先代魔王の血を引くとはいえ、タダの人間が産んだ出来損ないの半魔娘。
さらにその半魔娘と、どこの男とも知れない輩との間のガキが、カイトシェイドである。
比べられること自体が、身を焦がすような屈辱感を味わわされる思いだった。
それなのに、自分の周りの奴等は、皆、あの小男を称賛するのだ。
特にあの堕天使は万死に値する。
そういう風には考えられないように、あれだけ、散々、教育し、魂が壊れるほど可愛がってやったというのに……
まだ根底にはあの小男への想いが残っていたかと思うと、怒りの衝動を抑えることができなかった。
「ふんっ!!」
サタナスはもっとも古くから四天王として仕えているマドラを指名した。
「マドラ! 代わりはお前がやれ!」
と。
……一方、当のマドラは、カイトシェイドを探し出して連れ帰る、と計画したは良いが、具体的にヤツがどこに居るのか、一切分からないため、魔力反応の高そうな所を適当に飛び回っていた。
「ふーむ……カイトシェイドの奴め、どこに隠れた?」
マドラ自身、探索だの管理だのと言った細かい作業が苦手である自覚はある。
だが、その苦手を克服しよう、などという気はさらさら無い。
むしろ、そういう分野は別のヤツに任せて、自分はさらに力を追及すべきだ、と考えている節がある。
戦いの華は肉弾戦だ。純粋な力と力のぶつかり合い、そして、圧倒的なパワーで相手を叩き潰す。
それこそが戦いの醍醐味だ。
そんな時に、腕のウロコの下に埋め込んでいた魔道具から、複数ばら撒いた邪竜眼が『破壊された』ことを示す合図が届いた。
「ふむ? 珍しいこともあるな……?」
これはそれなりの力がある者でないかぎり、簡単に壊せるような代物では無いのだ。
誰だかわからないが、それでもこれが壊せるということは、一定以上の強さがある証拠である。
マドラは、カイトシェイドの探索中ということを忘れてペロリと唇を舐める。
その唇の形は三日月のような弧を描いており、もし、その姿を見る者が有れば、明らかに彼は楽し気に興奮しているのが見て取れただろう。
「ふむ……コイツは、ハポネスの街付近の輩に預けたものか」
誰に渡したのか、もはや記憶の片隅にも無いが、これだけの遠距離だ。
そんな地の果てに高位魔族が居るはずがない。
たぶん、そこそこ見どころのある人間か亜人辺りに渡したものだろう。
あえて問題をあげるとするなら、ここからハポネスの辺りまではかなり距離がある点だろうか。
往復にはそれなりに時間がかかってしまう。
魔王城の方は、多少トラブルがあったところで、不祥事はシシオウに擦り付けるようになっているし、カイトシェイドさえ捕らえて連れ帰れば、ヤツがひーひー言いながら現状復帰をするはずだ。
「そう考えると、少しぐらい荒れていた方が良いか?」
彼は、都合のよい言い訳を自分自身に対してかける。
要は、興味が湧いたから魔竜眼を壊したヤツと戦ってみたいのだ。
「ふっ、よかろう。少しばかり、揉んでやるとするか」
その選択が、人生の大きな岐路となることを、彼はまだ知らない。
0
お気に入りに追加
1,309
あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる