四天王最弱の男、最強ダンジョンを創る〜俺を追放した魔王から戻ってこいと言われたけど新たなダンジョン創りが楽しいし、知らんがな〜

伊坂 枕

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48 あったか家族をつくろう!

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「あの扱いを受けて、何でお前、ウチのコアを盗み出したんだよ?」

「えぇぇ……? ……知らないよ?」

 オメガはこてん、と首をかしげる。

「だって、ボクの身体は誰かが勝手に弄り回すんだもの……ボクが好きに動けるのはここだけだよ」

 拗ねたような、諦めきったような様子で、周りにふわふわの椅子を生み出すと、そこに座り込む。

「でもねぇ、今度の仕事を成功させたら、ボクをじゆうにしてくれるって言ってたんだよ? ホントかなぁ? ふふふっ……」

「何だ? お前、死にたいのか?」

「そうだねぇ」

 オメガは相変わらずニタニタと笑いながら、この混沌空間から四角い箱のようなものを取り出す。
 そこに映っているのは、街中で見かけた普通の家族だろうか?

 幼い子供が笑いながら駆けて来ては、父親の足にしがみつくと、父親は子供をひょいっと抱き上げる。
 そして、父親の隣に立っていた母親も父の腕の中で笑い転げる子供にほおずりし、春の太陽のように微笑んでいる映像だ。

 典型的なしあわせ家族のほほえましい一幕といっていいだろう。
 オメガはそれをじっと見つめると、

「これねぇ、見ることは出来るんだけど、ボクの身体が体験してないことはここに作れないんだよねぇ……」

 と、静かな声で呟いた。

 その途端、「お前なんか産まなきゃよかった」「気味が悪いんだよ」「何のためにお前なんか生きてるの?」「お前が死ねば良かったんだ」「まるで悪魔の目だわ!」等の罵詈雑言を吐き散らかす人間の群れが俺たちの周りを取り囲む。

「おぉ?」

 なんだこれ? オメガの体験した記憶の再現か?

 オメガは画面から視線を動かそうとせず、キーキー騒ぐ人の影をゴミでも払うように、ぱっ、ぱっと散らし、面倒くさそうに小さく息を吐いた。

「あんなのは勝手に作られちゃうんだけどねぇ?……自由になったら本当にボクもこの仲間に入れるのかなぁ?」

 ぺち、ぺち、と四角い箱を叩く背中に哀愁が漂っている。

「ん~、つまり、お前、さみしいんだな?」

「ふふふ、さみしいってなぁに? あなたがこのまま……ここに居てもらえれば、ボクは自由だよ?」

 ニタニタと壊れた笑いを張り付けたまま首をかしげるオメガ。
 だが、俺はそんな哀れな生き物を一笑に付す。

「ふふふ、馬鹿め! お前、あの男に、だろ」

 ピシリ。
 その言葉に、オメガのニタニタ笑いの表情にヒビが入った。

「だが、俺はお前が気に入ったぞ! ダンジョンの主であるこの俺を不完全とはいえ、眠らせ、そのうえ夢の世界とやらに引きずり込む技量はなかなか見どころがある! オメガ、お前、魔族になれ」

「……は?」

「俺のものになれ、オメガ。理想はその映像みたいなあったか家族か? おう、いいぞ。お前は小柄だから、たぶん、ウチの連中であれば誰でも肩車くらいしてくれるだろうし、ほおずり程度お安い御用だ!」

「あなたは何をいってるの? だって、ボクはこんな眼だもん、普通はみんな気味悪そうに見て来るよ!?」

「俺がいつお前を気味悪そうに見たんだよ?」

 つーか、どう見ても人間は人間だろう? そんな些細な差異、言われないと気づかないって、普通。
 人間なのに目玉が6つくらい有るっていうなら、流石に俺だって気づくと思うけどさ。

「……あなたや、あの白いメイドのお姉さん……それに、あの人は……ボクを気味悪そうに見なかったけど……」

 白いメイドのお姉さんはネーヴェリクの事だろう。

「あの人って……ああ、アルファか?」

「……うん」

 オメガがこくりと頷く。

 オメガが指さす先では、アルファと例の男が、何やら叫びながらガチで殺し合いをしている。
 力量はほぼ互角。
 剣を振り回す男に対し、エモノを何も持っていないアルファの方が若干不利か?

「だから、お前、アルファの傍にいつも居たのか」

「……そうだよ。……あなたは時々、薄くなるから……どれが本当のあなたか、分かりづらい」

 どうやらコイツ、俺の本体と分身体を見分けることができているっぽい。
 ホントに魔術に才能あるなー。
 コイツならガッチリ教え込めば、一人で封魔回廊の維持だってできるようになるんじゃないか?

「どうだ? 俺はアイツと違って約束はやぶらないぞ?」

 その言葉に、ようやく笑顔の仮面を脱ぎ捨てて、不安気な眼差しを覗かせる。

「お前は、俺にどうして欲しい?」

 オメガの顔には期待してしまうことへの恐怖がありありと浮かんでいる。
 そんなに心配する必要は無いのだが……まぁ、今までの状況がアレすぎるから、別にオメガを責める気は無い。

 何度か口を開きかけて、また閉じて、を繰り返していたオメガが、ようやく、蚊の鳴くような声で呟いた。

「…………た……タスケテ……」

 パァンっ!!

 それを合図にこの不可解な夢の世界が砕け散る。

「任せろっ!!」

 俺は、オメガが差し出していた『コア』を受け取ると、そのまま世界樹の杖でオメガの心臓を貫いた。
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