四天王最弱の男、最強ダンジョンを創る〜俺を追放した魔王から戻ってこいと言われたけど新たなダンジョン創りが楽しいし、知らんがな〜

伊坂 枕

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39【魔王side】そのころの魔王城④

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 やばい、やばい、やばい。
 今のままだとアタシも遅からず魔王様に殺される……!

 サキュバス・クイーンのサーキュはその美しい顔を歪め、自身の親指の爪をきつく噛みしめていた。
 魔王城の管理はマドラの仕事になったけれど、あの大雑把で超短気な筋肉バカに、割と細かい作業が平気だったルシーファでさえ音を上げた業務がこなせる訳がない。

 魔王軍は基本的に弱肉強食。

(ここに来たばかりのシシオウが、突然大きな顔ができるのも、あの時、アタシとマドラが手加減してあげたからに過ぎないわ……!)

 魔王軍四天王、という同じ肩書をもっていても、彼ら四人は仲が良い訳ではない。
 むしろ、お互いがお互いを見下し、バカにしあっている節すらある。

 事実、サーキュはシシオウに対して【魅了】を使っていれば、絶対に負けなかったはず。
 彼女はそう信じて疑わない。

 しかし、カイトシェイドが居なくなり、お気に入りのジャグジーが完全に停止してしまったのは流石に誤算だった。

 サキュバスの命はその美貌。

 みずみずしく張りのあるやわらかな素肌、豊かで形のよいバスト、くびれたウェスト、ぷりんと形の良いお尻、しなやかでどんなプレイにも対応できる尻尾。それらは、文字通り彼女の最強の武器だ。

 髪が緩やかにウェーブしていて長いのも、大人っぽい顔立ちも、目元の泣きほくろも、すべては魔王の好みに合わせている。
 その全ての武器をもってして、【魅了】しておかないと、魔王様の夜の相手は務まらない。

 だが最近、魔王城の居心地が悪くなったことで、魔王様の不機嫌のボルテージが常に高い状態が続いている。

 この怒りを【魅了】でねじ伏せることができなかったサキュバスは、当然のごとくに縊り殺されることになる。
 おかげで、このところ魔王様のお相手ができるような高レベルのサキュバスがほとんどいなくなってしまった。

 あの美容効果と老化防止、魔力量回復の効果が最高峰のジャグジーが停止したせいで、自分を含め、サキュバスたちの弱体化に歯止めがかからないのには、怒りよりも焦りの気持ちの方が大きい。

(だいたい、ルシーファも悪いのよ!! 何が四天王筆頭よ! てんでダメだったじゃない! せめてアタシたちのお風呂だけでも整備してから死ねば良かったのよ!)

 やはり、あの堕天使も頭が良いふりをして本質的には馬鹿だ。
 あの魔王様がカイトシェイドのヤツをどのくらい憎んでいるのか理解できていなかったのだから。

 基本的に「弱者」のレッテルさえ貼れば、魔族達は相手を見下してくれるものだが、逆に、「実は強者である」と見せつけることさえできれば、序列は上がり、シシオウのように新参者であっても優遇を受けることが可能。

 だが、組織のトップである魔王様から直々の不興を買ってしまっている場合はその限りではない。

 それなのに『カイトシェイドは本当は有能でした』『我々は土下座してでも、彼に戻って来てもらうべきです』『魔王様が謝罪しづらいなら、私が謝ります』などと、とち狂った進言をしては、八つ裂きにされるのは当然である。

 しかも、ルシーファは本来魔王様のお気に入り。

 ストレス発散に、時々、天使だった頃の身体と記憶に戻してから犯しては、泣き叫び絶望する様を嘲笑い、その舌の根も乾かぬうちに記憶を奪って元の忠実な部下としての態度を楽しむ。

 その様は傍から見ていれば滑稽だったし、こちらの負担も減るので割とありがたい人材だったのだが……
 
 そのお気に入りが、忠実な態度でありながら、最も己の意にそぐわない発言をするようになったことも逆鱗に触れた原因だろう。

 カイトシェイドを連れ戻したいならせめて『あの男の能力だけは我々の下で使ってやってもいい』とか『魔王城の管理だけを担う奴隷以下のクズとしてコア・ルームに縛り付けてみせましょう』とか『勝手に出て行ったせいでこちらは迷惑を被っているから償わせるべきだ』と、言うべきだったのだ。

 だが……と、彼女は考える。

 理想を言えば、逃げおおせて行方不明になっているあの忌まわしいカイトシェイドは、絶対に復帰させるべきでない。

 あの男は、魔王様の目の前であらゆる屈辱を与えたうえで八つ裂きにして殺すのが最も望ましい。
 カイトシェイドを直接捕らえるのが難しければ、あの出来損ないのヴァンパイア娘を捕らえ、彼女を餌にカイトシェイドを引きずり出すのも良いだろう。

 魔王様が、何故あんなにあの男に嫉妬心のようなものを抱いているのか……詳しい理由までは知らないが、カイトシェイドを見下し、蔑んだ態度をとる事こそが、主である魔王様の望むものである、と確信している。

 そして、コアの管理は別の雑用が得意な魔族を捕らえて来て、そいつにやらせるのが一番だろう。

「誰か! 誰かいないの?」

 彼女は考えをまとめると、己の部下に指示を飛ばす。

「はい、サーキュ……さ、ま!?」

「どうしたのよ?」

「い、いえ……」

「今すぐに雑用の得意な魔族を攫って来なさい! 迷宮都市とかには、生きたダンジョンを管理している魔族が居るはずよ。多少小粒でもマドラよりは絶対にマシなはずだわ。他はどうでもいいけど、あのジャグジーだけは復帰してもらわないと……!」

「は、ハイ! 至急、手配いたします……っ!!」

「それと、逃げ出したカイトシェイドの行方はまだ分からないの? あのヴァンパイア娘でも構わないわ、早く探し出しなさい!」

「は、ハイ……そちらは、手配しているのですが……あの……えっと……」

 部下の一人が、自分の声に答えたのだが、その態度が何かソワソワとおかしい。

「何? 言ってごらんなさい」

「あ……あの、あの……」

 真っ青な顔で彼女が差し出したのは手鏡だ。

「?」

 サーキュはそこに映った顔に驚愕する。
 そこにあったのは、サキュバス・クイーンにあるまじき、ほうれい線がくっきりと表れ、くたびれた自分の顔だった。

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