四天王最弱の男、最強ダンジョンを創る〜俺を追放した魔王から戻ってこいと言われたけど新たなダンジョン創りが楽しいし、知らんがな〜

伊坂 枕

文字の大きさ
上 下
21 / 124

21 【奴隷side】執事・ベータ氏曰く

しおりを挟む

 我々の主、カイトシェイド様は底が知れない。

 ここでの私の名は『ベータ』
 奴隷になる前の名前は既にはく奪されているので、元の名前を名乗る事は出来ない。

 しかし、私も元は由緒正しい貴族家に仕える名門執事の出だ。
 元の主は、大変慈悲深く、純粋で、純朴で、他人の善意を常に信じ……そして、人の悪意に気づけない愚かな人だった。

 最後の最後まで、己の命を奪う原因になったはずの悪党の事を心配しながら息を引き取った。

 私がその悪党を毒殺したことに後悔は一切無い。
 それは、犯罪者の刻印を刻まれ、奴隷に落とされてからも変わりは無かった。

 元より、主に仕えることを優先するあまり、家族は持たなかった私だ。
 唯一の心残りは、元・主の墓にもう花を手向けられないことだろうか……我ながらつまらない人生だったものである。

 私は、完全に何もかもを諦めていた。
 そんな私を購入したい、と言い出した変人が今の主であるカイトシェイド様だ。
 私だけではない。
 他にも、病気だったり、大怪我をしていたり……同じ犯罪者だったり……

 そんな者達を一度に14人も買い入れたのである。

 正直、私には……いや、買われた者の誰もが、一体どんな目的で彼が奴隷を買い集めているのか分からなかった。
 常識で考えたら、自分達のような『不良在庫』の行く先は実験奴隷一択だ。

 それが屋敷に運び入れられるなり、かの人は「お前たちを治療しよう」と宣言したのだ。
 当然、その言葉を誰もが信じられなかったに違いない。

 だがカイトシェイド様は、その凄まじい魔法力で病魔に侵された者達の治癒のみならず、欠損した肉体の再生までやってのけたのだ!!

 それも、一気に14人を、である。

 まるで中央神殿の大神官様や聖女様のような凄まじい『回復魔法』である。

 しかも、そんな神の御使いの如き聖人が「私にはお前たちが必要だ」と慈愛の眼差しで仰っていただけたのだ。

 私は、カイトシェイド様の中に、慈悲深く素朴で純粋で……そして、人の悪意を知らない無垢な魂を見た。
 まるで以前の主が生まれ変わって、私を迎えに来てくれたかのように。
 
 そうだ! 前の主が、私をカイトシェイド様の元へと導いてくださったのだ!
 そうとしか考えられない。

『私の代わりに、世間知らずな彼に誠心誠意、仕えてあげておくれ、セバスチャン……』

 亡くなった前の主の声が聞こえたような気がして、年甲斐も無く目頭が熱くなった。
 だが、私の忠誠心をあっさりと掌握してしまったカイトシェイド様の器は、そんなものではなかったのだ。 

 カイトシェイド様は「この辺りの出身ではない」と仰っていたので、少し事情を尋ねたところ……実に気さくに話してくださった。

 「あー……そうだな、俺とネーヴェリクは、とある王国で王に仕えていたんだが、現王より『無能』の烙印を押されてな? そのまま国内に留まるには命の危険があったから、その国から逃げ出して来たんだ」

 ……とのこと。

「でも、本当は違うんじゃない?」「そうよね、あんなスゴイ『回復魔法』を行使できる方が無能?」「うちのご主人様が『無能』なら『有能な人間』なんてこの世に誰一人いないよ」「本当は王子様だったりして……だって、気品があるわよ?」「第一王子では無いのに有能すぎるから、お家騒動を避けたってことか?」「……まさか……だって、王子様が荷馬車を自ら牽く?」

 共に購入してもらった仲間達も、カイトシェイド様の話は単に完全に本当のことは話せないだけ、と感じたようだ。

 確かに、カイトシェイド様やネーヴェリク様は、その物腰や姿勢、食事の際の食器の扱いなどを見るに明らかに上流階級のお生まれであることに間違いは無い。

 それに、日常的に温かいお湯を豊富に使う入浴を好むところも、金銭に対する執着の弱さも、そういったものに対して苦労をしたことが無い人間特有の思考回路だ。

 その反面、我々奴隷と全く同じ食事を共に取り、労働者に交じって労働し、荷馬車を牽くことすら厭わないのは、少々……私の理解の範疇を超えている。
 そのうえ、私のような元犯罪者の言葉を素直に聞き入れていただけている。
 これは決して主を悪く言うわけではない。

 こんなに器の大きい人間が『タダの貴族』である、というのがにわかに信じがたいだけなのだ。
 
 さらには、先日、私の目の前で庭に畑を一瞬で創り上げてしまったのだ!!
 その様は、まるで大古の超魔法文明で失われた『創造魔法』を目の当たりにしているようだった。
 私の目や頭がおかしくなったのかと、何度、瞳を擦ったことか!

 恐らく、「元の国内に留まると命の危険がある」という部分は本当なのだろう。
 
 であれば、私にできることは一つだ。
 誠心誠意お仕えし、かの方へ危険が及びそうになったら、早急にお知らせし、対策を練ること。
 その為にも情報の収集は必須だ。

 幸い、カイトシェイド様より養蚕に関する全ての権限は私に委譲されているし、男性奴隷の半数は経験があるようだった。
 僅かとはいえ、シルーク売買のネットワークはカイトシェイド様のお役に立てるはず!

 カイトシェイド様はこの私に対し、ハポネスの情報や常識といった知識面の補佐を望んでいるのは明らかだ。

 私は、そのやりがいのある仕事に、喜びを噛みしめた。
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...