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「君には、私の食事になってもらいたい。と言っても、もちろん君を直接食べたいと言う事ではなく、君の体液を提供してもらいたいんだ」
「体液、ですか? 例えばその、輸血みたいな事ですか?」
「ああ、だが血液の提供は大変だろう。それに、私も人の血肉を口にするは抵抗がある」
旦那様は淡々と、しかし、ほんの僅かだけ顔を歪めてそう語った。
「そう、なんですね。では、具体的に僕はどうしたら良いのでしょうか?」
僕が質問すると、眞宮さんが小さな空の小瓶を三つほど持って僕の前に置いた。何のための物かと問うと、涙 汗 唾液を集めて欲しいと真面目な顔でお願いされて、僕は少しだけ怪訝な顔をしてしまう。
「清香様は現在、普段の食事も年々酷くなる味覚障害の影響で殆ど喉を通らない状況が続いております。このまま飢餓に近い状態が続くと肉体的にも精神的にも悪影響ですので、ケーキの体液で味のある食事をして頂きたいのです」
「体液で⋯⋯味のある食事、ですか」
「すまないが、協力しては貰えないだろうか? もし了承して貰えるようなら、君には私の身の回りの事をしてもらいたい。もちろん、報酬は弾ませる」
ほんの少しだけ切なげに眉根を寄せて頭を下げた旦那様に、慌てて「やります」と返事して頭を上げてもらった。
「でも、本当に僕なんかの、た、体液なんか旦那様のお口に入れて大丈夫なんでしょうか?」
純粋に、気持ち悪くないのだろうか? 汗や唾液なんて不衛生に思わないのだろうか? それも、恋人でも無いただの使用人の物だ。
チラリと旦那様を盗み見れば、口元に手を当て沈黙している。
「先ずは今、佐藤さんが口を付けられたカップで紅茶をお飲みになってみてはどうでしょう? 美味しくお飲み頂ければ佐藤さんも納得されるのでは?」
眞宮さんが僕の目の前にある紅茶を掌で差してにっこりと笑った。
「貰っても構わないか?」
ソファに深く腰掛けていた旦那様がゆっくりと僕のカップに視線を投げる。
慌てて立ち上がり、少々戸惑いながらも自分のカップを旦那様まで運んで差し出した。
眉間のシワを深くした旦那様の喉が微かに鳴ったと思ったら、僕とは反対を向いてボソッとお礼の言葉が聞こえて来た。
僕が口を付けた場所から一口飲んだのを確認すると、学生時代は友人と回し飲みくらい気にせずしていたはずなのに、なぜだか言い表せない羞恥を感じて鼓動が早くなる。
「⋯⋯美味いな」
翡翠色の瞳をうっとりと細めた美しい笑顔で吐き出されたその言葉は、心の底から出たように聞こえた。
「体液、ですか? 例えばその、輸血みたいな事ですか?」
「ああ、だが血液の提供は大変だろう。それに、私も人の血肉を口にするは抵抗がある」
旦那様は淡々と、しかし、ほんの僅かだけ顔を歪めてそう語った。
「そう、なんですね。では、具体的に僕はどうしたら良いのでしょうか?」
僕が質問すると、眞宮さんが小さな空の小瓶を三つほど持って僕の前に置いた。何のための物かと問うと、涙 汗 唾液を集めて欲しいと真面目な顔でお願いされて、僕は少しだけ怪訝な顔をしてしまう。
「清香様は現在、普段の食事も年々酷くなる味覚障害の影響で殆ど喉を通らない状況が続いております。このまま飢餓に近い状態が続くと肉体的にも精神的にも悪影響ですので、ケーキの体液で味のある食事をして頂きたいのです」
「体液で⋯⋯味のある食事、ですか」
「すまないが、協力しては貰えないだろうか? もし了承して貰えるようなら、君には私の身の回りの事をしてもらいたい。もちろん、報酬は弾ませる」
ほんの少しだけ切なげに眉根を寄せて頭を下げた旦那様に、慌てて「やります」と返事して頭を上げてもらった。
「でも、本当に僕なんかの、た、体液なんか旦那様のお口に入れて大丈夫なんでしょうか?」
純粋に、気持ち悪くないのだろうか? 汗や唾液なんて不衛生に思わないのだろうか? それも、恋人でも無いただの使用人の物だ。
チラリと旦那様を盗み見れば、口元に手を当て沈黙している。
「先ずは今、佐藤さんが口を付けられたカップで紅茶をお飲みになってみてはどうでしょう? 美味しくお飲み頂ければ佐藤さんも納得されるのでは?」
眞宮さんが僕の目の前にある紅茶を掌で差してにっこりと笑った。
「貰っても構わないか?」
ソファに深く腰掛けていた旦那様がゆっくりと僕のカップに視線を投げる。
慌てて立ち上がり、少々戸惑いながらも自分のカップを旦那様まで運んで差し出した。
眉間のシワを深くした旦那様の喉が微かに鳴ったと思ったら、僕とは反対を向いてボソッとお礼の言葉が聞こえて来た。
僕が口を付けた場所から一口飲んだのを確認すると、学生時代は友人と回し飲みくらい気にせずしていたはずなのに、なぜだか言い表せない羞恥を感じて鼓動が早くなる。
「⋯⋯美味いな」
翡翠色の瞳をうっとりと細めた美しい笑顔で吐き出されたその言葉は、心の底から出たように聞こえた。
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