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本編

守りたい①

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 鬱々としながらスマホを取り出すと、画面には小柴の名前が表示されている。
 自分の置かれた状況からして電話に出るのは少しだけ躊躇われたが 通話ボタンをスライドして耳に当てた。 


「あ! 不破さんお疲れ様です!  小柴っす!」

 
 底抜けに明るい声がガチガチに固まった心をやんわりと解してくれる。
 

「お疲れ様 今日外回りだっけ?」
 
「うっす! これから 会社の下にある定食屋行こうと思ってるんっすけど不破さんもどうっすか?」
 
「そう。……ササっと食べて戻って来た方がいいんじゃない?」
 
「え~? 不破さんも一緒に行きましょーよ」
 
「俺はいいよ そんなにお腹すいてないから」
 
「……最近なんか元気ないっすけど 関係あります?」


 
 そうだった。コレ・・のせいで忘れかけていたが 小柴には悩ましい姿を見られていたんだった。
 

「あー……いや、うん。大丈夫」

 
 何と言えば良いのか、どこまで言って良いのか……あまりにも、自分で理解が出来てない

 
「大丈夫そーじゃないんっすよその声。また、なんかあったんすか? やっぱあんとき警察呼んどいた方が良かったっすか?!」

 
 先日の曖昧な記憶が脳裏に浮かんで言葉を返すことが出来ないでいると 不審げな声の小柴が何か言っている。
 早く返事をしなきゃと思えば思うほど、頭の中が真っ白に変わっていく。
 

「ぁ……と、今ちょっとまだ、休憩出れないから……悪い」
 
「あ! 俺また……! 仕事中にこんな話題出されても言えないっすよね。マジすみません! でもあの、せっかく仲良くなったのに 避けられるのはキツいっす」


 シッポを丸めて項垂うなだれる大きなわんこを彷彿とさせる声色にも、何となく図星を突かれた事にも罪悪感を覚えしまう。


「避けてる訳じゃないんだけど……その、何と言えば良いのか俺も分からないんだ。本当に……わからなくて……」


 これは嘘ではない。あの夢の内容も、陰部に取り付けられた謎の物も、全部、何と言って相談すれば良いのか全く分からない。それどころが、相談なんかしたら徳仁のする事が悪化するんじゃないかとか、動画も画像も何もかも流出されて死ぬより辛い状況が待ってるんじゃないか……なんてそんな事を考えてしまうと、もう八方塞がりだ。


「不破さん、俺……守りたいっす」

「……え?」

「最近ちょっとだけ、笑顔になってくれる事増えたじゃないっすか。俺、その笑顔守りたいっす」


 小柴はいったい、何を言ってるんだろう?

 何が言いたいんだろう?

 俺なんかの笑顔、なんの価値もないのに。さっさとこんな面倒な奴のことなんか見切りをつけて放っておけばいいのに。俺なんかと一緒に居たって……徳仁の悪事気持ち悪いことに巻き込まれるかも知れないのに。


「だから、とりあえず 何も言わなくていいんで 一緒に飯食いましょ!!」

 
 本当に、不思議な奴だ。

 でも、不思議と嫌じゃない。


「……今やってるやつ落ち着いて時間あったら、行くよ」

「把握っす! あと30分くらいで着くんで その頃またメッセするっす!」


 最後はいつも通り元気な声で、また後でと電話が切られた。

 
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