【完結】好きだと言えなかった唯一の男

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好きだと言えなかった唯一の男

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 ある金曜日、彼と仕事終わりに飲みに行くことになった。退勤したのがそもそも21時と遅く、それから居酒屋を見付けて飲んでいたら、知らぬ間に日を跨いでいた。

「あ、終電ない」

 彼の笑いながら言った言葉に動揺した。しかし誘い文句とも疑えるこの発言に多少なりとも期待はした。

 居酒屋を出て、その後の話になった。お互い実家暮らしの為、家には行けそうにない。私は、男女関係になりにくそうな場所としてカラオケを提案したが、「俺歌上手くないし」と却下されてしまった。ともすれば、25時を迎えた頃に男女が行くところなど一つしかないではないか。

 それにも関わらず、彼は「どうしようか」と、らしくなく優柔不断だった。ひとまず公園のベンチに腰を下ろしたが、結局彼はホテルに誘うのに、夜を明かす予定のない公園で一時間以上も躊躇していた。それを後押ししたのは他でもない私自身だった。

 元彼と別れて半年、私もご無沙汰だったこともあり、「この時間に男女が行くところなんてあそこしか思い当たらないんですけど」と笑って、彼が誘いやすい空気に持って行ったのだ。

 それでも躊躇う彼は「ホテル行ってそうならないと言える自信がない」と頭を抱えながら正直に言った。ホテルに誘いたいくせに、交わる気がないとは変わった男だ。「絶対俺のこと変な人だと思ってるでしょ」と、口を開けば言う彼が何だか可笑しい。

 この際に、と酒の残っているのをいいことに、私は彼が自分のことをどう思っているのかを尋ねてみた。少し気があるだとか、女として可愛いと思っているだとか、そんなようなことを言ってくれれば良かった。

 しかし彼は、生真面目に彼女の話をし出した。いずれ結婚を考えていること、最近は忙しくあまり会えていないがだからと言って別れる気はないこと、その他諸々そんな類の話を彼は延々と語っていたが私の耳には何も届いていなかった。聞くんじゃなかったし興醒めもいいとこだ。

 そのくせ彼は、こんな仕事の悩みは私にしか言えないだとか私がいない日は基本俺残業しないから、だとか思わせぶりなことを言ってくる。

 じゃあ私って何?だから私のことをどう思ってるのかって聞いてるのに。所謂可愛い後輩ってやつ?彼女がいなかったら私と付き合ってたとかお世辞でいいから言ってくれればいいのに、良くも悪くも私に真面目だから困る。結局私をどうしたいのよ。今だけは私を雑に扱ってくれていいのに。

 私は諦め、そして語り始めた。今までの男関係、その男たちは自分を女としてしか見ていなかったこと、自分もそうだったこと、しかし彼は違うこと、彼は自分を人として大事にしてくれていて、友達のようで…友達のような信頼関係が築けそうだということを。

「私、信じてますから。お互い気がないんだから、大丈夫ですよ」

 彼に優しく笑いかけた。嘘と愛想笑いだけは年々上手くなっているようだ。どうせ男などホテルに入ってしまえば、心のどこかで期待と軽蔑をしていた。

 私の言葉に自信を持ち直した彼と共に、ホテルに向かった。いざホテルに入れば、その官能的な雰囲気が二人の理性を鈍らせた。
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