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29【完】
しおりを挟む周囲の兵士達が、安堵の息をついたり苦笑したりしながらマーガレットを見た。
「マーガレット姫、毎度毎度びっくりさせねぇでください」
「こっちの心臓がもちませんや」
「メンタルを鍛える良い訓練だと思ってちょうだい」
言えば、彼らは「やれやれ」と言って笑う。
マーガレットがいるということもあって、城の者は魔法使いに好意的な者が比較的多かった。
もっとも、これはマーガレットが幼少期から魔法でやんちゃを繰り返してきたせいで必然的に慣れてしまった――と考えるほうが自然なのだろうが。
呆れて肩を竦めるシャールに、マーガレットは尋ねる。
「で、今日はどうしたの? 休み?」
「見回りを交代したから、王様に報告をな」
「なにかあった?」
「大したことじゃねーんだが、山の動物達がちっとばかし騒がしくてな。なにかあったのかもしれねぇから、山のほうを見にいきたいんだ。んで、その許可ももらいに」
「山かー……いいわね」
「ついてくんなよ」
「……わかってるわよ」
「ほんとかよ」
「わかってる、わかってる」
「軽いな、おい。もしなんかあったら魔法で報告しなきゃなんねーかもしれっから、そういうときのためにもお前は城にいてくれねぇと困るんだからな」
「はいはい」
「ほんとにわかってんのか、お前」
言葉を交わしながら、ふたりは王様のもとへと歩み出す。
少し歩いて、マーガレットはシャールの顔を覗き込んだ。
「……なんだよ」
「ここでの暮らしはどう?」
訊けば、彼は少し驚いたふうに目を丸くしてから、思案するように僅かな間を挟んで答える。
「……まぁ、悪くねーよ。国の外側を見回りしてることが多いから環境が極端に変わったわけじゃねーし、でも、たまにこうやって街に入るから人間の暮らしに適度に組み込まれてるっていう実感もあるしな」
シャールは小さく笑った。
「ずーっと森にひとりで暮らしてたから、いい具合にリハビリになってるって感じだわ。それに、マジで周囲との繋がりがない暮らしだったから、俺ひとりだったら人里に入るタイミングが掴めねぇまま、死ぬまで森で暮らしてたんじゃねーかなぁ」
「そう。あんたのためになってるなら、それでいいわ。もし不便なところがあったりしたら、気軽に教えてちょうだいね」
「おう、さんきゅ」
そうして、ふたりは廊下の途中で別れる。
通路を歩きながら、マーガレットは考えた。
ギャレオスに理不尽な婚約破棄を告げられたことがシャールと出会ったきっかけなのだと思うと、不思議な縁である。
そして彼に出会ったからこそギャレオスの悪事も暴けたのだから、人生は本当になにが引き金になるかわからない。
廊下ですれ違うメイド達に挨拶をしながら、マーガレットは執務室に向かった。以前は遊んでばかりのマーガレットではあったが、国に帰ってきて以降は自発的に仕事をするようにしていた。
そう、すべては人間と魔法使いが支え合って暮らす社会のためである。
マーガレットの心境の大きな変化に驚く者も城には少なくないが、それでも遊び惚けているよりはマシだろうということで、前向きに受け取ってもらっていた。
まだまだ慣れぬことも多く、きっと前途は多難だろう。
だとしても、シャールのような思いをする魔法使いをひとりでも減らしたいと、マーガレットは心から思うのである。
執務室に入り、扉を閉めて、衣服の袖をめくり上げた。
「よっし、やるわよ」
言って椅子に座り、机に積まれている書類の山に目を通していく。
背後には大きな窓があり、そこからは健やかな陽光が入ってきていた。
耳に心地好い小鳥の泣き声が聞こえる。
マーガレットの第二の人生が、いま始まろうとしていた――。
了
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多少、いや、かなり脳筋気味だけど・・・真っ直ぐで元気な女の子は好きです(笑)
あの主人公だと、作品のジャンル、「恋愛よりファンタジーじゃね?」と思うのは私だけじゃない気が。。。(笑)