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 おそるおそる、乃亜は首を縦に振った。

「私を好きにして、それでヴィクトールさんが楽になるなら……」

 乃亜から目を逸らしたヴィクトールは躊躇する素振りを見せ、また視線を乃亜に戻す。

 彼は真摯な語調で告げた。

「……単刀直入に言おう。今ここで儂から離れねば、儂はお前を――抱くぞ」

 抱く、という言葉が、戸惑うほど生々しく聞こえた。

 それは、ヴィクトールのように年齢を重ねた男性がくちにするからこそ、孕む生々しさなのかもしれない。

 そうして、それは今までの乃亜とは縁のない言葉でもあった。

 緊張を抑え込んで、乃亜は返答する。

「……かまいません。その……私、初めてだから……ちゃんと出来るか、わからないですけど……」

 乃亜を見つめていたヴィクトールが瞼を閉じて、なにかしらを思案する面持ちを見せた。

 なにかを決意しているふうな――深く考えているような、そんな表情だ。

 迷惑な主張だったのだろうか。

 そんな思いが、不安と共に乃亜の胸中に浮上する。

 自分のような経験もない小娘がくちにするには、過ぎた内容だったのか。

 すると、出し抜けにヴィクトールに抱き寄せられて、そのままベッドへと押し倒された。

 覆いかぶさってくる彼の瞳はぎらぎらとしたエネルギーを宿しており、乃亜を求めているのが明らかである。

 それでも、乃亜を傷付けないためだろうか、ヴィクトールは己を抑制する面差しで、困ったふうに微笑んだ。

「まったく、お前は……」

 彼の手が、優しく乃亜の頬を撫でる。

「後悔しても……知らんぞ」
「……しません」

 小さく声に出して、ふっとヴィクトールは笑う。

 呼吸は依然として乱れ、汗もにじんでいるからか。相手のその表情は、妙に艶めかしく見えた。

 彼の顔が迫り、再び口付けられる。

 それは荒々しさを宿しながらも、懸命に自身を抑え込んでいる所作に感じられた。

 離れた唇が、角度を変えてまた重なる。何度も何度も、そんなキスが続いた。

 唇に触れる柔らかさがヴィクトールの唇の柔らかさなのだと考えると、無性に恥ずかしくなってくる。

 それでも、自分の体が熱を帯びていくのが、嫌でもわかった。

 ――いや、感じる羞恥心さえも、己の体を高める材料となっているのかもしれない。

 誰かとこんなふうにキスを繰り返している自分が、信じられない。

 すると、不意に濡れたなにかが唇を割って入ってきた。

 驚きに身構えたものの、すぐにそれがヴィクトールの舌だということに気付く。

 現状を理解すると、さらに体温が上がって耳が熱くなった。

 誰かの舌が入ってくるという、初めての感覚。

 熱く濡れたものが己の舌に絡みつき、緊張に強張る乃亜の舌をくすぐるように、優しく愛撫した。

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