10 / 67
10
しおりを挟むおそるおそる、乃亜は首を縦に振った。
「私を好きにして、それでヴィクトールさんが楽になるなら……」
乃亜から目を逸らしたヴィクトールは躊躇する素振りを見せ、また視線を乃亜に戻す。
彼は真摯な語調で告げた。
「……単刀直入に言おう。今ここで儂から離れねば、儂はお前を――抱くぞ」
抱く、という言葉が、戸惑うほど生々しく聞こえた。
それは、ヴィクトールのように年齢を重ねた男性がくちにするからこそ、孕む生々しさなのかもしれない。
そうして、それは今までの乃亜とは縁のない言葉でもあった。
緊張を抑え込んで、乃亜は返答する。
「……かまいません。その……私、初めてだから……ちゃんと出来るか、わからないですけど……」
乃亜を見つめていたヴィクトールが瞼を閉じて、なにかしらを思案する面持ちを見せた。
なにかを決意しているふうな――深く考えているような、そんな表情だ。
迷惑な主張だったのだろうか。
そんな思いが、不安と共に乃亜の胸中に浮上する。
自分のような経験もない小娘がくちにするには、過ぎた内容だったのか。
すると、出し抜けにヴィクトールに抱き寄せられて、そのままベッドへと押し倒された。
覆いかぶさってくる彼の瞳はぎらぎらとしたエネルギーを宿しており、乃亜を求めているのが明らかである。
それでも、乃亜を傷付けないためだろうか、ヴィクトールは己を抑制する面差しで、困ったふうに微笑んだ。
「まったく、お前は……」
彼の手が、優しく乃亜の頬を撫でる。
「後悔しても……知らんぞ」
「……しません」
小さく声に出して、ふっとヴィクトールは笑う。
呼吸は依然として乱れ、汗もにじんでいるからか。相手のその表情は、妙に艶めかしく見えた。
彼の顔が迫り、再び口付けられる。
それは荒々しさを宿しながらも、懸命に自身を抑え込んでいる所作に感じられた。
離れた唇が、角度を変えてまた重なる。何度も何度も、そんなキスが続いた。
唇に触れる柔らかさがヴィクトールの唇の柔らかさなのだと考えると、無性に恥ずかしくなってくる。
それでも、自分の体が熱を帯びていくのが、嫌でもわかった。
――いや、感じる羞恥心さえも、己の体を高める材料となっているのかもしれない。
誰かとこんなふうにキスを繰り返している自分が、信じられない。
すると、不意に濡れたなにかが唇を割って入ってきた。
驚きに身構えたものの、すぐにそれがヴィクトールの舌だということに気付く。
現状を理解すると、さらに体温が上がって耳が熱くなった。
誰かの舌が入ってくるという、初めての感覚。
熱く濡れたものが己の舌に絡みつき、緊張に強張る乃亜の舌をくすぐるように、優しく愛撫した。
3
お気に入りに追加
2,807
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
若妻シリーズ
笹椰かな
恋愛
とある事情により中年男性・飛龍(ひりゅう)の妻となった18歳の愛実(めぐみ)。
気の進まない結婚だったが、優しく接してくれる夫に愛実の気持ちは傾いていく。これはそんな二人の夜(または昼)の営みの話。
乳首責め/クリ責め/潮吹き
※表紙の作成/かんたん表紙メーカー様
※使用画像/SplitShire様
【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。
——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない)
※完結直後のものです。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる