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「なにかを成し遂げるためには、犠牲が付き物です。恨むのならば、己の不運と私とを恨んでください」

 ザルフィナの手中の魔力が濃密になり、さらに巨大になる。
 強力な魔力が、室内に風を巻き起こした。

 強風が部屋の中で渦を巻き、家具を倒して、様々な破片を舞い散らせる。
 そんな中で、ラックはミサの名を叫んだ。もはや、彼女の名を叫ぶことしか出来なかった。

「ミサ!」

 今のラックの実力では、ザルフィナを止めることが叶わない。
 己の無力さが、こんなにも悔しい瞬間があっただろうか。ラックは唇を噛みしめる。

 ザルフィナが手中の魔力をミサにぶつけようとした――まさにその瞬間だった。

 突然、強烈な光がミサから発せられる。
 それが非常に強力な魔力であることは、ラックもすぐにわかった。
 室内が、鮮烈な光に白く染め上げられる。

「なっ……」

 ザルフィナが、驚愕に声を震わせた。
 ミサから発せられた光はザルフィナの魔力と正面からぶつかって、爆発を引き起こす。

 雷鳴のごとくすさまじい轟音と同時に、猛烈な風が吹き荒れた。
 強力な魔力と魔力がぶつかったことによって生まれた衝撃が、ザルフィナの魔術の檻と部屋の天井を吹き飛ばす。

 突風と砂埃が、視野を覆った。あまりにも強い魔力は、肌をピリピリと痺れさせる。

 いったいなにが起こったのか、ラックにはまったくわからなかった。
 室内を覆う砂塵が、風で徐々に薄まっていく。

 明瞭になっていく視野の先にあるものを、ラックは信じられない気持ちで見た。

 そこにいたのは――ザルフィナの攻撃を受けたにもかかわらず、きょとんとした面持ちで座り込んでいる――無傷のミサであった。



 なにが起こったのか、ミサにはまるでわからなかった。
 わかったことといえば、鮮烈な光と共にすさまじい衝撃があったことくらいだろうか。

 その衝撃で、部屋は荒れ果てている。まるで、爆弾でも落とされたかのようだ。

 そんな中で、ミサは唖然として自らの両手を見下ろした。
 無傷である。まったくの無事である。

 これがおかしいことは、さすがにミサにもわかった。
 何故なら、ミサはこの世界でも指折りの魔術師であるザルフィナの攻撃を受けたはずなのだから。

 ミサにも一応は魔力が備わっているらしいが、それでも魔法のひとつも使えない普通の人間である事実に変わりはない。

 身を守る魔法も、当然しらない。
 故に、あの衝撃を経てミサが無傷なのは、どう考えてもおかしいのである。

 部屋の隅まで吹き飛ばされたらしいザルフィナが、苦しげに上体を起こした。

「な、なんだ……いったい、なにが……」

 当のザルフィナにも、状況がわからないらしい。


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