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 そんな光景を、ミサは唖然として眺める。まるで、映画かゲームのワンシーンのようであった。

「ふむ、やっぱりザルフィナくんが召喚した龍だけあって、簡単には倒されてくれないか」
「互角ってこと……ですか?」

「まぁ、そうだねぇ」
「でも、それじゃあお互いの魔力を消費するだけなんじゃ――」

 そのときだった。
 出し抜けにメルウィンが杖を振るい、龍に向かって光弾を発射する。

 龍は尾で容易く光弾を弾いたが、その敵意が狼のみならず、こちらにも注がれたのがわかった。
 当然、ミサは焦る。

「いや、ちょっ……なにしてるんですか!」
「ちょっかい出してる」
「それは見ればわかります! そういうことじゃなくて!」

 双眸を光らせて吠えた龍が、案の定ミサとメルウィンに向かってきた。

「ほら、こっちに来たじゃないですかー!」
「あっはっは、来たねぇ」

 龍は自らの体を激しく放電させ、その身から発せられた無数の稲妻がふたりを容赦なく襲う。

 メルウィンはミサを抱いたまま、それらを器用に避けて飛行した。
 のみならず、彼は呑気な笑顔もそのままに龍をからかう。

「やーい、へたくそ~」
「なんで煽るんですか!」
「事実を教えてあげてるだけだよ。優しささぁ」

 メルウィンの揶揄が伝わったわけでもないのだろうが、龍は猛スピードでふたりに突進してきた。

 しかし、メルウィンは前方に結界を張って、敵の攻撃を防ぐ。
 頭から結界に勢いよくぶつかった龍が、苛立たしげに唸った。

 そのとき、なにかが上空から龍を襲う。
 見れば、それはメルウィンが召喚した狼であった。

 狼は敵の隙をついて炎の弾丸を浴びせ、そして龍がひるむとそのまま相手の背中にのしかかる。

 龍は暴れて狼を振り落とそうとしたが、狼は敵の背に爪でも立てているのか、落とされることはなかった。

 それどころか、狼は牙を剥いて龍の背に噛みつく。
 敵の苦痛にまみれた悲鳴が、空に響き渡った。

「ほらほら、君の相手はそいつだけじゃないぞぉ」

 どこか楽しげにすら言ったメルウィンが杖を空に掲げると、とつじょ強風が巻き起こる。

 その風は渦を巻きながら天に昇り、垂れこめていた黒雲を吹き飛ばした。
 雲がなくなったことによって青空が顔を出し、太陽の光が地上に注がれる。

 すると、龍の動きが明らかに鈍くなったのがミサにもわかった。もしや、暗雲が空を覆っている状況でないと本領を発揮できない性質なのだろうか。

「さぁ、とどめだ。やっちゃいなさい、わんちゃん!」

 メルウィンが叫ぶ。わんちゃんとは、あの狼の召喚獣を言っているのか。


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