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しおりを挟む――室内に、沈黙が訪れた。
しばしの思案の末、ミサはメルウィンの両耳を左右に引っぱる。
「ミサちゃん、痛いよぉ」
「すみません、聞き違いかと思って」
「それで自分の耳じゃなく僕の耳を引っぱる理屈がわからないけれど……まぁ、今回は許してあげよう」
「……もう一度、わかりやすく言ってもらえますか?」
ミサの問いに、メルウィンは「いいとも。何度だって説明しよう」と胸を張って続ける。
「つまり、今からミサちゃんは裸になって僕と丸一日ベッドの中で密着して過ごすのさ。いやぁ、楽しみだなぁ」
先程以上のチカラで、ミサは相手の両耳を引っぱった。
「ミサちゃん、そろそろ僕の耳たぶが伸びちゃうよぉ」
「アクセサリーがたくさん付けられて、便利なんじゃないですか?」
「なるほど、その発想はなかった」
あっはっは、とメルウィンは笑う。
ミサはおそるおそる尋ねた。
「……さすがに冗談ですよね?」
「驚くことに、これが本当なんだな」
「か、からかってるわけじゃないんですか……?」
徐々に顔が熱くなってくるのを感じながら、ミサは念を押す。
可能ならば、冗談だと言ってほしかった。いつもの調子で「ごめんごめん、ちょっとからかいすぎちゃったね」と言ってほしかった。
しかし、メルウィンの表情からはそんな色は感じられない。
「いや、本当なんだよ。僕がこんなんだから、なかなか信じてもらえないのも無理はないんだけど」
「自覚はあったんですね……」
「しみじみ言われると心にくるなぁ」
いよいよミサは困り果てる。いったい、どうしろというのか。
ラックを一刻も早く助けたい気持ちはある。少しでもメルウィンの役に立ちたい気持ちも嘘ではない。
しかし、彼から提示された条件は、あまりにもミサを悩ませた。これならば、痛みを伴う手段のほうがまた頷きやすいというものである。
自然と目が泳いでしまうミサの顔を、メルウィンが覗き込んだ。
「あ、赤くなってる。可愛い~っふぎゃん!」
ミサが反射的に頭突きをすれば、メルウィンは満員電車に押し込められた猫のごとき声を出す。
それを無視して、ミサは質問した。
「ほ、他に方法はないんですか?」
「んー……丸一日じゃなくて、数時間で済む方法もないことはないけど」
「なんだ、あるんじゃないですか。じゃあ、そっちにしましょう。どうすればいいんですか?」
「僕とエッチすることになるけど、ほんとにいいの?」
「すみません、なんて?」
「粘膜から直に魔力をもらうことになるから、僕とエッチすることになるけど……って言った」
先程よりも長い沈黙が、ふたりを包み込む。
ミサは無言で、メルウィンと見つめ合った。
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