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しおりを挟む「……なんか、ますますマフィアにしか見えなくなってきました」
「お前が翼を消せと言ったんだろう」
「そうなんですけど」
佐緒里は深いため息を吐いた。天使と意思の疎通を図ることは、簡単ではないらしい。
「……で、どうする。死ぬか?」
「いや、聞き方」
「なにも恐れることはない。一瞬で終わる」
「完全にターゲットを始末する前の発言ですけど」
「恨むなら、自分の運命を恨むといい」
「やめてくださいやめてください、私まだ死にたくありません」
このままだと本当に殺されかねない――という危機感が、佐緒里を襲った。
まだ死ぬわけにはいかない。というか、死にたくない。
佐緒里は唸り、拳を握って、絞り出すふうに声を出した。
「……まだ、死にたくもないですし、植物状態にもなりたくありません……」
「そうか。まぁ、命を大切にするのはいいことだ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……死ぬか?」
「天使が軽率に人間を殺そうとしないでください。死にたくありません」
「魂は?」
「取られたくないです!」
「では、選択肢はもはやひとつしかないが」
「ぐっ……」
歯を食いしばってから、佐緒里は覚悟を決める。本当は嫌で嫌で仕方がないけれど、他に選択肢がないのだから、どうしようもなかった。
「……かまいません……。死んだり、魂を抜かれるよりマシです……っ」
「死にそうな顔をしているが、大丈夫か?」
「大丈夫か大丈夫じゃないかを問われるなら、ぜんぜん大丈夫じゃないですけど……背に腹は変えられません……」
「そうか。まぁ、そんなこともある。元気を出せ」
「いや、あなたのせいですけど」
そう反論する佐緒里を、フリューゲルがなんの前触れもなく、とつぜん横抱きでかかえた。あまりにも軽々しく抱き上げたため、佐緒里は驚きで言葉を失う。
彼は、まるで物でも運ぶような気軽さで佐緒里をベッドまで運んだ。
シーツにおろされた瞬間、佐緒里は逃げ出したい気分に襲われる。本当に抱かれてしまうのだと、混乱と羞恥が頭の中をいっぱいにした。
のしかかってくるフリューゲルに向かって、佐緒里は叫ぶ。
「まっ、ままま待ってください!」
「どうした? やはり死ぬか?」
「だから軽率に殺そうとしないでください! そうじゃなくて、あの……っ」
なんだか相手の顔が見られなくて、佐緒里はベッドにうつ伏せになった。
「そ、その……」
「出会ったばかりの男とこういったことをするのに抵抗があるのはわかる。だが、仕方のないことだ。諦めてくれ」
「抵抗感も、なくはないんですけど……それだけじゃなくて、その……」
胸を満たす感情を、うまく言葉にすることが出来ない。それでも、顔が急激に熱くなっていくことだけはわかった。
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