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しおりを挟む結局のところ、実際にやってみないとどうなるかはわからなかった――というのが、ナツネの本音なのだろう。
こればかりは、無理もないと思う。情報の少ない未経験の大魔術を成功させるだけでも相当だというのに、その上、召喚したあとの仔細まで予測しろというのは流石に酷だった。
ナツネの説明を聞いたノアが、驚愕に目を丸くする。
「そ、そんなに……?」
「おうよ。ま、そんくらいハイレベルな魔術だったってことだな。俺くらいの魔術師じゃなきゃ到底成功しない大魔術よ。記録や成功例が少ないのも頷けるってもんだぜ」
彼は腕を組み、己の才能に酔っているふうな面持ちで返した。ナツネの魔術師としての能力が高いのは事実だが、調子に乗りやすい性質なのもまた事実である。
ヴィクトールはそんな相手へ、冷淡に尋ねた。
「つまり、ノアがこちらの世界にやってきたそもそもの原因は貴様だったということだな。そんな大層な魔術に手を出したんだ。当然、彼女をもとの世界に帰すことも可能であろうな?」
腕を組んだまま、ナツネは沈黙する、まるで、時の流れが彼の周辺だけ止まってしまったかのようだった。
「……おい」
「あー……いや……その……」
「ナツネさん……?」
ノアが不思議そうに相手へ尋ねても、ナツネはハッキリとした態度を示さない。
ヴィクトールは自らの眉間にしわを刻んで、彼を睨みつけた。
「……まさか、帰せないなどと言うつもりでは――」
「いやいや! 帰そうと思えば、たぶん帰せる! 召喚の術式もわかってるし、今すぐは無理でも魔術を解析すれば、きっと帰還の魔術を新しく組むことも可能だ。……だが……」
「……だが――なんだ」
「いや……その……」
「どうした。はっきりしろ」
ナツネが珍しく余裕のない表情で、くちを噤む。ヴィクトールは、なんとなく嫌な予感がした。
彼は幾度か迷う素振りで唇を薄く開閉し、そうして言葉を探すふうに視線をさまよわせてから、おずおずと言葉を発する。
「……この魔術、そもそも重要な【大前提】があったんだ」
「……大前提……?」
ノアが不安げにナツネの言を繰り返した。ああ、と彼は首肯して続ける。
「生きた人間を時空を超えて移動させるなんて、簡単なことじゃねぇ。肉体だけの話じゃない。むしろ、問題は魂の移動だ。
言ってみれば、肉体は単なる物質だが、魂はそうじゃねぇ。その世界の流れそのものに深く結びつけられてるのが、魂ってもんだ。それを無理に剥がして移動させようとなんてしたら、その魂は壊れちまう。だから……」
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