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しおりを挟むそうして、いくらかの不安を残しながらもヴィクトールは彼へノアの事情を説明し始める。
それは、なんだかんだで、ナツネを信頼している証拠でもあった。それが自分でもわかるあたりが、たまらなく忌々しいのだが。
◇
「異世界から……ねぇ」
説明を受けたナツネが呟いた一言に、ノアが少しばかり驚いた表情をした。
「信じてくれるんですか……?」
「まぁ、魔術師の世界じゃありえねぇ話でもねぇし……」
ヴィクトールは腕を組んで、ナツネに話を続ける。
「儂も異世界間の召喚に関する情報を一応あつめてはおるんだが、いかんせん情報自体が少なく――」
言いかけて、目の前の彼の様子がどことなくおかしなことに感付いた。ヴィクトールは片方の眉を持ち上げて訊く。
「……おい、どうした」
「へ? な、なにがだよ」
「なにが、ではない。落ち着きを欠いているだろう。まるで、なにか心当たりでも……」
台詞の途中で、ナツネがヴィクトールから目を逸らした。その動作が、ヴィクトールに確信を与える。
「――心当たりが、あるんだな」
「えっ? い、いやー、なんのことだか全然、もう全っ然わかんねぇなー」
棒読みだった。あまりの演技力の乏しさに、憐憫すら湧いてきそうになる。
が、ここで手を緩めるわけにはいかなかった。ヴィクトールは両眼を細め、相手を全力で睨みつける。
「今ここですべてを正直に話すのと、脳天に穴を空けられるのと、どちらがいい? 選ばせてやろう」
「だから選択肢がいちいち物騒っつーか……待て待て待て、こっち来るな! わかったから!」
ゆっくりと接近するヴィクトールにおびえて両手をばたばたと振ったナツネはそのまま片手で自身の目を覆い、天井に顔を向けた。
数秒後、彼は覚悟を決めたふうに目許から手を剥がし、顔を正面に戻す。
ナツネはいたく深刻な声調で述べた。
「……最初に言っておきたいのは、俺に悪気は一切なかったという事実だ。そう、悪気は一切なかった。一切だ! これは天に誓って――」
「さっさと結論を言え」
「ごめん、俺のせいかも」
室内に沈黙が満ちる。
柱時計の時を刻む音が、妙に大きく聞こえた。
ナツネはノアともヴィクトールとも目を合わせようとしない。それどころか、徐々に顔色が悪くなっていっていた。
我知らず、ヴィクトールの唇からため息が零れる。ヴィクトールは半ばうんざりとして言った。
「……事情を話せ」
「ほんとに悪気はなかったんだよ! まさかノアちゃんがそんなことになるなんて――」
「言い訳はあとで聞いてやる。今は事情を話せと言っているんだ」
相手の顔を片手で鷲掴み、ちからを込めて握ってやった。
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