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第3章 旅立ち

第14話 幕間 リタとルマーン革命

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◇◇◇◇◇

 植物の大精霊ミドリ(ミント)視点

 卒業年度の4月頭、場所は、学園の食堂で、リタの目の前には、リタの好物であるたくさんのドーナツが積まれていた。

『お~美味しそうやね』
「でしょ!私はこれの為に生きていると言っても過言じゃない!」
『ずいぶん安いですね……』
「いいじゃない、久々に帝都に帰ってきたんだもの」
『今回は長旅やったもんね』
「そう、だから自分への御褒美よ」
『しっかし、酷い有様やったね』

 今回回った村々は、収穫目前だというのに、天候の問題などがあり、殆どの麦が病気になっていたりと悲惨な状況だった。

「そうね、あの調子だと、また幾つかの村がなくなりそうね」
『うちの方でもやれることはやるけど……』
「うん、お願い、何とかしてあげたいよね」
『そうですね……』

 最初とは違い気分が沈んでいるなか、リタは1つのドーナツを食べ始めた。

 リタがドーナツを食べていると。

「なんだ、君はまたそんなものを食べているのか?」

 声の方を見ると、次期皇帝と言われている皇子だった。

「こんな物?こんな物でも私にとってはごちそうなんだけど?」
「君はこの国の誰よりもお金を持っているだろうに、もっといいものを食べたらどうだ?」

 リタの治療の腕を見込んで、貴族からの治療依頼も多いが、そこは貴族嫌いのリタ、貧しい者達にはほぼ無償の治療をするが、貴族からは法外の金額を請求してきたため、皇子の言う通り国一番のお金持ちになっていた。

「余計なお世話!あんたみたいなのが居るから!」
『リタ、一応皇子は、リタの身体を心配して言うてくれとるんやで』

 うちらはあの男が、入学当初からリタに想いを寄せているのを知っている。

 ことあるごとに、リタに声をかけては、リタの反感を買うという可哀そうな男だった。

『そうですよ……』
『あの男も不憫だよなぁ、好きな女に声かければかけるほど嫌われるとか』
『そうだねぇ~』

 火の大精霊イフリートのシュウと地の大精霊ノームのジャガイモも皇子に対して同情していた。

『あんたたち、うるさいよ』
『『『『はい……』』』』
「そうか、すまない……」

 皇子はしょんぼりして去っていった。

「お金あるし、パーッと使おう!」
『何するん?』
「麦を買って、困っている人たちに配る!」
『いいと思いますけど、良いんですか?』
「良いのよ、私が使うお金なんてたかが知れているもの、だったら余っているお金を困ってる人に分けたほうが良いでしょ」
『俺は、リタがそれでいいというなら良いと思うぞ』
『ぼくも~』
「よっし、決まりね、さっそく明日町の麦を買いに行きましょ、バックに入るかな?」
『バッグに入る心配とか、どんだけ買うつもりなん?』
「全部よ、全部」
『それをしたら町の人達が困りませんか?』
「大丈夫よ、麦なんて隣国からすぐに手に入るでしょ」
『さすがに、それは無いと思うぞ……』
「ついでに、あんたたちも働きなさい、ジャガイモは来年以降いいものが取れるように土を良い物にしてあげて、アオイもミドリも来年以降いい麦が育てられるようにしなさい」
『OK』『わかりました』『りょうかい~』
『俺は……?』
「麦を育てるのにあなたは必要ないでしょ」
『そうだが……』

 イフリートのシュウがしょんぼりしていた。

「よっし、決まったらさっさと行動に移そう!」

 翌日以降、リタは帝都をはじめ周囲の町にある麦をすべて買い占めた。

◇◇◇◇◇

 1カ月後

 とある村まで着ていた。

『学校行かんでええん?』
「学校より農民の方が大事でしょ」
『せやけど……』

 村に入ると、ちょうど麦を収めている最中だった。

「おまちください、全部持っていかれたら我々は……」

 農民の1人が、年貢の取り立てに来た男にしがみついていた。

「しらん!貴様らがちゃんとやらなかったから我々も少ない量で勘弁してやっているんだろうが!」
「そんな!」

 思っていた通りの事態になっていた。年貢を取り立てる側は村の麦をすべて回収するつもりのようだった。

『こりゃ、他の村も……』
「でしょうね、あの男殺せば麦取り戻せるかな?」
『あかんで!そないなことしたら領主を敵に回す事に』
「それもいいわね、農民たちも立ち上がるべきだと思うのよ」
『そうですけど……』

 リタが動く前に、1人の農民が鍬を振り下ろそうとしていた。

「その麦は、おらたちのもんだ!」

 そして、そのまま振り下ろし、取り立てに来た1人の男を殺害した。

『あっ……』

 大精霊の誰かが声にならない声を発した。

「十分!農民たちを守りなさい!」
『OK』『わかりましたっ』『おう!』『ほ~い』

 殺された男の仲間たちが、殺害した男に剣を向け斬りかかっていた。

 大精霊達も間に合わず、男が腕を斬られた。

「うわぁぁぁぁぁ~」

 農民たちも殺されまいと、近くにあった農具を構え、取り立てに来た男達を襲っていた。

 リタが、ケガをした男の元に寄りポーションでケガの治療に当たっていた。

「聖女様……」
「大丈夫?」
「おらは大変な事をしてしまっただ……」
「そうね、でも誰かがやらなきゃならなかった。じゃなかったらあなた達は飢えていたでしょ」
「んだ」
「だからいいのよ、声を上げなさい、行動を起こしなさい!じゃないと、あなた達が辛い事は誰も知る事ができないんだから」
「聖女様……」

 多勢に無勢、たいした装備もない取り立てに来た者達はすべて農民たちにより殺害された。

「殺してしまったものはしょうがない……、これからどうするかだ……」

 村長と村人が集まり話し合いをしていた。

「いいじゃない、麦をすべてとられた村の人達をこの村に集めましょ」
「集めてどうするんじゃ」
「一緒になって領主と戦うのよ」
「聖女様や、なぜ我々の味方を……?あなた様にとってこちらの味方に付く理由はないはずじゃ」
「そうね、私の母は年貢が納められずに見せしめと言う意味で殺されたわ……」
「もしや、ラマンサの里の……」

 リタが貴族嫌いになった切っ掛けとなった出来事を知っている村人が居た。

「そうよ、だから私は貴族を許さない!私達から食料を奪い、領民を守らずにのうのうと生活している奴らが!」
「おらは、聖女様について行きます……」

 最初に行動した男が言い出すと。

「俺も聖女様について行く!」
「私も!」

 次々とリタについて行くと言うものが現れ、最終的には村人全員がリタと行動を共にすることになった。

 その後は、圧政に苦しむ者達が次々とリタの元に集まって来た。

 1つの村での出来事がきっかけとなり、他の村でも同様に、圧政に苦しむ村人や領民達が立ち上がり、小さな火種が帝国各地に飛び火した。

 その結果、帝国全土で領民VS領主・貴族という構造が成り立った。

そして最初の事件から、6カ月後の12月迄には、既に多くの領地で革命側の手により領主が処刑されていた。

 リタのもとには、帝都で騎士をやっていた者、町で兵士をやっていた者、商人をやっていた者等重税に苦しむ者達が集まって来た。

 聞けば、親に剣を向けなければなくなったりして雇い主の領主から逃げ出したり、安い賃金でどうにか生活出来ていた状況だったが、麦などの食料品の高騰により生活できなくなったもの、理不尽な理由で財産を奪われた商人等様々な理由で集まって来た。

◇◇◇◇◇

 最初の事件から7カ月後

『ルワイライト領も領主が捕らえられ処刑されたようです』
「そう、十分ね」
『あとは帝都とピルマ領だけやね』
「そうね」

 リタの目の前には、強大な帝都の城壁があった。

「アオイ」
『はい、なんでしょう?』
「城で降伏案は出てないの?」
『出ていますよ。皇帝は反対ですが、皇子は賛成のようです。さらにほとんどの家臣も降伏を勧めています』
「そう」
『いよいよ終いやね』
「そうね、代表者3人で行きましょ」
「聖女様良いんですか?」

 リタの近くに居た農民代表の男が言った。

 彼は一番最初に行動を起こした男だ。

「構わないわ、相手の騎士と兵士達は居ない様なものだからね」
「すると、皇帝一族と、家臣の貴族達だけで?」
「えぇ、2人は精霊達が守るから安心して頂戴」

 革命軍のリーダー聖女リタと、農民代表ヲルグ、商人代表アリアで城に行くことになった。

 帝都の入口まで来ると、守っていた兵士が頭を下げ扉を開けてくれた。

 帝都の中を歩いていると、圧政から解放してくれるからという理由で殆どの民衆がリタを讃えていた。

「こういうのも悪い気はしないわね」
「聖女様、こういうときが一番危ないんですよ」
「わかっているわ」

 町の中央広場まで来ると、皇子と文官らしき人が居た。

「リタ、久しぶりだね」
「そうね、あなたは何故ここに?」
「交渉の為だ」
「交渉?」
「あぁ、我々はあなた達に降伏する。そしてこれからどうしていくのかを知りたい」
「そう、私達からいくつか条件があります」
「分かっている。可能な限りのもう」

中央の広場で、代表者同士の話し合いが始まった。

1,職種関わらず、収入の80%~90%の重税をやめ、税率を30%以下にまで減らす事、増税するときは必ず領民を納得させること。
2,年貢率を、畑の広さで決めるのではなく、収穫量の30%以下にする事、そして納める先は領主ではなく皇帝のいる城。
3,領主たるもの、領民の生活を第一に考える事。
4,帝国内の関所をすべて廃止。
5,種族関係なく、平等に仕事につけるようにする事。
6,けじめをつけるため皇帝の処刑。

 大まかには上記の6つが革命軍側から求められた。

「わかった。すべてを飲もう」

 条件を提示すると、皇子は迷いなく答えた。

「私達は、あなたの父親を殺せと言っているのだけど?」
「わかっている。われわれは敗者だ。どんな形でもけじめは必要だろ?」
「そうね」

 皇子はくやしさを滲ませたりすることなく、淡々と話しをしていた。

「この戦いの敗因は君が敵に回った事だろうな……」
「そうかもね」
「これで解散で良いかい?」
「えぇ」
「わかった。明日の朝、城前の広場で現皇帝の処刑を行う」
「後はあなたが継ぐの?」
「あぁ、そのつもりだ」
「そう、敵にならないことを祈っているわ」
「それはこちらも同じだ」

 そう言うと皇子は右手を差し出した。

「これは?」
「和解の証だ」

 皇子が言うと、リタがあまり気が進まなさそうな表情を見せた。

『これで終わりなんや、ええんちゃう?』
「そうね……」

 お互いにガッチリ握手を交わし、後にルマーン革命と呼ばれる戦いは幕を閉じた。
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