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第1章 プロローグ

第1話 プロローグ

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 私の名はラミナ。ルマーン帝国の中部、静かなルヴァ村で、祖母と両親と共に暮らしていた。
 私たちは農民で、父は村の狩人ブルックスと共に森へ狩りに出ることが多かった。
 ある日、父が森から帰ってきた。しかし、父は自力で歩くことができず、ブルックスに支えられていた。

「アマンダさん!リーシュが!」

 ブルックスが叫んだ。

 「なんだい、どうしたんだい」

 祖母が尋ねた。

 「森で狩りをしてたら突然倒れたんだ!」 
「ラミナ、布団を」

 祖母が私に命じた。

 「う、うん……」

 祖母の言葉に従い、私は急いで布団を敷いた。布団を敷くと、ブルックスが父を布団の上に寝かせた。祖母はすぐに父の額に手を当てた。

「すごい熱だね……」

 祖母がつぶやいた。

 「あぁ、倒れたときはそんなに熱くなかったんだが、連れ帰る途中でどんどん熱くなってな……」

 ブルックスが説明した。

 「虫にでもかまれたのかね……、まぁいい薬を用意しよう……、ブルックス悪いんだが、ミランダを呼んできてくれないかい?悪い予感がしてねぇ……」

 祖母が言った。

 悪い予感?

 その時、私にはその意味がよく分からなかった。

「あぁ」

 ブルックスが返事をするとすぐに外に出て行った。

「ラミナ……、うつるかもしれんから離れてなさい……」

 祖母が私に警告した。 

「うん……」

 その後、祖母が父に何種類もの薬を作り飲ませていると、ブルックスが再び戻ってきた。しかし、今度は彼の腕の中には、ぐったりとした母の姿があった。

「アマンダさん!ミランダも!」

 ブルックスが叫んだ。 

「ラミナ!」

 祖母が私を呼んだ。

 「うん!」

 祖母の指示に従い、私はもう一つの布団を敷こうとした。しかし、その時、母はすでに息を引き取っていた。そして、そのわずか2時間後、父もこの世を去った。私が5歳になる前に、謎の病で両親を失ったのだ。
 村でも他に5人が同じように倒れ、高熱で苦しみ、そして亡くなった。最初の症状が出てから僅か2~3時間で息を引き取る、その謎の病が私の両親を奪ったのだ。
◇◇◇◇◇◇
 両親の葬儀を終え、なぜお父さんとお母さんが……、と悲しみに暮れている時、突然、頭の中に声が響いた。

『ラミナ元気出しぃ、ウチが側におるから! と言うても聞こえてへんか……』

 その声は活発そうな女の子のものだった。

「ぇ?」

 私は驚いて周りを見回したが、声の主と思しき女の子の姿はどこにもなかった。

「どうしたんだい?」

 祖母が心配そうに私に尋ねた。

「今誰かが“ラミナ元気出しぃ、ウチが側におるから”って……」

 私が答えると、祖母はにっこりと笑った。

「ほっほ、その訛りは精霊様だねぇ、あんたも聞こえるようになったか」

 祖母の言葉に、私は驚いた。

「精霊様?」

 私が尋ねると、祖母は頷いた。

「そうさ、村でも、うちの所だけは雑草も生えない上に、良い麦が取れるだろ?」

 祖母が説明した。

 「うん」

 私が頷くと、祖母は続けた。

 「それは植物の精霊、ドライアド様が見守って下さってるからだよ」 
「そうなの?」

 私が驚いて尋ねると、祖母はにっこりと笑った。

 「そうじゃ、血筋なのかねぇ~リーシュも幼いころに声を聞いたと言っていたねぇ」 
「お父さんも? おばあちゃんも聞こえるの?」

 私が尋ねると、祖母は首を横に振った。 

「もう久しく聞いてないねぇ、少し精霊様にまつわる話をしようかねぇ」
 「うん、お願い」

 私が頷くと、祖母は話し始めた。 

「私の婆様が、精霊使いだったんだよ」
 「おばあちゃんのおばあちゃん?」

 私が尋ねると、祖母は頷いた。

 「そうじゃ、ラミナから見れば、ひいひいおばあちゃんだねぇ」 
「ひいひいおばあちゃんが……」

 私が驚いて尋ねると、祖母はにっこりと笑った。

 「そうじゃ、婆様はねぇ嘗て世界中を渡り歩いた冒険者でな、この村出身だった戦士の男と結婚しこの村に来たんじゃ、その時水の精霊ウンディーネ様、植物の精霊ドライアド様、地の精霊ノーム様、火の精霊イフリート様と一緒だったそうじゃ、だがなぁ、婆様が亡くなった時に契約が切れウンディーネ様、ノーム様、イフリート様はどこかに行ってしまわれたようなんじゃが、ドライアド様だけはそばに見守り続けてくれてるらしいんじゃ」
 先ほどの声はドライアド様だったのだろうか?

「そうなんだ、それじゃあさっきの声は、ドライアド様? 今もそばに居るのかな?」

 私が尋ねると、祖母は微笑んだ。

 「ラミナが声を聞いたというなら居るかもしれんねぇ」

 耳を澄まし、もう一度声を聞こうと思ったが頭の中に響いてくる声は聞こえなかった。

「精霊様の声は聞こえないよ?」

 私が祖母に告げると、祖母は深く頷いた。 

「そうかい、時期も時期だし、今週末の洗礼の儀で精霊使いのスキルが発現するのかもしれないねぇ」 
「スキル……、1人1つ必ずもらえるというあれ?」

 私が尋ねると、祖母は頷いた。 

「そうじゃ、婆様も精霊使いだったし、ラミナも受け継ぐかもしれんね」

 両親が亡くなり暗くなった心の中に小さな明かりが灯った気がした。

「そうなのかな!?」

 私が祖母に尋ねると、祖母は微笑んだ。

 「精霊使いが身に付くといいねぇ」
 「うん!」

◇◇◇◇◇◇
 週末
近くにある大きな町ハーヴァからキャラバンと共に巡回神父がやって来た。

いつもは村長宅で勉強を教えてくれるのだが、今日は違う、今年5歳になる子どもと保護者が集まっていた。
といっても、村長と神父、私とおばあちゃん、そして同い年のフォウルとその両親だけだった。

「今年は2人ですかね」

 神父が尋ねた。

 「そうです、神父様お願いします」村長が答えた。 

「わかりました。どちらからやりますか?」

 神父が尋ねた。 

「俺からっ!」

 フォウルが即座に手を上げて答えた。

「ラミナ君もそれでいいですか?」

 神父が私に尋ねた。 

「はい」

 私は答えた。

「そうですか、それではフォウル君、私の前に」

 神父が指示した。

 「おう!」

 フォウルが神父の前に行くとき一瞬こちら見て笑った。

 正直、いつもいたずらばかりしてくるから私はフォウルが嫌いだ。

 神父の前にフォウルが立つ。

「では、フォウル君、目を閉じて主神の御言葉に耳を傾けなさい」

 神父が指示した。

 フォウルが目を閉じ跪いて祈るような体勢を取った。 

 次の瞬間、フォウルが淡い光に包まれ、そして消えた。

「フォウル君もう結構ですよ、目を開け立ち上がりなさい」

 神父が指示した。

 「よっしゃーーー、剣士だーーーー!」

 フォウルは立ち上がると同時にガッツポーズを取り叫んだ。

「フォウル君静かに」

 神父が注意した。

 「ごめんなさい……」

 フォウルが謝った。

 「両親の元に戻りなさい」

 神父が指示した。

「はい」

 フォウルが答えて両親の元に戻った。

「ラミナ、こちらに」神父が私を呼んだ。
 「はい」

 いよいよ私の番だ、何がもらえるか分からないけど、精霊使いが欲しいと心の底から思った。
 先祖が持っていたスキル、精霊達とやり取りできるスキル、両親を失った代わりと言っては精霊様に失礼だが色々な話をしたいと思っていた。

 神父様の前に跪いて祈った。

「いいですね、それでは主神の御言葉に耳を傾けなさい」

 神父が指示した。 

「はい」

 返事をした瞬間、夜空の星々が浮かぶ宇宙空間にいた。

 そこには綺麗な銀髪ストレートヘアの女性が居た。

 その女性が私の前まで来ると両手を上げ大きな声で叫び始めた。

「星々の輝きよ、我が言葉に耳を傾けよ。我が友よ、汝の魂に我が力を授けよう。知識の泉よ、泉から流れ出て、汝に注がん。”精霊使い”これを汝に授けよう。 運命の糸よ、新たな旅路を紡ぎ、ラミナの手で未来を形づけよ。我が友よ、汝は今、新たなスキルとともに立つ。 汝の心強さと知恵で満たされ、星々の証言とともに、汝の新たな旅が始まる」

 女性が言い終えると、女性の手から白い火の様な物が私の身体に吸い込まれるように消えていった。

 次の瞬間。

「もう結構ですよ、目を開け立ち上がりなさい」神父の声が聞こえた。
「はい」

 私は答えた。

「大丈夫ですか?」

 神父が尋ねた。
 何について大丈夫と聞かれたんだろうか?

「えっ?何がですか?」私が尋ねると、神父は微笑んだ。
「いえ、普通の方と違う輝きを放っていたので」

 目を閉じていたし自分がどのような輝きを放ったのかが分からなかった。

「そうなんですか?」

 私が尋ねると、神父は頷いた。

「えぇ、念のため何のスキルを授かったのですか?」神父が尋ねた。
「精霊使いです」

 私は答えた。

「ほぉ、それは珍しいスキルを授かりましたね、アマンダさん確か……」

 神父が祖母に尋ねた。

「えぇ、私の婆様が授かったスキルでしたねぇ」

 祖母が答えた。

「ラミナ君、よく聞きなさい、精霊使いは100年以上授かる者が居なかったスキルです。これからあなたには色々な試練が訪れるでしょうがめげずに頑張ってください」

神父が私に告げた。

「はい」

 私は答えた。

 どんな試練が来るのだろうか?

 しかし、それよりも何よりも、私は楽しみでならなかった。

『やっと話が出来る!』

数日前に聞いた女の子の声が再び私の頭の中に響いた。その声は、まるで春の風のように、私の心を優しく包んだ。

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