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③ヒーローは遅れてくるもの

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教室にて

 そんなこんなで明日の放課後になった。
 教室で鞄に教科書を詰めている。その時に早く行こうと言わんばかりの圧をかけてくる、塁の態度を流すことは出来ずに、急いだ。

「丁度欲しいゲームあるから」
「それも買う」と塁は言葉を出した。

 二人は教室を出て廊下を歩いている。

 塁は、放課後に難波へ行くのは久々である。この前は嫌な記憶しかない。ゲームを買う金をとられた、嫌な記憶。つまり、カツアゲに会ったのだ。今日はそうならないように。ひっそりと自分の存在感を消しながら回ることを決める。嫌な思い出を湊音には何も話さない。

「また、買うの」
(ってこいつ、ゲームを買うついでにパソコも買うって感じか。こういう所は好きには慣れない)と湊音は思う。

 だが、それを超えるくらいに塁のいい所がある。

 下駄箱で靴を履き替えながら話している。

「いいだろ」
「自分の金だし」

 高校の門を出て駅に着く。
 電車に乗り。
 難波を歩いていると。
 閑散としていて人もまばらにいる。やっぱりここの空気は違うな。独特の高揚感が湧いてくる。自分の好きなものばかりである。

 「あれ、この前の」

 急に声をかけられた。
 塁たちは、見た瞬間に、考えがまとまる。

「逃げるぞ」

「待てよ」

 塁はこの後、何が起きるか予想をできる。なぜならこの前と同じことがあったからだ。
 塁は必死に走っている。湊音も事情が分からないが走っている。色々な通りを走りながら駅に向かっている。湊音は塁の後を付いているだけだ。後ろからは鬼の形相の同じ制服の奴らに追われている。
 裏路地に逃げ込み巻いたかと湊音は塁に聞く。
 巻いたみたいだなと塁が感じたのもつかの間。

「見――つーーけた」

 その声が自分たちの心臓の鼓動を止める。恐怖の言葉である。
 裏路地の一角で逃げ場がない。立ち向かう勇気もなく。素直に命令を聞く。

「少し話そうぜ」


店と店をつなぐ裏路地にて。
 周りには、ごみの入れ物や、酒等の瓶の入れ物なんかもある。
 四人が揃い一人は見張り役で裏路地のここへ誰も来ないように見張っている。
 四人いる中の喰沼貴志が口を開く。

「財布出せよ」
「それと、学生書な」

 この一言で何も言えなくなる。財布と学生書を素直に喰沼貴志に渡す。喰沼貴志は、金髪でピアスをしている、いかにも不良少年である。制服のブレザーでななく、上着は着ずにカッターシャツに腰にはベストのニットが巻かれている。色は白よりの肌色である。

「俺にも見してくれよ」

 折神啓太が口を開く。黒のセミロングの少年。制服のブレザーではなくカッターシャツにベストという具合だ。色は紺である。

 喰沼が折神に財布を渡す。

 日比谷薫が金を持っていた少年に対して壁をけり威嚇をしている。

「お金を渡すので許してください」と二人は泣きそうな顔で懇願する。

 折神が壁を蹴りつつ金を持っている奴に聞くが怖くて二人の少年はおびえている様子である。それもそのはずこの四人は賀茂高校でも有名な不良グループである。以前に大きな喧嘩をして二十人の大学生と喧嘩をして勝ったという戦歴さへもある。噂では半ぐれグループがスカウトするんじゃないかという具合の噂も流れるくらいである。

「俺ら四人は、加茂高校三年だ。知ってるだろ。今回が初めてじゃないんだし、後輩から金を巻き上げるなんて当たり前だろ、それとも金を渡さずにボコられるほうが、お望みかな」

 両手を合わせて、ぱきぱきしている。こいつらは、喧嘩をするよりも今日の遊ぶための金を欲しがっている。たまに、ストレス解消で暴力にでることもあるそうだが、金のほうが好きである。

「すみません見逃してください」

 勇気を振り絞って塁が助けをこう。気弱そうで、今にも漏らしそうなくらいビビっている。その気弱そうなやつが喋ったからには相当な勇気である。

「じゃあさあ、百万持って来いよ。同じ賀茂高校に通っているよしみでな」

 話ながら、塁を蹴飛ばす。塁は蹴られて後ろに転がる。蹴られたところがはれ上がっているんじゃないかというくらいの痛みが走ったが。声にできない声でなく。

 この前のこいつらからのカツアゲは素直にお金を渡して逃げてきたが、今回は二人で情報処理部のパソコンを買うお金を持っている。それも、五万、高校生で五万といえば大金である。

 湊は、この五万を隠すために自分の財布を出す。財布に一万円程度ある。この金を渡せば、隠し通せると感じている。湊音は自分自身の金をとられることは仕方ないとあきらめている。でも、この皆の部費は守り通すと心に決めた。

 塁は金をとられるよりも、いつも、こいつらは俺を下に見て暴力を振るってくるのが、許せない。
 塁は(湊音は、何もされないのに俺だけ蹴りやがって)と思っている。

(何でいつも俺だけ、痛いよ)と塁の心の声が聞こえるようだ。

「今日も有り金すべて貰うからな」
 日比谷が大声で話す。日比谷薫は短髪の黒髪でいかにも体育会系ですと言わんばかりの感じだ。制服を着ていてブレザーの前のボタンを付けずに広げている。

 恐怖で手が震えながら恐る恐る財布を出す。

 これは、尋常じゃないくらいの恐怖である。まるで、ナイフを突きつけられているくらいの恐怖を纏っている。

「財布です」

 湊音は恐怖に満ち満ちている。

 喰沼が湊音の財布を見た瞬間。

「君達何しているのかな」
 女の人が颯爽と現れる。セミロングに茶色い髪に顔立ちは綺麗な感じのカッコイイ、お姉さんという感じだ。服装は意外とラフな感じで、よくファッション雑誌で見る感じの服装である。

「やっべ、見られたぞ」
「どうする」
 日比谷が慌てた感じで言い放つ。

「海崎千太はどうしたんだ。外を見張っているはずだろ」
 喰沼は海崎のことを心配しながら慌てて尋ねる。

「少し気絶してもらってる」

「何だよ、あいつ使えねえな」

 折神が舌打ちをしながら言い放つ。
「俺があのおばさんをぶっ飛ばすよ」
 日比谷が自信満々で口を開く。こういう時は俺の役目だと言わんばかりに、すぐに戦闘態勢を取る。
「女なんかに負けるかよ」
「この俺様が」

 日比谷は自分の感情に凄い素直である。その直感は、言葉が悪いが、戦ってみたいと感じている。

 そう感じたのは、争わせようとしている謎の声が聞こえるからだ。その声とはいったい誰かなのかは、今は、分からない。ただ、あいつを殺せと日比谷の心にけしかけている。そんな奴がいることをおばさんこと、小桜だけが知っていた。

 しかし、一つ言えることはこの声の主は正義ではない。

「おばさんか、君達にはそう見えるのか、お姉さんと呼んで欲しかったかな」
 そう話している間に日比谷が女の人を目掛けて拳を握る。瞬間、日比谷が地面に叩きつけられる。

「誰が、おばさんに負けないって」

 喰沼が湊音の財布を湊音に投げつけて、お姉さんに挑もうとしている。

 喰沼と折神が二人係で拳を握って走ってくる。

 二人とも手刀で倒される。

 日比谷は起き上がり怒りに満ちて向かってくる。

「まだ、やるの、こんなに実力差があるのに」
 女の人は手を振り、あきれていたようである。
 この時の小桜はわざと日比谷をたきつけるようなことを言う。なぜ、そのようなことを言ったか。それは、自分自身にも分らなかった、ただ、正義という言葉はおこがましいが、許せなかった。それだけだと思う。

 この時に日比谷が、ぶちぎれる。こんなに腹が立ったことは何年振りか。血が騒ぐ。
 そして、謎の声が一段と声が大きくなる。

「まあ、相手になってあげるよ」

 ため息交じりの言葉である。
 お姉さんはこの時にこの子らの行くべき道を外れていることを忠告したかったが、怒りで我を忘れている状態では、意味をなさないということを知っている。

 それで、聞くようならこういうことはしないし、自分の力量を考えるべきだ。それが出来ないほど怒りに満ちていたのは。後で分かるが、


ある存在(声の正体)が大きい。


「うるさいんだ、ばばあが」
 喰沼と折神が日比谷を取り押さえる。折神は状況的に不利だと感じて日比谷を止める。喰沼は心が折れてしまっている。まるで、蛇に睨まれた蛙のごとくだ。

「俺達じゃ、無理だ、逃げるぞ」
 日比谷を無理やり喰沼と折神が連れて帰ろうとしている。必死に抵抗している日比谷を連れて帰るのは苦労する。だが、このままにしたら、あの、ばばあが、こいつを痛めつけるに違いない。こいつのそんな所を見たくない。

「お前たち覚えとけよ」
 鼻息交じりで今にも顔から火を噴きそうだ。

「この借りは絶対に返すからな。待っとけよ、ばばあたち」
 海崎をたたき起こして四人は逃げて行く。

「大丈夫、君達」と小桜は、優しく声をかける。
 声は凛としていて、顔も結構綺麗目だ。少しこのお姉さんに助けてもらったのは、気恥ずかしくは思える。

「大丈夫です」
 塁と湊音は同時に声を出す。恐怖から解放されて安心した声色である。胸をなでおろしている二人、それをお互いが見て笑いあっている。こういう時にはまず、お礼を言うのだが、それを忘れさせるほどの恐怖から解き放たれている状態だった。

 少し間があいてから。

「助けてくれて、ありがとうございます」
 二人は頭を下げた。心からの感謝である。

「何でお姉さんは僕たちを助けてくれたんですか」
 疑問に思いながら湊音は答えた。実は心の中で藁にもすがる思いでいた所をこのお姉さんが登場する。まるで、アニメの敵を蹴散らし助けにくる、王子様だ。女の人だから王子ではなくプリンセス。戦うお姫様だ。

「そう、おばさんじゃなくてお姉さん、君たちはいい子だ」

 湊音は、お姉さんがその言葉であきれ顔だったのが、笑って頭を撫でてくれている。笑顔だ。それほどお姉さんと呼ばれるのがいいのかと考える。それで、助けてくれるのなら何度でもお姉さんと呼びたいところだ。と湊音は思う。実は湊音は一目ぼれをした、このお姉さんは強くてカッコイイ。自分とは正反対の人間である。だから、じゃないけど好きだ。憧れや尊敬の類なのかもしれないが、自分でも分からない感情がある。

「じゃなくてなんでなんですか」

 湊音は少し動揺しながら、おどおどと言い放つ。
恐怖から解き放たれると今度はこのお姉さんを疑いだす。本当に助けてくれたんだろうか。金をとられるんじゃないかと。次の恐怖がいくつも増えていく。


「私はヒーローです」


 どうだと言わんばかりに言い放つ。これは、子供相手だから言えることだが、僕達に向かって、ヒーローとはおかしい。でも、お姉さんは、このセリフを吐くのが気持ちいんだ。と顔の表情と声から察する。

「じゃあ何でもっと早く助けないんだよ」
 塁は不機嫌そうに答える。まるで、子供のような言葉を発している。これにはちゃんとした意見がある。この塁は、いつも貧乏くじを引くタイプである。財布は塁だけ盗られている。

「お前な、助けてもらっておいて」
 湊音が怒った感じで言い放つ。でも、湊音も何で助けたのかが気になり、それを茶化しているお姉さんに不安を持っている。

「じゃなくて、なんでなんですか」
 理由を先延ばしにしていることにいら立ちを覚える。言えない理由でもあるのかと不安でいっぱいになりそうなくらいになる。


「まあ、君たちが辛そうで、限界に近づいていたから」



 お姉さんは悲しそうな顔で声のトーンも小さくなっている。前からこの二人には気を付けていたという風に聞こえるが、真相はお姉さんの中にしかないために確かめようがない。

「だから、助けた」
 塁は明らかに不満そうな顔色をしていて、湊音は笑っている。

「何、怒ってるんだ、助けてもらったんだぞ」
 湊音が間違って怒っている塁を注意する。助けてもらって逆に怒るってないだろと自分が同じ立場でそういう風な態度を取られると怒ってしまうが、このお姉さんは本当によくできた人なんだと思う。怒らずに笑ってくれている。

「君たちは近く憎悪になりそうだから、名刺を渡しとく」
 お姉さんは名刺を渡す。

 花園は素直に貰ったが、桜美は不機嫌そうに貰っている。

 その名刺にはお姉さんの名前と連絡先と相談屋という文字が見受けられる。


「名前は小桜舞」


 二人はありきたりな名前と感じている。
「まあ、気が向いたら連絡して、迷っていることがあるなら聞くからさ」
 手を振り二人の前から消える。

 塁はその場で名刺を破り捨てる。塁がその行為に至ったのは自分だけ金を盗られてから、お姉さんが来るのが遅かったことについて腹が立ったから。湊音は安心したようにポケットに忍び込ませる。

(また、お姉さんに会えるかな)

 秘かなお姉さんへのあこがれがある。
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