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⑱梨花とバイク

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 あくる日
また、一人花壇の前でかがんで花を見ている。
「何してるの」
籠屋は言葉を出した。
「あっ先生」
田中梨花は笑顔でこちらに向かってきた。
「ここで、こうしてたら、また、話しかけてくれるかなって」
素直にうれしい言葉である。
「そんなに、話したいなら。友達でも作れよ」
お前が言うなと突っ込まれてもいいくらいだ。籠屋は少し心にとげが刺さった。
「めんどくさい」
顔をぷいっと、こちら側から反対側に顔を向けた。
「先生はどうだったの。友達いた」
「いなさそうな感じがする」
「いたよ、一人だけ」
「今は・・・・」
神部夫妻は、二人でいいんだよな。
「七人いる」
「へーーーーーー」
少しびっくりしているようだった。七人って言うのがリアルな数で素直に受け入れたんだろうか。
「何で友達っているんだろうね」
「別にいなくても平気だし、私は」


「自分にない価値観を教えてくれる」と景は真面目な顔をする。
真面目なトーンで話した。これは、籠屋も気づいたことだから。田中梨花にも言葉を渡す。友達はいてもいなくても同じかもしれない。でも、友達が出来ると世界は広がる。今のこの高校が嫌ならそこを飛び出して友達を作るべきだ。きっと、今のままの自分を受け入れてくれる人が現れるから。俺のツーリング仲間のように。


「先生は自分にない価値観って何」
顔をこちらに向けて目をじっと見ながら話している。

「一緒に何かを喜ぶことが出来る友達が出来た。話を聞くだけでも自分の知らないことや出来事を話してくれる。その話が自分の価値観を変えてくれるんだ」

この体験はしたものにしか分からない。でも、一歩を踏み出す勇気をもってくれるんなら手を繋いで一歩を踏み出してもいいかなと言うこともできる。
「昔は足を怪我してゲームに逃げたけど」
「今は、バイクを買ってツーリング仲間が出来た」
「これが、楽しんだよ」
田中梨花は籠屋先生のこんなに明るい、嫌、楽しそうな顔を始めてみたかもってと心の中で思う。
「へーーーーーー」
なんだか私も嬉しくなってくる。やっぱり、籠屋先生はいい人だ。と田中は思う。
「じゃ、私もバイク乗ろうかな」
「乗るには卒業しないとな」
「はい」
大きなはいではなかったが、心地いいはいである。
「今度乗せてよ後ろに」
「一年たたないと無理なんだよ」
「でも、乗せないから。後で問題になったら嫌だからな」
本音を少し混ぜて引き下がってくれることを願う。
「こんな美少女を乗せれる機会なんてないかもよ」
「どこにいるんだよ、そんな美女」
「先生でも冗談言うんだね」
「まあな」
こんな会話でいいんだ。これを友達を作ってしてほしい。きっと、自分の人生が変わるから。きっと変わるから。
「でも傷ついた」
「これは、何かで返してくれないと」
「ジュース奢れてっか」
「嫌、その、バイク仲間に会わせて」
意外な言葉が出て驚いた。
「いいぜ、それで、友達がいるかどうか判断するんだろ」
「あたり」
とびっきりの笑顔だ。うわ、すげー楽しみにしている。どうするよ。
「先生の笑顔が本物かどうかを見てあげる」
「お前は俺の母ちゃんか」
「それでもいいわよ」
「わっはははっは」
言葉を交わすってこんなにも楽しいだろ。最初の一歩は俺が手助けしてやるけどその後は自分で頑張れよ。
「先生は背も高いし顔もいい」
「何だよ急に」
「でも、頭はぼさぼさと、そのオタクっぽい所を直したらイケメンだよ」
「私達のクラスにも隠れファンいるんだからね」
恥ずかしそうに話している。こいつは何を言いたいんだ。
「でも、先生の良さはそこじゃない」

「人の痛みを分かっている所だ」

「だから、こんな私にも優しい」
「痛みを知っている人が先生でよかった」
「私も籠屋先生みたいに教師になろうかな」
俺と同じだ。
教師に救われたんだ。俺も昔、ある教師と出会って変わった。それを俺が今度している。そして、この子が教師になり又、人を救う。そんないい循環が出来きるのだ。
事実に自分でも驚く。
俺は、変わったな自分でもわかる。ツーリング仲間のおかげだ。本当に良かった。
「目標は大事だ」
「俺は教師になったことは後悔していない」
「何で教師になったの」と梨花は不思議そうに聞いた。
そうだな、どうしてか。それを話と長くなるから。言葉を避ける。

そうだ、いつからだろう教師になろうと考えたのは。
そうだ、高校に入って、ゲームばっかりして友達を作らずに一人でいた時に、その時に声をかけてくれたのが五条先生だ。
そうだ、その先生に会ってからだ。自分の目標の為に頑張ろうと思ったのは。
それが無かったら俺は今頃、ニートかひきこもりだった。
そうだ、俺の人生を変えてくれた先生の存在がいる。
彼女も俺という教師の存在で人生が変わるんだろうか。
友達を無理に作れとは言わん。でも、後悔はしてほしくはない。
だって、大事な自分の人生だから。
きっと、仲間の大事さが分かるはず。
俺は、ようやく一歩を踏み出せる。
きっと彼女も俺のツーリング仲間と会って分かるはず。
嫌、どうだろ。
どうだろ。

「先生どうしたの」
待て
どうだろう。
「先生、私帰るね」
「おう、今日は寄り道せずに帰れよ」
「また、補導されたらよろしくね」
「おい」
真剣に突っ込んだ。
「分かってます」
ごめんなさいという声色で言葉を返す。
「先生さようなら」
「さようなら」 

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