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⑯教師と生徒

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 時は変わり。九月中旬
夏の暑さは過ぎ過ごしやすい季節に移行する。ちょうど太陽が西の空へ消えようとしている。そんな中、籠屋達教師人たちは挨拶習慣で生徒一人一人に挨拶をし、校門から家路に帰ろうとしている生徒に声をかけている。
「先生さようなら」
生徒が手を振りながら校門を出て行く。
「ああ、さようなら」
籠屋景もまた手を振り校門の所に立っている。
これは、先生が毎日かわりばんこにする学校内のルールだ。
「先生、今度バイクの後ろに乗せてもらえませんか」
ある少女がバイクに関心があるのか、それとも俺にと少し舞い上がってしまう。しかし、生徒は生徒だからきちんと言葉にしてお断りする。
「ああ、無理なんだ」
これを言うのは三人目である。
「そうですよね」
少し残念がりながらこちらを見ている。
「生徒を乗せるのは良くないですよね」
「まあね」
実は一年たってないから二人乗りは出来ないんだというよりも。簡単に引き下がってくれる言葉を選んだ。
生徒だから変な誤解を保護者にも高校にもさせないために断る。
生徒がまばらになり少し花壇の方へ足を運んだ。
そこで、花壇を見ながら壁に寄りかかっている生徒を見つける。
今までの俺ならスルーしていたが。
なぜか、生徒の表情が深刻だったから声をかけることにする。
「あっ先生」
籠屋が近づいてくるのを察知してその生徒はこちらに顔を向けて言葉を出した。
「まだ、帰らないの」
少し驚いた籠屋は丁寧な言葉を出した。
「帰りたくないんだ」
この少女には何か問題があるのか。もしも、不安や悩みがあるのなら聞かせて欲しい。そういった人生についても相談にのる。でも、俺じゃ、何の役にも立たないか。そんな凄い経験をしてきたわけじゃないし。
「なんで」
籠屋は教師としてこの子に言葉をかける。
「秘密」
下を向き花を悲しそうな目で見ている。まるで、自分がこの世界には不必要だと言われているような目をしている。
「そうか、秘密か」
「先生の秘密を教えてくれたら私の秘密も教えてあげる」
笑顔でこちらを見ている。でも、その裏に隠された悲しい顔を隠している。
そういう思いに気づけるようになった。
「そうだな」
この子が秘密をうちあけてくれなくてもいい、少し肩の力が抜けるようなそんな話をしよう。あのツーリングの時みたいに話をしよう。
「昔な先生は挫折したんだ」
その女子生徒は、徐に顔を上に上げる。そうしたら女の子が上を向いてくれる。そう、下ばっかりみるな。上を見ろこんなにも世界は広いんだぞ。お前のそのちっぽけかは分からないが悩みも吹き飛ばしてくれるんだぞ。今は分からなくてもいい、きっと気づくときがくる。そんな願いを込めて言葉にする。
「色んな人に迷惑をかけた。今思えばだけど」
「でもね、最近やっと一歩を踏み出したんだ」
言葉とは不思議なものだ。昔の思い出を語るのに年をとればとるほど昔が懐かしく、言葉も語りも変わってしまう。
「へーーーー」
顔の表情が変わった。
「で、お前の秘密は」
「教えなーーい」
無邪気なもんだ。あんなに深刻そうな顔つきだったのが一瞬で顔がよくなる。きっと思いが届いたんだ。
「まあ、気を付けて帰れよ」
「はーーーーーーい」
何か色々と悩みはあるよな。あの子だけじゃない。この年の子は色々なストレスに関わり合いが出来る。昔はよかったなって俺は感じる。それは、大人になったんじゃなくて爺になったのかもな。それだけは言いたくないが事実である。その事実を景は受け止め、気分が落ちる。
「さあ、バイクに乗るか」
まだ、夏日のような暑さは下がり、いいくらいの夕方になった。
バイクを走らせて帰宅する。
途中で弁当を買いにコンビニに寄った。
弁当を選び、雑誌を買った。
家に入ると。誰もいなくてシーーンとしている。
「彼女でも作ろうかな」
と思わせるくらいに神部夫妻の仲良しに嫉妬する。
BGM替わりに家のテレビをつける。
買ってきた弁当をレンジでチンしながら、お湯を沸かす。
その時だった。電話が鳴る。
電話が鳴ることはあまりないもので、驚いた。凄く間抜けな顔になっていたんじゃないかと思うほど驚く。
すぐに電話に出る。
「あ、籠屋先生、良かった電話が繋がって」
これは、教頭先生である。これは、意外な電話で俺も少し焦る。
「どうかしたんですか、四谷先生」
四谷先生は教頭というと怒る。だから、皆は四谷先生と言っている。
「一人補導で交番に連れてこられたうちの生徒がいるそうなんですが」
この時丁度、湯が沸きあがる。
「行ってもらえないですか」
困っているようだったから了承をしようと考える。
「分かりました」
「場所は」

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